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湖畔の小屋

やがて、湖のような場所に来た。湖畔には小屋が有り、その前で巨人は歩みを止めた。


「カムイ」ユユリは小屋の前で立ち止まり、ドアを開けようか悩んでいるように見えた。「人がいる」


「対話は出来たのか?」


首を振ってユユリは言った。「なぜか聞く耳を持ってくれない。たぶん、女の子が目覚めない限り話に応じてくれないと思う」


「あの子は」とリュウシュウハは問いかけた。


「彼が湖畔に寝かせたら小屋の中から人が出てきて中に連れて行った」ユユリは不可解という顔つきで答えた。「もしかして」


「どうした?」俺はユユリの表情に違和感を覚えて訊いた。


「ん。たぶん勘違い。それよりどうしよう。小屋の中にいる人は猟銃を持っていたよ」

全員に緊張が走る。精霊の能力が幅を効かせる世界でも物理的な暴力は人類にとって相も変わらず脅威である。


「制圧するだけなら簡単なのだがな」ステッラは物騒なことを事もなげに言ってのけた。


「俺が行こう」さすがに女性に特攻役を任せるわけにはいかない。ここに男は俺1人しかいないのだから。


「ユユリなら銃弾は当たらないよ。向こうの世界に実体を置けば良いから」


未だに精霊とこの世界の関係がよく分からない俺にとってユユリの言葉はまるでSF映画の台詞に思えた。


「とにかく対話や交渉が必要になるなら俺はいかないとな」


「じゃあユユリと2人で。いつものコンビだね」ユユリは嬉しそうに言った。


「我々はここで巨人の動向を監視している」リュウシュウハはジャンヌを上空に待機させたまま言った。「攻撃が始まったらとにかく逃げてくれ。ジャンヌの炎はこちらの世界にも届くから」


頷いて小屋へと向かう。リュウシュウハはこの世界と精霊達の世界の違いを説明できるのだろうか。そんな疑問を抱きつつ小屋の前まで来た。ノックはした方がいいだろう。


ノックの後には沈黙があった。内部から足音が聞こえるということもなく、ただ静かな時が流れた。


「ユユリ」


「な、何かな⁈」突然話しかけたせいか、ユユリは動揺を見せた。


「もしかしてドアをすり抜ける事は出来るのか?」


腕を組んでからユユリは答えた。「何て言うかな。向こうへ行くと座標がずれるから混乱するんだよね。もちろんすり抜けられるけれど」


「今はこちらに居る事になっているのか」


ユユリは頷いてから言った。「例えば僕にとってのカムイの中は一番座標がずれない場所なんだ。だからもし向こうへ行くならカムイを経由してから行くと間違いない」


俺自身が異界への扉になるという事か。しかし、実際に精霊との戦闘時にはこちらの人間もダメージを受ける。つまりこちらの世界にいるという事になるのか。あるいは両方の世界にまたがる存在なのか。

「その辺りを説明するのは難しいけれど、概ね当たりだよ。向こうの世界に行ったきりになる事自体が少ないかな。僕が行ったとしてもカムイや精霊使いには認識されている。けれど物理的干渉は受けない。幽霊みたいな存在になる。そしてここが大事なんだけれど、向こうへ行った僕からは精霊と精霊使いと向こうの世界しか見えない。だから扉はすり抜けられるけれどあまり意味がない。そしてカムイを経由してからしか向こうの世界へは行けない」


つまり偵察の意味がないと言うことか。何となく言った台詞が精霊の秘密の一端を知る機会になったのでそれ自体は収穫であった。だが、さてどうするか。


「別にすり抜けなくても大丈夫だよ」とユユリは唐突に言った。「ほら」


そう言ってユユリはドアノブを引いた。簡単に扉は開いた。鍵がかかってるいなかったからである。


「俺が馬鹿みたいじゃないか」


「そうだね」と言ってユユリはクスクスと笑った。



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