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隊長の繭

カフェのオーナーは目覚めた俺を抱きしめ、大げさに喜び、英雄を泊めた部屋を観光名所にするとまで言い出した。宿代を払おうとするも頑なに受け取らずーーそもそも俺には払うだけの身銭がないので、時折ステッラに目配せをしたのだが、結局オーナーの意向通りになった。


礼を述べてカフェを出ると監督が待ち受けていた。自力で責務を果たせなかった事を詫びると、いつか一緒に仕事をしようと手を差し伸べてきた。俺は快くその手を取り別れを告げた。


「さて。何処へ向かうつもりだ」壊れた東門のそばでステッラは仁王立ちで言った。背中に背負った大きめの鞄をさりげなくフィーリアが支えている。


「最終目的地はバベルだ。だがその前にゲヘナで精霊復活の技術を知りたい。そしてゲヘナへ向かうには神聖アガルタ帝国にいる友人の助けが必要になる」リュウシュウハは補足説明をした。


ほぼ世界一周の旅になる。


「途方も無いな」俺はつい本音を漏らした。


「僕はカムイと一緒に旅行が出来て嬉しいよ」ユユリはいつのまにかステッラに仕立ててもらった着ぐるみを着ていた。


トリアルを出る手続きを済ませたジジは馬車を回して俺たちの前に付けた。


「港町に着いたらまた買い出しだな」リュウシュウハは馬車の扉を開けて言った。「水路を行く方が早いんだが、衛兵から物騒な話を聞いたからな」


「怪物でも出るのか」俺は軽口を叩きつつ馬車に荷物を運び入れた。


リュウシュウハが目配せをするとジジは話し出した。


「ええ」ジジは馬車の荷室の扉を閉じて言った。「水路のどこかに巨人が出るそうです」


「ゴーレムも充分大きいよ」ユユリは荷物の積み込みを終えたゴーレムを見上げて言った。


「その話なら聞いた事がある。水路を行く行商人が噂していた。だが今のところは目撃情報だけで被害と言えば驚いて逃げた連中が勝手に落とした積荷くらいか」ステッラは馬車に乗り込みつつ言った。「だが陸路なら大丈夫だろう。死人が出たという噂も聞かないし」


全員が乗り込んだところで馬車の扉をノックする者がある。警備隊の隊長であった。


「これを」扉を開けた俺に隊長は言った。「礼だ。受け取ってくれ」


簡素な堤の箱を手渡されたが、中身も確認せずに俺は礼を言った。


馬車が走り出すと警備隊の面々が躍り出て俺たちに向かって敬礼をした。


「何をもらったの」ユユリは警備隊そっちのけで箱の包みを破り出した。


「行儀が悪いぞ」


「金目の物なら私が鑑定してやろう」ステッラは俺の向かいに座席に座ったまま意地悪な笑みを浮かべて言った。「まあ、堅物揃いだからそれは無いだろう」


「これ何?」ユユリは頓狂な声を出して言った。「枕?」


ユユリの手には楕円形の白い物体があった。大きさからすると確かに枕に見えないこともない。


「それは繭じゃないのか」リュウシュウハも対面から身を乗り出して凝視している。「隊長の精霊が吐き出した糸のようにも見える」


亡くなってしまったジョロウ。その忘れ形見を託されたのなら流石に気がひける。


「破いて中から小さいジョロウが出てきたら困るな」失礼にあたると思いつつも俺は心情を吐露した。「だが、善意によるものだとは思う」


「精霊が子を成したという話は聞かないな。流石に蜘蛛の子が何千と出てくるとは思えない」ステッラは何の気なしにに言ったのだろうが、その様を想像すると流石に怖気を催す。


結局、しばらく荷物と一緒に放置することにした。だが時折、ユユリはその繭を抱きしめながら「大きくなるんだよお」と我が子をあやすような仕草で遊んでいた。


そんな経緯を経て我々はトリアルから次の町であるセント・リリアという港町を目指した。ジジ曰く馬車で一週間ほどの道のりであるので、途中でいくつかの町に立ち寄る必要があるという話だった。







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