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加勢するユユリ

時計台の側には志願したであろう精霊使い達が息巻いている。隊長の精霊が殉死したのをきっかけに、より強い結束が生まれていたのだ。


「敵は五体。現在、蛇女は警備隊のチームで追跡している。精霊使いも探しているが町の外である場合もある。他の精霊も警備隊が追跡中だ。こちらは危険が伴う。門の修復に皆の力を借りたい」


警備隊の副隊長と思しき人物が言ったが、広場に集まった連中からは不満が漏れた。皆の口からはとにかく戦闘に参加したいという声が聞こえた。


「俺の専門分野だな。喜んで参加しよう」


ユユリは「えー、戦いたい! 私強いのに」という愚痴を漏らすも黙殺するとすぐに黙った。


東門自体は無事であった。そのすぐ隣の壁が破壊されている。ダイナマイトでも使ったのかと思えるくらい粉々になった壁の破片が周囲に飛び散っている。


「これは修復というより新設した方が早いな」俺なりに感想を述べると現地で監督していた人物がこれ幸いとばかりに接触してきた。専門ではないからどうして良いか分からないとの事である。

俺は私見を述べて、必要な資材と人員をはじき出し監督に伝えた。いっそ監督してくれないかと言われたがこの町に長居するつもりがない事を述べると相手は残念がった。


「今日できる事は可能な限り手伝う」


そう言って俺は作業に入った。必要な資材を調達しに再び目抜き通りに向かうと、ユユリが彼方を指差して言った。


「あの角の向こうで戦っている」


もしや精霊の声が聞こえてきたのだろうか。俺には物音は聞こえなかった。


「そうか」


「行かないの?」


「邪魔になるだろう」


「でも多分、もうすぐ遭遇するよ」


「何だと」


驚くより早く、ユユリが指差した角から精霊が二体、もみ合ったまま転がり出てきた。


「ユユリ、逃げるぞ!」


「加勢しないと」


ユユリはその場に留まり、ごね出した。


「加勢するにしてもどっちが味方か分からないだろう」


「そっか」


俺はユユリの手を強引に掴んで手前の路地に逃げ込んだ。路地には人が溢れ返っていた。戦闘の報せを聞きつけ、避難したものの状況は知りたい、そんな連中がひしめき合っていた。


「おい、あんた。どうなっている?」やたらガタイの良い男が訊いてきた。


「すぐそこで戦っている」俺はつい、精霊が見える前提で話してしまった。考えてみれば精霊使いではない一般の人達もこのトリアルに多く訪れる。先程の緊急招集は一般人から精霊の存在を秘匿するという前提から外れた行為だ。それほど非常事態であるという事である。


「本当か。どっちが優勢だ?」


男は精霊使いであった。背後、というか後頭部に猿が掴まっている。一瞬本物の猿かと思ったが尻尾が三本あった。


「どちらが警備隊か分からない」


「ステッラの店でオーダーしてもらったナンバーが背中に付いているのが警備隊の精霊だ」


ステッラの仕事は思いの外幅広いんだな、という感想を持ったがもみ合いになっていたので背中のナンバーまでは気づかなかった。その旨を伝えると男はそうか、と呟き路地の奥へと向かった。


「どこへ向かうんだ?」


「逃げるんだよ。警備隊の精霊はエリート揃いだ。その精霊とタメを張るならそれだけヤバい連中って事だ。壁が壊れているうちに町の外へと逃げるのが正解だ」


言われてみれば確かにその通りである。つい義勇心に駆られて志願してしまったが、このまま逃げる方が都合が良い。


「あんたも早く逃げた方が良いぜ。そんなウサギの嬢ちゃんじゃ捻り潰されるからな」


そう言って男は路地の奥へと去った。この会話を聞いていたのか、路地にいたほとんどの人間が男の後に続いた。


「この格好だとそんなに弱く見えるのかな」ユユリは自身の着ぐるみを見回して言った。「でもあのオジサンの精霊もだいぶ可愛かったけれどね」


ユユリの戯言を無視して俺は考えに耽る。さて逃げるにしても一応資材の調達を終えてからにしたい。町に戻るにしてもこのボランティアをこなせば新たな仕事に繋がる。仕事で一番大事なのは信用である。


俺は路地から目抜き通りの方へと恐る恐る顔を出す。もみ合っていた精霊は木製の人形のようなものと熊のような化け物であった。木製の人形が熊の化け物の腹の上に馬乗りになって殴りつけている。一瞬警備隊が優位なのかと思ったが、人形の背にナンバーはなかった。


「随分とファンシーな敵だな」


「あいつ強いよ、このままだと熊のオジサンが死んじゃう!」


流石にこの言葉を聞き付けて無視出来るほどの人非人ではなかった。


「あの飛び道具、使えるか?」


飛び道具? と言ってからユユリは惚けた顔をした。


「手からズバッと出るアレだよ」


「ああ」ユユリは両手を打ち付け納得の身振りをしてから「ユユリ砲のことだね!!」


そんな技名を付けていたのか。だがこの際なんでもいい。

「ユユリ砲をあのピノキオにぶつけてくれ」


「ピノキオ?」


「あの木製の人形の方だ」


その瞬間、熊の化け物が拳を嫌がってか、背中を向けてうずくまった。その背中に「3」の文字があった。これで確証を得た。


「今だ!」


「はい、ドーン!」ユユリは左手だけを差し出して言った。


ピノキオは向かいの建物まで吹き飛んだ。だが、初めてみた時よりだいぶ威力は弱い。


「調節できるようになった」ユユリは胸を反らして言った。


熊の化け物はこちらを仰ぎ見て起き上がり親指を立てた。そして再びピノキオに向かっていった。


「まあ、これくらいならな。さて」







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