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精霊の死

町の中には精霊使いの警備隊がいる。精霊使いになってから見る彼等はとても有能に見えた。俺も精霊の纏う光を薄々感じ始めているのだろうか。

黒煙が上がってからものの数秒でさらなる煙が上がる。今度は白い煙で、その白い煙の中に蠢くものがある。煙伝いに蠢く何かは蜘蛛のようにも見える。


「警備隊隊長のジョロウだ。あれは厄介だぞ」ステッラは呑気に呟いた。「白い煙に見えるのは全てジョロウの糸だ。あれに捕まると抜け出すのは骨だ」


黒煙は収まり、やがて何かが酒場の前を猛スピードで駆け抜けて行った。その先を見ると俺たちを追っていた蛇女がいた。その蛇女に向けて白い煙が追い立てるように迫る。通りを曲がり視界から消えた。


「巻き込まれて家が壊れたら困る」


そう言ってステッラは店にとんぼ返りした。


「俺たちを追ってきたのか? それにしては時間差があるな」俺は不安に駆られてユユリに話しかけた。


「たぶん違う。もっと大変な事になった」ユユリはいつになく真剣な眼差しで言った。


「どういう事だ?」


「トリアルで精霊狩りをすると決めたんだ」背後から声が聞こえた。リュウシュウハは苦々しく言った。「つまりそれだけ大規模な攻撃をできる準備が整ったという事だ」


「警備隊隊長が敗走しておられますな」ジジがリュウシュウハの背後から現れて言った。


「まずいな。ジャンヌ!」


建物の屋根の上からジャンヌが現れた。ジャンヌは彼方を指差しながらリュウシュウハの元へと帰ってきた。


「さて。勝てるかな。どうにも旗色が悪い」


リュウシュウハの言葉と共にどこぞから鐘が鳴った。警告を促すように何度も鐘を打ち付けている。


「緊急招集の合図です。精霊使いは時計広場に集まる決まりですな」ジジは彼方を指差して言った。「行きましょう」


人の流れが目抜き通りの先にある広場へと向かっている。先程蛇女とジョロウが向かった先である。中央に大きな時計台と鐘があるので時計広場と呼ばれている。


「俺たちも行かないとまずいのか」


「任意の招集だから拘束力はない。だが、総攻撃となると近くに仲間がいるに越した事はないな」店から出てきたステッラは言った。その背後でステッラの店は植物の蔦で建物が補強されていた。なるほどこれなら簡単には潰れない。だがどうにも廃墟然としている。「旅の間はほぼ廃墟みたいなものだからな。ついでに侵入者対策もしておいた」


何やら剣呑なものを感じたので侵入者対策の仕組みは聞かないでおいた。


「東門の方が騒がしい。このままここにいると巻き込まれる」ステッラは走り出した。


俺たちも時計広場に向かった。総攻撃の理由の一端が俺たちにあるとしたら無関係を気取る訳にはいかない。


広場には干からびた大きな蜘蛛が腹を見せて横たわっている。警備隊隊長がその袂で膝を折って蜘蛛の口に空気を送り込んでいる。精霊に人工呼吸が効くのかと疑問に思った。

「空気と一緒に精も送り込んでいるんだよ。気持ちを込めれば誰でもできる」とユユリは浮かない顔つきで言った。それからユユリは何を思ったか大蜘蛛ーージョロウの元へと駆け寄り何かを語りかけた。


驚いた顔つきの警備隊隊長は上体を起こし、ユユリの行動を見守った。


腹を見せているにも関わらず、ジョロウはわずかに口を動かして何かを話しているように見えた。それからユユリは俺の方へと振り返り手招ききする。駆け寄るとユユリは耳元で言った。


「私が伝えるとまた騒がれるから、カムイが伝えて」


ユユリなりに考えてくれているのだと知り俺は了承した。


「箪笥の裏に一生困らないだけの金貨を隠している。母さんによろしくな、とジョロウは告げている」と俺は隊長の耳元へ告げた。


隊長は目を見開いて立ち上がり、俺の肩を掴んで言った。


「なぜ、知っている? 金貨があるのは知っていた。精霊の声が聞こえるのか?」


「他言は無用でお願いする」


「そうか」と言って隊長は俺の肩から手を放し、そのまま地に伏して泣き出した。そして何度もありがとうと言った。


「行こう」とユユリは俺を促した。


「今回はどんな条件が出たんだ?」


「死の直前の場合は条件が出ないみたい。特例事項につき不問って言葉が宙に浮いていた」


「粋な計らいだな」


「でも悲しい。出来ればもうしたくない」


「ああ、そうだな」


後ろを振り返ると、ジョロウの体が光の玉となって分解していくのが見えた。隊長は放心したままその光景を眺めていた。彼の首筋に何かの模様が浮かんだように見えた。


「これが終わったら家に帰ろう」俺はユユリに言った。


「それでいいの?」


「ああ」


「分かった」


「なあ、もしかして精霊ってのは」と言いかけてから、「ああ、何でもない」と日和った。


俺なりの仮説は、口にするとユユリとの関係に緊張感を与えることになりそうであると気付いたからである。もう少し、確証が欲しい。



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