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フィーリアの能力

奥の部屋に通されると、そこには周囲を鉢植えに囲まれた作業台があった。


「つまり、人型に見えないようにしたいんだな」ステッラは嬉々として俺の依頼を聞いている。「お安い御用だ」


それからステッラは彼女の精霊であるフィーリアに向けて「ウサギ型の着ぐるみにしよう」と言った。フィーリアは頷くと両手を広げて何やら力んでいる。シルエットしか見えないが手の震えが見て取れた。


「店主を名乗りながらも不甲斐ないが、精霊の衣服は私が作るのではない。私のイメージを汲んだフィーリアが作る」ステッラは自嘲気味に呟いた。


フィーリアの両手の指先から糸のようなもの伸びた。それが部屋のあちらこちらにある鉢植えに絡まる。彼女の手が閉じていくと鉢植えの植物群を引っぱった。やがて植物から何かが抜き取られ、張力を失った植物はシナシナと鉢植えに伏して行き、代わりにフィーリアの両手の間にはいつの間にか繊維の塊が渦を巻いている。


「精を繊維に変えた。あれを今度は織っていく」一見何もしていないように見えるステッラは目を閉じてフィーリア同様体を小刻みに震わせている。「視界と聴力を阻害しない作り。そして何よりも可愛く!」


台詞の後半がやけに力強いが俺は無視した。


渦を巻いていた繊維の塊がフィーリアの両手の間で急速に何かを紡ぎ出す。一本一本の繊維が交差しあい、きつく結び合い、やがていわゆる着ぐるみのような形になった。


宙に浮いたそれをステッラは手に取り、隅々まで目を通す。


「成功だ。着てみてくれないか」


ステッラに着ぐるみを渡されたユユリは戸惑いつつ訊いた。


「どう着ればいいの?」


たしかに着ぐるみにしては背中のジッパーが見当たらない。どこから袖を通すのか見当もつかない。


「頭の上に掲げて、それから手を離す」と身振りを交えながらステッラは説明した。「精霊の服はそれ自体が精の塊だから、一種の生き物だ。寄生先に上手いこと馴染むはず」


寄生、という不穏な言葉を聞いてもユユリは臆する事なく「分かった」と言ってそのまま実行する。


着ぐるみはユユリの頭の上で大きく膨らみ、大きな穴が開く。そしてユラユラと漂いつつ、徐々にユユリの体を包み、やがて全身を覆った。


顔の部分だけがユユリのままウサギの着ぐるみは彼女の体に密着した。顔と体毛の部分が曖昧なせいか全く着ぐるみに見えない。特に下半身は丸っ切りウサギのそれであったので、そういう精霊なのだと言われれば納得してしまいそうである。


「動きはどうだ? おそらく重さすら感じないと思うが」


ステッラは慎重に尋ねた。


「え? これ服を着ているの? 何も感じないけれど」ユユリは宙に浮いて一回転した。「いつも通り、かな?」


ステッラはフィーリアに向き合いハイタッチをした。それから「ちなみにとても可愛いぞ!」と安心したように力強く言った。


確かに愛らしい容姿ではある。


「ねえ、私、可愛い?」ユユリは俺に顔を寄せて言った。


「ああ。素敵だ」と俺は『女の子の気持ちマニュアル』にある通りに褒めた。「似合っている」


「なんか嘘臭いな。台詞みたい」


そこで俺は狼狽えた。いや、これは、その、というしどろもどろな反応が新鮮だったのかユユリはむしろ嬉しそうに笑った。


「まあ、いいや。一応褒めているみたいだし」


ユユリの機嫌を損ねずに済んだので次の案件に移ることにした。


「それで、頼みというのを聞かせて欲しいのだが」






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