ステッラ
裁縫屋は表向きは花屋になっていた。
「精霊の衣服のほとんどは植物由来だから、表の商売と裏の商売で相互補完関係にある」
店主はカウンターに籠を置き、それからユユリの体をじっくりと眺めた。
「な、何かな?」ユユリは頬を染めながら言った。
「しかし長生きするものだな。最初は気づかなかったぞ」店主は嘆息しつつ言った。
「今、長生きって言ったけど」ユユリは及び腰になりながら小さく言った。「いくつ?」
「レディに歳を聞くのは失礼らしいぞ」
「ごめんなさい!」ユユリは即座に謝った。
「良い子だな。精霊と精霊使いは大体気質が似ている。良い顧客になりそうだ」店主は俺に顔を向けて言った。
どうも、と言いつつ一礼してから訊いた。「ここは精霊専門の裁縫屋であっているのか」
「その通り。私は店主のステッラだ。よろしく」と言ってステッラは手を差し出した。
俺はその手を握り名乗った。「カムイです」
そこに更に黒い手のようなものが覆いかぶさった。
「そして彼女はフィーリアだ」
黒い手の先を見ると、影がそのまま立ち上がったような物が立っていた。だが、そのシルエットはステッラが“彼女”と称するように髪がたなびいているように見える。いや、実際にたなびいている。室内で風もないのに。
「風なら吹いているよ。少し肌寒いかな」俺の疑問を見透かしたようにユユリは言った。
ステッラはユユリの肩に薄いベールのようなものを掛けた。「どうだ? これで寒さは凌げたか? それはサービスだ」
おお、と感嘆の声を上げてからユユリは「ありがとう、暖かいよ」と言った。
ステッラは目を丸くして「どういたしまして」と答えた。それから俺の方へと再び顔を向けて「お題は要らない。私に出来るものならどんな物でも作ろう」と語気を強めて言った。
「いや、そういう訳にはいかない」と言うと、ユユリが耳元に唇を寄せて「懐が寂しいんだから承諾しちゃえばいいよ」と言った。
「お前なあ」
「いや、むしろ金を払おう。頼みをきいてくれないか」ステッラは興奮気味に言った。