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第8話 どじな料理でご主人様を釣る?!



 わたしは、なんとか食卓に食事を出した。

 今は、わたしとテオドール様、オルガノさんの三人で、広いテーブルを取り囲んでいる。

 豪華なレースのクロスが敷かれたテーブルの上には、白いつやつやとした皿がいくつか並んでいた。


 だが、その上に載っている料理と言ったら――。


「すごい! これは! やっぱり、どう考えても神に愛されていますよ! アリアさん!」


 執事のオルガノさんが叫ぶ。朽ち葉色の髪と同じ色をした彼の目には、涙が浮かんでいる。


 もう段々、マリアですけど私は、なんて突っ込むのを忘れるぐらい、アリアと呼ばれすぎて、自分の本名がアリアなんじゃないかと錯覚しつつある今日この頃……。


 ピストリークス家の皆々様の希望の眼差しを受けて、さっそく料理を作ることを試みたのですが、やはりと言うべきかやらかしてしまっていました。


「なんで卵渡したら、いつの間にか全部割れてるんですか? 落としたわけでもないのに! 実は怪力だったりして!!!」


 そう言って、わたしの近くにいるオルガノさんが爆笑している。しかも食器をがちゃがちゃとならしていて、ちょっとどころかかなり行儀が悪い。


 なんだか笑われすぎて、わたしは悲しくなってきた。きっと鏡を見たら、わたしのくすんだ金色の髪はますますくすんで、はしばみ色をした垂れ気味の目はますます下がってしまっているに違いない。


(ちょっと触れただけなのに、割れちゃったんだもの……)


「それに、なんで残った卵を焼くだけだったのに、全部消し炭になっちゃってるんですか!!」


 更に乗った何かの残骸に、焼け焦げた匂い……。

 オルガノさんの爆笑は止まない……。


(だ、だって、なんでだかよく分からないけれど、勝手に火が強くなってしまって、勝手に原型をとどめないぐらい焦げちゃうんだもの)


 苦節十六年……何をやってもドジな私にとって、料理はやはり天敵だったよう。


(昔、東方で流行ってるというぷにぷにして良く伸びるお菓子を作ったことがあるけれど、なぜか中身が粉のまま出来上がっていたわ……一緒に作っていた友達はみんな、ちゃんと中身がもちもちの美味しいお菓子になっていたのに……)


 昔のことを思い出したら、ますます悲しくなってきた。


 オルガノさんが爆笑しているところ、わたしはテオドール様と目があった。

 彼の菫色の瞳はとても綺麗で、私の胸はどきどきしてしまった。彼の黒い髪は、ランプでつやつやと輝いていて、なんだか妙に色っぽく感じてしまった。


(違う違う、わたしの憧れの人は、お兄ちゃんの親友の紅い髪の騎士・剣の守護者様なのよ~~)


 しょんぼりしたり恥ずかしくなったりして混乱しているわたしに気付いたのか――?

 テオドール様は、わたしに優しく声をかけてきた。


「アリア、苦みはあるけれど、焦げをとった部分に関してはわりとしっかりしている」


「ええっ!? て、テオドール様!? 食べちゃったんですか!?」


 わたしはびっくりしてしまい、テオドール様に叫んでしまった。


(ま、まさか、こんなわたしの作った殺人級の料理を、テオドール様が食べちゃうなんて――!)


 彼は菫色の瞳を和らげながら話しかけてくる。


「この野菜スープも玉ねぎの良い香りがしている。ばあやが作る城に出てくるような料理の味とは違うが、薄味で私の好みだ。身体にも良さそうだ――」


「坊ちゃん、やっぱり変わりものですね!! アリアさん、良かったですね! 恋人(仮)に料理の腕前を褒められて!」


「こ、こいびと……!」


 そういえば、わたしはメイドとしてピストリークス伯爵家で働くと同jに、テオドール様の恋人役を頼まれているんだった。

 ますます、あわあわと混乱したわたしを見ながら、テオドール様が咳ばらいをした。

 そうして彼は、視線をオルガノさんに向けなおした。


「坊ちゃん、にらまないでくださいよ! あ、ちょっと忘れ物しちゃいました!!」


 オルガノさんは、わざとらしく理由をつけて部屋から出ていった。

 残されたわたしとテオドール様は、しばらくの間、無言のまま過ごす――。


「アリア」


「はい、なんでしょうか――テオドール様?」


「お前は料理は下手ではないようだ――これはこれで癖になる味だ。これからも、私に料理を作ってくれ――」


 そう言って、わたしから目をそらしたテオドール様の頬が心なしか赤い気がする。

 私はびっくりしてしまった。どんどん、わたしまで顔が真っ赤になってしまう――。


(真っ黒こげの料理――本当はおいしくないはずなのに――冷酷だって言われているけど、やっぱりテオドール様は――)


「は、はいっ。もっとテオドール様が満足できるように、頑張ります!」


 優しい雇い主のために、もっと頑張りたいと、わたしは思ったのでした。

 




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