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第4話 使用人仲間の攻略は完了しました?!



 部屋に入ってきた人物は、朽葉色の前髪を後ろに撫で付け、髪と同じ色の瞳をしている。


「壺ですよ、坊っちゃん! うちの唯一の家宝が! 先祖代々の家宝が!!!」


 甲高い声を出す男性の見た目は、わたしよりも一回りは年上に見えたけれど、行動があまり大人のようには感じなかった。

 彼は白いシャツに白いタイ、ブラウンの燕尾服と下衣を身に付けている。


(この家の、執事さん……?)


 わたしのお兄ちゃんに似て、ちょっと垂れ目の男の人で、眼鏡をかけているのが特徴かな。街の女の子達が見たら、きゃーきゃー騒ぎそうな、いわゆる格好いい男性だけど、本人がきゃーきゃー騒いでるのが、わたしとしてはちょっと気になる……。


「騒がしいぞ、オルガノ……。そもそもその壺は、先祖からは受け継いでいない」


 肩先まである黒髪に菫色の瞳をした端正な顔立ちをしたテオドール様。テオドール様は、オルガノと呼ばれた男性を見ながら、げんなりとした様子でため息をついている。


(むしろ――オルガノさんに、呆れてる?)


 当のオルガノは床にしゃがみこみ、割れた壺のかけらを必死に拾い集めていた。だけど、その手を途中で止めて、わたしの方を見ながら、不満そうに話し始めた。


「ところで坊っちゃん、このちんちくりんで平凡な見た目をした、いかにも平民なこの少女は一体何者なんですか? いくらピストリークス家が侯爵家から伯爵家になってしまったとは言え、こんないかにも惨めったらしい少女を屋敷に招くなんて……!」


(なんだか、さらっとひどいことを言われたような……)


 確かにマリアはくすんだ金髪だし、髪質はごわごわしてるし、見た目はお世辞にも美人とは言えない。それでも、やっぱり他の人にそのことを指摘されると、胸にぐさっと来てしまう……。

 わたしは悲しくて、少しだけ俯いてしまった。

 そんな時、テオドール様が話を続ける。


「オルガノ、アリアには私の使用人兼恋人役を頼んである。お前も、それ相応に振る舞ってもらいたい」


 そう言うと、テオドール様はわたしの肩を抱き寄せた。テオドール様の体に顔がぶつかる。

 こんなに男性の近くに寄ったのは、お兄ちゃん以外には初めてで、胸がドキドキしてしまった。

 多分、顔も真っ赤になってると思う。

 ただ、何度も言うが――。


(アリアじゃなくて、マリアですってば!)


 テオドール様の発言に、オルガノさんが噛みつくように捲し立て始めた。


「テオドール様の、こ、恋人役……?! どう頑張っても不釣り合いですよ! かたや、暗いのが玉に瑕ですけど、二大筆頭貴族の面子に匹敵するほどの、ものすっごく美形の坊っちゃん。かたや、ありふれた見た目の平々凡々なちんちくりん。どう贔屓目に見ても、貴族と使用人ぐらいにしか見えません!」


 胸に高速の矢でも飛んできてるのかと言うぐらい、ぐさぐさぐさぐさ、オルガノさんの言葉が胸に刺さる。

 しかしながら……。


(オルガノさん、ご主人のことを暗いのが玉に瑕とか言ってなかった……?)


 なんだかオルガノさんは、個性の強い男性のようだ。

 すぐにテオドール様が反論なされた。


「見た目や肩書きにどれだけの価値があるというのだ? アリアには、私が恋人に見えるように指導をしておく」


「「し、指導……?!」」


 わたしとオルガノさんの声が共鳴した。

 恋人同士に見える指導とは一体……?

 私は気になって、テオドール様に何かを尋ねようとしたところ――。


「いた―――――――っ!」


 床で壺の欠片を拾っていたオルガノさんが大声で叫んだ。相変わらず耳にキンキン響く。

 オルガノさんの方を見ると、どうやら欠片で右手の中指を切ったらしく、赤い血が少しだけ滲んでいた。

 

「大丈夫ですか?」


 わたしは慌ててテオドール様の元から離れて、オルガノさんに近づいた。手持ちの手巾を取り出す。座ると危ないので、わたしは立ったままオルガノさんの右手を取り、手巾を彼の中指に巻き付けた。


「ひとまずこれで大丈夫です」


 わたしが声をかけると、オルガノは黙って私の方をじっと見ていた。


(『この平民風情が、来やすく触るな!』とか言って、怒られちゃうのかな?)


 わたしが戦々恐々としていると、突然跪いたままのオルガノさんの両手にわたしの左手が掴まれた。ガシッと音が聞こえそうな勢いだったので、わたしは一歩後ろに下がってたじろいだ。

 そんなわたしを見ながら、オルガノさんから一言――


「天使だ……!」


「はい?」


 思わずわたしの声が裏返った。

 なんだかオルガノさんの瞳がキラキラして見える。


(一体全体なんなの……?!)


 オルガノさんの急激な態度の変化にどう反応して良いか分からない。

 わたしが戸惑っていると、後ろから右腕を引かれる。

 振り向くと、テオドール様がわたしを引っ張ったていた。わたしの背中に、テオドール様のしっかりした胸板が当たる。


「アリア、オルガノは悪いやつではない。使用人の仕事に関しては、こいつに習って覚えてくれ」


 わたしの耳元で囁くようにして、テオドール様がそう言った。

 やっぱり、わたしの胸はドキリと高鳴った。


「は、はい! テオドール様、分かりました!」


「坊っちゃん、アリア様の仕事に関しては、オルガノに任せてください!」


 かくして、わたしのピストリークス伯爵家での使用人兼テオドール様の恋人役の生活が始まったのでした。



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