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銃砲と戦像の女傭兵  作者: 参河居士
第1話 幼い依頼人
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その4

 その後行われた話し合いは、わずかな時間でまとまった。

「今日と明日の2日かけて準備をするので、街を出るのは明後日の朝にしたいんだけど、いい?」

 はじめにサリスがそう告げると、カテリヤは素直にうなづいた。

「私は修道院モナステリオの外のことは何も知りませんので、すべてサリスさんのお言葉に従います。出発まで父の遺品の整理を進めたいと思います」

 カテリヤの父が暮らしていた場所は、サリスの店とは大通りを挟んで反対側の区画にあり、街の行政区分では第9区に含まれる。

 その一帯は、日雇い労働者や出稼ぎ人といった下層住民が多く住む区画で、カテリヤの父は、とある老夫婦の家の一室を間借りしていた。今月分の家賃が支払い済みということで、彼女も街に滞在する間はそこで寝泊まりしているという。

「人手は多いにこしたことがないから、何人かに声をかけてみるつもり」

「はい、よろしくお願いします」

「できれば出発前に顔合わせを済ませておきたいんだけど、明日の午後はどう?」

「大丈夫です。こちらにうかがえばよろしいですか?」

「そうね……。いえ、迎えに行くわ。誰に頼むかで会う場所も変わるから」

「わかりました。それではお待ちしています」

 さらに日程や依頼条件など細かな内容を煮詰めたが、こちらも問題は無かった。

 打ち合わせを終えたカテリヤは、一度、ウィストンに事の次第を伝えにいくという。少女を送り出しながらサリスは少女を励ました。

「まだいろいろ大変だと思うけど、希望は捨てないでね?」

 そんな言葉は気休めに過ぎない、とサリスも分かっていたが、カテリヤの反応は意外なものであった。

「ありがとうございます。天上から見守ってくれている父と母のためにも、娘としての勤めが果たせるよう精一杯がんばります」

「……ご両親を恨んでないの?」

 不躾な質問かとも思ったが、サリスは思い切ってたずねてみた。

「私は、両親が離婚していなかったことに感謝しているんです」

 またしても意外すぎる言葉に、サリスは少女の顔をまっすぐに見つめる。

「母は、父について何も語ってくれませんでした。すべてを知った今なら、母の気持ちも理解できますが、幼い頃は不安でたまりませんでした。私は父に憎まれていたのだろうか。父と母が別れた理由も私が生まれたせいなのかも。そんなことばかり考えていました。でも、母の残した手紙や父からもらった手紙で、そうではないことが分かりました。父も、母も、私を愛してくれていた。そして2人とも愛し合っていた。それが分かって本当に嬉しかったんです」

 見に覚えのない多額の借金を背負わされて、恨みを抱かなずにいられるのか。にわかには信じがたいが、幸せを噛み締めるように両親との想い出を語る少女の表情を見ると偽りとは思えない。

「父と母の愛に報いるためにも、残された借金を返済することが私の義務だと思っています。ひとりでは何から手をつけてよいか分からず不安でしたが、今日、サリスさんにお会いすることができました。ご迷惑をおかけすると思いますが、何卒よろしくお願いいたします」

 サリスを見つめる少女の瞳には、喜び、怖れ、期待、不安、さまざまな感情が見て取れた。

 借金を返済できなければどうなるか、理解していないわけではないのだ。返済期限が日一日と迫るなか疲労や焦りの色も見られる。わずか13歳という年齢を考えれば当然のことだ。

 にも関わらず、両親の過ちを責めることなく、2人の情愛の深さを称えられることに感心させられる。その寛い心の持ちようが、生来備えていたものなのか、信仰に根ざしたものなのかは分からない。

 だが、少女の澄み切った瞳に見つめられると、この若さで神の声を聞けた理由が分かるような気がした。

 店を辞去するときのカテリヤは、年相応の明るく和やかな笑顔を浮かべていた。まだ借金返済のあてなど無い。遺跡の探索に向かうと決まっただけだ。

 しかしそれでも、出発できるかどうかも分からず、何日も思い悩んでいた少女にとっては重荷から解放された気分なのだろう。

 カテリヤを見送ったサリスにも、そんな少女の気持ちがよく分かる。とはいえ、カテリヤより多くの人生経験を持つ彼女は、そう簡単に幸福な気分に浸ってはいられなれない。

「さてと、行くと決まればまずは道具と人手の確保か。道具の方はいいとして、問題は人手ね」

 幼い少女を護衛するには腕の立つ人物が必要だし、できれば自分以外にもうひとりくらい遺跡探索に長けた者が欲しい。

「やっぱりエイシャとルナリアに頼むしかないかな。いつも無理を聞いてもらってばかりで気が引けるけど……」

 店内に戻ったサリスは、慌ただしく外出の用意を整える。カウンターの裏に立てかけていた細身の小剣を腰に下げると、続いて壁にかけられた錬素具エンクに手をやる。

 革の留め具でベルトと固定されたそれは銃と呼ばれる飛び道具で、体内の魔力を弾丸に変えて発射する。弓や弩に比べて射程距離は短いが破壊力に優れ、非力なサリスにはお似合いの武器といえる。

 現存する銃のほとんどが単発型であるのに対し、サリスの愛用銃<陸鳳バリザーム>は、銃身の中央に回転式の弾倉がついた希少品で、最大6発まで連続発射できる。

「……カテリヤ(あの子)のこと、ビレッサにお願いしてみようかな……」

 傭兵は常に最悪の事態を想定し予防策を講じる。カテリヤにとっての「最悪」とは、借金の形に身売りすることではない。

「どう思う? ミアル」

「おせっかいが好きだね」

「言うと思った」

 銃つきベルトを手にしたサリスは、いったん銃をベルトから外すと、中折れ式の弾倉を開いた。弾丸がすべて装填されていることを確認した上で、銃をベルトに戻し改めて腰に巻く。

 その後、そばにかけていた薄草色のマントを羽織りながら、早足で玄関へと向かったサリスは、扉から店の外へ一歩踏み出したところで振り返り、店の奥に向かって呼びかけた。

「夕方には戻るつもりだけど、その間に誰か来たらヨロシクね?」

 扉の閉まる音に重なって、面倒臭そうに応じる猫の鳴き声が店内に響いた。

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