隔離された空間、男同士の密閉空間
ここは隔離空間か。
これはあの勇者のスキルか?
「一人じゃ不安かい?」
「そんなことないさ。むしろお仲間さんに、あんたを殺すのを邪魔されなくて助かってる」
俺はキャリーから貰った短剣を舐めながら答えた。
「君さ。本当は強いんだよね?ステータス隠蔽してたんだ」
「ん?なんのことだ?」
俺はステータス隠蔽なんて持っていない。
むしろあったならもっと強く見せていただろう。
それこそ逃げ出すレベルに。
何も実力を隠すだけが隠蔽じゃない。
ステータスを強く見せて闘うのは得策じゃないと見せるのもまた手。
「謙遜しないでよ。君、一般人並みにしかステータスがなかったのに、隔離しようとした途端にそんなにステータスが上がるんだもん。驚いちゃった」
ははーんなるほど。
こいつは盛大に勘違いしてるな。
まぁここは乗っとくか。
「まぁそういうことだ。手加減することはできないぞ?」
「なぁ。なんで異世界侵略対策委員の実働隊なんてやってるんだ?」
「あぁん?」
急に何を言い出すんだ?
闘う前に話をしようってのか?
まぁこいつのステータスは俺が逆立ちでもしない限り相手にもならないだろうが、その余裕ムカつくな。
「まぁ聞いてよ。君はまだ若いだろ?僕と同じ17歳だ」
「まぁそうだな。続けてくれ」
「ありがとう。異世界侵略対策委員のような非道な組織になんで属しているのかなと疑問に思ってね」
非道か。
まぁやってることはそうだろうな。
でも認めるのは面白くないし、質問はそこじゃない。
だが聞かずにはいられず、疑問に思ってしまったことだ。
「どうして非道だと思うんだ?」
「僕の恋人であるフーリンを殺した。フーリンは何も悪いことをしていないのに」
だからこれは間違ってるとかそういうことだろうな。
そしてこいつはそう思ったら行動を起こすタイプ。
壊滅させ、お前達は間違っていたからこうなったんだと言う。
たしかにそれは正義だろうな。
よく言うだろ?
勝った方が正義って。
文句あるならそいつより強くあれって話なんだ。
「それに君たちは異世界から帰還した勇者を殺している。僕達は異世界で命がけのやりとりをした。やっとの思いで帰還したんだ。それを一体なんの権利があって殺そうとするんだ?」
恋人が殺された話だったらまぁ共感はできた。
しかしこいつは何もわかってないな。
「権利はあるさ。異世界侵略対策委員は公務員だ。国の上層が認知している組織だ。異世界侵略対策委員は時に日本の総理大臣より権限が上の場合があるぞ?」
そうつまり、俺達はやることは非道かも知れない。
だが、権利があるかどうかと言われたらそれはあるんだ。
「だが、罪も無い人間を殺すことは悪いことだろう!君たちはそれに対して心が痛まないのか!」
「痛まない」
「な!?」
見ず知らずの人間が死ぬことでなんで心を痛めるのだろうか?
痛むはずないだろう。
痛むとか言う奴はほとんどが偽善者だ。
心が痛むだの、ご冥福を申し上げますだの言うが、それは余裕のある人間が自己満足で言ってるに過ぎない。
それが全員がそうとは言わないけどな。
少なくとも俺は痛まない。
ただそれだけだ。
「血も涙もないのか」
「逆に聞くが、あんたはスズメバチやハブ、そういった人に害する生き物が死ぬのに心を痛めるのか?」
「・・・少なくともフーリンは何の害もなかった!」
違うそうじゃないんだよ勇者くん。
「この日本において、力を持つこと自体が害なんだ。つまり殺されても文句は言えないんだよ」
「なに!?」
おー怖い。
声色も変わったし地雷踏んだか?
「もし街中に拳銃を持った一般人がいたらどうする?」
「取り押さえればいいだろう」
「できるならな。じゃあアサルトライフルを持っている人間ならどうだ?」
「取り押さえればいい」
「まぁあんたならできるだろうな」
それができる人間は一体どれだけいるんだろうな。
「じゃあ言い方を変えよう。銃を持っている奴を殺したら、それは咎められるべきことか?」
「そうだ、話せば説得に応じたかも知れないだろう」
「応じなかった場合は?犠牲者を出してでもそんな人間救うべきだったのか?」
だんまりか。
都合が悪くなるとだんまり。
そしてキレてお前は間違っているとか言えば楽だろうな。
「フーリンとやらもそういうことだろう?」
「フーリンは武器を持っていない!」
「お前だって武器を持ってるのにか?」
今、その手に持っている剣も武器だな。
だがそれよりももっと強大な武器を持っている。
そしてそれをこいつは気づいていないだろうな。
「僕はたしかに剣を持っている!でもフーリンはそういった物は一切持っていない」
「違う違う。例えばあんたが今、武装を解除したとしてもさ、武器を持っているんだよ」
そうさ。こいつは聖剣以前にもっととんでもない武器を持っている。
「どんな武器だ?」
「高ステータスっていう強力な武器をさ」
「な!?」
高ステータス。
それだけで一般人からしたら脅威だ。
こんな隔離空間に呼ぶことだってできる。
ここで人を殺したところで現実世界ではわからないだろう。
「たしかにそれはそうかもしれない。だが、フーリンは俺が異世界に召喚されて苦労していたとき何度も助けてくれたんだ!あんな殺され方をしていい人物じゃなかった!」
ん?
ちょっと気になるな。
今、聞き捨てならないことを言った。
「あんたは異世界に召喚されて、そのフーリンって女に支えられていたのか?」
「そうだ!異世界に召喚されて無能の烙印を押された。でも彼女の支えで数々の困難を乗り越えて、魔王を討伐するまですることができたんだ!彼女がいなければあの世界は今頃どうなっていたか!」
へぇ。
つまりこいつは成り上がり主人公ってことか。
しかも虐げられていたのに性格が歪むことなくここまで生きてきたのか。
ふふふふふふふふふふふふふふ。
二重丸だ。
「だからお前達にあんな殺され・・・なんで笑っている!」
「あぁ?ごめんごめん。俺好みの勇者だなと思ってさ」
成り上がった勇者を殺すのってすごい――――――
「そうだ、最初の質問だったな。なんで異世界侵略対策委員の実働隊なんてやってるんだ?だったか?」
「あ、あぁ」
急に態度が変わって困惑してるな。
しかし知ったことじゃない。
「楽しいからだよ!あんたみたいな不遇スタートで異世界召喚された奴らを殺すのが、とっても楽しいんだ!」
成り上がった勇者を殺すことほど楽しいことはない。
そして絶望に染まるあの顔が辞められないんだ。
過去現在関係なく、このAACの実働隊の人間には唯一共通点がある。
それは人殺しを楽しめることだ。
「どうやら僕は間違っていたようだね。君は話は通じるタイプだと思ったのに」
「話は通じるぜ。要するにさ、あんたは恋人が殺されたから仇を討ちたい、それだけだろ?」
「そうだ。だから君も殺すし、君の友達も殺す。それが僕にできる唯一の弔いだ」
「だったら最初からそう言え。非道だのなんだの言ってないでさ!」
「そうだね。君たちを殺すか殺さないか、ただそれだけだったのにさ。いざ目の前にしたら君を殺して良いのかってさ。そう思ってしまったんだよ。でも君は・・・殺しを楽しんで居ると・・・そう言われたら」
話は終わりだな。
こいつはさっきまであった柔らかい目は消えて目を細めている。
いいねぇ。このスリルが大好きなんだ。
だから俺はこいつを殺す。
風の切る音だ。
俺は短剣を前に出して防ぐが、正面の鍔競り合いじゃなかった。
後方だな。
「甘いね君」
「そっちも甘ぇよ」
俺は短剣を逆に持ち替え、後ろに剣を振るう。
――――――ガキィン!
聖剣と打ち合える短剣ってどうなんだろうな。
――――――ボキッ!
「やっぱりか」
短剣が折れ、そのまま斬りかかってきた勇者。
俺は前方に転がり一閃を躱す。
しかしさすがは勇者様。
その体勢のまま一回転しもう一閃してきた。
今度は斬撃か。
俺はスキル影切りを使い斬撃を破壊した。
「さすがと言っておこうかな。まぁ君に残念お知らせ。僕はまだ身体強化を使ってない」
おいおいマジかよ。
短剣も折れちまったしどうすっかねぇ。
一読ありがとうございます。
主人公もとんだイカれ野郎ですね。
まぁ人殺しをしているということで何かしらのネジが外れたんでしょうか?
正直わたしにはわかりかねますw
これからもよろしくお願いします!




