異世界侵略対策委員、通称AAC
「あーあ。ちゃんと処理しないとな」
血生臭い。
目の前には天池龍輝と言う、スクールランキング最上位にいるような、絵に描いた男がいた。
どこのラノベだよって感じ。
まぁ実際、彼は勇者だったからラノベの主人公なんだろうけど。
「それにしてもこいつ。見た目はかっこいいのに自己中野郎だったな」
僕、いやキャラを作るのはもういいか。
俺、明石光は政府機関、異世界侵略対策委員。
AACに所属している。
AACの仕事はこの世界に降りかかるイレギュラーを密かに始末すること。
今現在、異世界から勇者の帰還が目立っていた。
勇者というのは、能力が人並み以上の力を持っている、所謂チーターだ。
そんなイレギュラーがこの世界に蔓延るとどーなるか。
その力を利用して世界征服だって不可能ではない。
そして俺は、こいつは勇者だと目を付けていた。
気づいたのは三日前。
天池龍輝は上手く隠してたつもりだろうが、力のオーラが違った。
AACはステータスを確認する機械を右目に埋め込んでいる。
俺はそれを使って毎日クラスメイト全員のステータスを確認していた。
しかし三日前と今日にステータスの違いはなかった。
なので俺は天池龍輝の後をひたすら監視した。
一昨日から早速ぼろを出した。
それは金髪の高校生くらいの少年が、中年腹の男性に掴み罹ってたときのことだ。
*
「おい、おっさん。この前俺の彼女に痴漢してたよな!ふざけんなよ!あいつずっと怖がってるんだぞ!」
「は、はて?なんのことやら?離したまえ。証拠はあるんだろうな?」
すっとぼけてる。
この状況はどう見ても中年腹が黒だ。
髪の色こそ金髪だが、この少年は制服はきっちり第一ボタンまで閉めてるし、髪の長さは眉より上に切りそろえられている。
おそらくハーフの少年だろう。
そんな少年がギャルな彼女を持っているという線も無くはないが、きっちり第一ボタンをしているようなやつがギャルを好むとは思えない。普通の彼女だろう。
そしてそんな一般女性に手を出された。
更に怖がってるとまでいうんだ。
きっちりしてるし、正義感も強いのだろう。
それをみた天池龍輝は二人の方に歩いて行った。
おそらく一部始終はみてないだろうな。
スマホ弄って歩いてたし。
「おい、君。おじさんが困っているだろう。恐喝はよしたまえ」
「なんだあんたは!こいつはなぁ」
「はぁ・・・やめないっていうなら強硬手段に出るよ」
そして金髪の少年は顔面を殴られて吹っ飛んでいく。
話も聞かないんだな。
てかあれはステータス隠してても意味ないだろ。
普通は人間を吹っ飛ばせるパンチなんて現実にはない。
吹っ飛んでいった少年は身体を痙攣させている。
むち打ちになって下手したら死ぬぞあれ。
「大丈夫ですか。いやー最近オヤジ狩りが流行って大変ですね。僕あーいうの許せないんですよ」
「あ、え、そうだね。君は正義感が強いようだ。これは御礼だよ。はい」
そう言って一万円札を渡そうとするおじさん。
「え、そんな謝礼をもらおうとか考えて無かったのにすいません」
「いいよいいよ。あの金髪くんも反省したことだろう」
白々しい。
あの中年腹の奴はお金を渡すことで、このことを自慢されないようにしたんだ。
お金をもらったなら、正義感強そうなあいつは近辺には自慢しないだろうと。
「ありがとうございます。夜道は危険です。気を付けてくださいね」
そう言って御礼を言って走り去っていった。
これだけではまだ勇者と確定ではないかもしれないな。
*
海に来ていた。
学校から近いからといって、冬に海に来るのはどうなんだ?
そこには大学生のカップルぽい二人が走り回っていた。
「キャーやめてー」
「うへへへへ。襲っちゃうぞぉ」
なんだあれ。
台詞はあれだけど、顔が二人とも笑顔だ。
そういうプレイ?
いやイチャついてるだけだな。
あ、天池龍輝をみたら男が抱きついて顔を赤くしている。
女の方も照れてる。
「おい、女性に襲うといって抱きつくとは何事だ!」
こいつ人の話を聞かないどころか
「え、俺達は別に付き合・・・」
「言い訳無用!」
あいっかわらず話を聞かないのな。
腹部にアッパーを嚼ましてマンション二階くらいまで打ち上げられる彼氏。
彼女の方は涙一杯に目に涙をため込んで天池龍輝を睨み付けている。
「お嬢さん、怪我はないかい?」
「ないわ。ごめんなさいね。貴方みたいな人と話したくないの」
「やれやれ照れ隠しが上手いんだね」
今にも駆け寄りたいが、また彼氏が殴られてもまずいので笑顔で、ありがとうございましたと言っている。
この御礼は半ば脅しで発言したようなもんだろう。
「いやぁまた人助けをしてしまった」
天池龍輝は笑顔で手を振って歩いて行った。
「ごめんね。ごめんねぇ・・・」
「いいさ。俺の発言が悪かったんだ」
彼女は彼氏に泣きながら謝っている。
絶対あばら折れてるだろあれ。
昨日とは訳が違う。
腹部からアッパーしてあの高さまで打ち上げられるのは人間業じゃない。
事情を説明しAACの医療班を呼んで彼氏は治療させた。
*
天池龍輝、彼は黒だ。
確実に異世界帰りの何かだ。
だがまだ証拠が足りない。
そこで俺は考えた。
「頼むよ。トイレで俺を脅してくれないかな?」
「なんだ明石?珍しくお前から話しかけてきて」
彼は別クラスの不良役を作ってるAACの同僚で、青谷大蓮だ。
この学園は特別で、AACはクラスに一人は所属している。
勇者というのは基本的に正義感が強いことで有名だ。
なので不良でいれば、勇者が釣れる可能性があるから潜伏している。
「放課後にトイレに来てくれない?そこで助けに来るだろうやつを金属バットで殴って欲しいんだけど」
「それはいいが、相手はイレギュラーか?」
イレギュラー。
AACの中で異世界から帰還した人間をそう呼んでいる。
「あぁイレギュラーだ。奴を今日討伐しようと思っている」
「ふーん。まぁいいさ。この前はお前に助けられたしな。これで貸し借りなしといこう。何をすればいい?」
そして俺は説明した。
トイレで俺を恐喝して脅す。
絡んできたときに金属バッドで殴りつける。
たったそれだけの簡単な仕事だ。
「わかった。じゃあ念のため、他に二人の一般人も呼んでおこう」
「いいけど、ちゃんと記憶消去してくれよ」
「わかってるさ。あれでも友人ごっこは楽しいんだ。こんなこと巻き込みたくはない」
友人ごっこと来たか。
まぁこんな仕事をしてるんだ。
いつでも友人を殺さないといけないことがある。
「じゃあ放課後よろしく」
「あぁ。あとでな」
*
そして放課後、今の現状を作り出した。
彼はよくやってくれた。
しかしあいつが嘘泣きとはな。
「おーい明石。始末は終わった・・うぇ」
「悪いまだだ。大谷、彼のステータスみてごらん」
「うへ。マジかよ。まだ生きてんのか」
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名前 天池龍輝 19歳
レベル999
ジョブ 勇者
状態 瀕死
HP1/1254201
SP0/1254201
筋力1254201
俊敏1254201
技量1254201
スキル
身体強化 身体硬化 限界突破 残機+1 瞬間移動 ステータス隠蔽 アイテムマスター 翻訳
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これが勇者の実力。
スキルはどれも普通の人間には手に入れることができない。
全体的にステータスがおかしい。
一般人のステータスのHPは大抵3桁だ。
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名前 明石光 17歳
レベル15
ジョブ 学生
状態 健康
HP1120/1120
SP512/1996
筋力118
俊敏145
技量1456
スキル
影斬 鎖生成 剣技 銃技 清掃 記憶改変無効
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俺のステータスを見れば一目瞭然だろう。
「しかし、今回の勇者は化け物だな」
「あぁ。身体強化はみたことがあるが身体硬化はみたことがない」
「バッドが曲がったときは焦ったぜ」
俺はこれまで12人異世界から帰還した勇者を殺害している。
実際身体強化していても、金属バッドが折れる勇者はいなかっただろう。
「とりあえず処理してくれ。こっちも記憶を改変しないといけない」
「そのスキル便利だな。まぁ助かるが」
「そっちこそスキルでこれだけ血が散らかっててもすぐ片付くんだから便利だよ」
清掃は俺が指定した部屋で、汚物と認識したモノを消すスキル。
まぁ生命体は汚物と認識しても追い出せないんだけどな。
「とりあえず、こいつを殺そう」
「あー生き物はスキルの対象外なんだったっけか」
「そうだ。悪いが潰してくれないか?」
「おっけー。じゃあな天池くん」
そして天池龍輝の頭だったモノは霧散する。
意識があったのかは知らないけど、あったなら恐怖だろうな。
残った身体の方をステータス確認したが反応はない。
AACのステータス確認の機械は生命体にしか反応がない。
「やっと逝ったか。これで任務完了だ」
そして清掃のスキルを使い天池龍輝の死体を処理した。
SPを全部使うからキツいんだこれは。
「おうおう。処理が早いこってぇ」
「さぁ、お前も記憶処理してきてくれよ」
「へいよー。じゃあまた何かあったら呼んでくれな」
手を振ってトイレから出て行く大谷。
さぁ俺も任務報告のレポートを家に帰って書くか。
一読ありがとうございます。
タイトル詐欺!
まさにタイトル詐欺!
うへへへへへ
よろしくお願いいたします。