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80 メル(餅つき)


   ・・・・・


 ぺったんぺったんぺったん。

 クリスマスの翌日。メルは施設の庭で、みんなと一緒に餅つきをしています。毎年クリスマスの翌日にするのが恒例で、ご近所さんもお手伝いに来ています。みんなで餅米を持ち寄って、ぺったんぺったんついていきます。


 主役はもちろん子供たち。子供たちのために、小さな軽い杵も用意されています。もっとも、子供たちだけではとてもではないですがお餅にならないので、最後は大人たちが仕上げてくれています。

 メルも杵を持って、ぺったんぺったん。その隣では大人たちがべったんべったん。さすが、力強いです。メルも負けじと、ぺたぺたぺたぺた。


「メル。回数よりも一回ずつしっかりと。それとも俺の手を打ちたいのか?」

「あ、ごめんなさい」


 おとうさんに注意されて、ゆっくりとやります。振りかぶって、おとうさんが餅米をひっくりかえして、振り下ろします。ぺったん。それを丁寧にやっていきます。

 メルの額に汗が浮いてきたところで、交代です。

 継続して餅米をひっくり返しているおとうさんの隣に立ちます。まだまだぺったんは続きます。


「メル。隣、終わったぞ」

「え? あ、ほんとだ」


 いつの間にか、隣はつきあがったようです。お餅を大きなお皿に移して、家の中へと運んでいます。この後は少し冷まして、みんなでぷちぷち切り分けていくそうです。


「メルも行っておいで。つきたてのお餅ももらえるから」

「えっと……。うん」


 どちらかと言えばおとうさんと一緒にいたいのですが、けれどつきたても気になります。家の中へと向かえば、院長先生がまだまだ湯気の立っているお餅を手でちぎっているところでした。それを、小皿を持った子供たちに渡しています。

 側に住むおばちゃんからお醤油の入った小皿を渡されたので、それを持って院長先生の元へ。すぐにお餅を切り分けて、小皿に載せてくれました。


「わ……。すごい。みょーんってなる」

「みょーん……」


 院長先生が顔を背けました。どうしたのでしょう。

 他の子に場所を譲って、外に出ます。お箸ももらったので、お餅をお醤油につけて、一口。噛みちぎろうとしても、すごくのびます。みょーん。

 すごくやわらかくて、美味しいです。


 メルがお餅に悪戦苦闘していると、もう一つ用意された臼の場所から、大きな音が聞こえていることに気が付きました。そちらへと視線を向ければ、大人も子供も集まって何かを見ているようです。そこへと向かえば、


「ぬおおおおお!」

「…………。うるさい……」


 ケイオスさんがものすごい勢いと強さでどかどかお餅を叩き、アイリスおねえちゃんが素早く餅米をいじっています。

 ぺたどかぺたどかぺたどか。早すぎてもう何がなにやら分かりません。

 あっという間に、お餅がつきあがりました。


「ん。次」

「はいはい。それじゃあこっちもお願いね」


 ご近所のおばあちゃんが楽しそうにお餅と餅米を入れ替えます。そして再び始まるぺたどか連打。


「いやあ、今年は楽でいいねえ。たくさんお餅が作れそうだよ」

「こりゃいいな。おい、追加だ追加」

「よしきた」


 どうやら大人たちはこの機に量産するつもりのようです。

 メルもお餅を食べながら見守ります。ぺたどかぺたどか。楽しそうというよりも、ちょっと怖いです。二人揃って本気でやりすぎではないでしょうか。


「何やってんだ、あれ」


 交代したのか、おとうさんが来ました。手にはお餅のお皿があります。おとうさんもお餅をもらってきたようです。


「餅つき……?」

「あれを餅つきとは認めたくないな、絶対に」


 お父さんがため息交じりに言うと、周囲の大人も苦笑しながら頷いています。そういうもののようです。


「風情も何もあったものじゃないな……。いや、量が欲しいから、いいんだけどさ」


 今日手伝いに来てくれた人はもちろんのこと、何もなくてもご近所さんには配るそうです。普段からお世話になっています、というお礼を兼ねて。もちろんお餅がなくなればそこで終了になるだけなのですが、それでもやはりあればあるほどいい、とのことでした。

 やがて餅つきはおねえちゃんとケイオスさんのみの仕事になって、他の人はつきあがったお餅の処理に追われていきます。冷ましたお餅をちぎってこねて丸めて並べて。床に並ぶ数え切れないお餅はなかなか壮観です。


 丸め終わったお餅は袋詰めにして、まずは手伝ってくれた人に渡します。全員に配って、施設で使う量もキープしてから、今度は施設の子供たちで配りに行くのです。

 未だぺたどかしている二人に手を振って、メルたちもご近所巡りを始めることになりました。引率はおとうさんです。院長先生から渡された地図をもらって、決められた家へと向かいます。


 毎年恒例のためか、インターホンを鳴らすとみんなが笑顔で出迎えてくれます。いつもありがとうね、とお餅を受け取ってくれます。メルたちもなんだか嬉しくなります。

 二十件ほど配ってから、施設に戻りました。餅米もなくなったようで、餅つきは終わっています。家に入ると、おねえちゃんとケイオスさんがつきたてのお餅を食べているところでした。


「ただいまー」

「ん。おかえり」

「うむ」


 おねえちゃんとケイオスさんが頷きます。そして、


「これは、変な食べ物」

「よくのびるな……。なかなか、面白い」


 二人とも、お餅が気に入ったようです。見ているとメルもまた食べたくなりました。ただ、メルはもうすでに食べています。やっぱり、怒られるでしょうか。


「おとうさん……」


 おとうさんの服の袖を引きます。するとおとうさんは笑いながら頭を撫でてくれました。そのまま、院長先生の元へと向かいます。二人は短く会話すると、おとうさんがおもちとお皿を受け取っていました。


「ほら、メル。今日はこれで最後だからな」

「うん!」


 受け取ると、先ほどとは違い海苔が巻いていました。すでに醤油をつけられているようで、黒っぽくなっています。さっきのとは違うのかな、と思いながら口に入れて、そして、みょーん。あまり変わりませんでした。


「おいしい!」


 メルがおとうさんに言うと、おとうさんは楽しそうにメルを撫でてくれました。

 そうして今日の餅つきは終了です。とても、とっても楽しくて美味しい一日でした。


   ・・・・・


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ではでは。

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