78 クリスマス
奏は不器用と言えばいいのか、頭脳を使うことなら様々なことができるのだが、肉体を動かすことになればはっきり言って役立たずになる。今回は飾りを壊す程度で済んだのだから軽い方だろう。
分かっているなら手伝わせるなと言われるかもしれないが、それはそれで拗ねる。とても面倒くさい性格だが、誠曰くこれがいいとのことだった。いわゆるのろけだ。聞いた瞬間少しいらっとしたのは修司だけではないはずだ。
何かを壊して拗ねる方が、自己嫌悪の方になるのでまだ扱いやすい。なので院長ですらとりあえず失敗させるという操り方をしている。
つまりはいつものことなのである。
「おねえちゃん、元気出して?」
奏の隣でメルが言う。心配そうなメルに、奏は困ったように眉尻を下げた。
「うん。メルちゃんは気にしなくていいのよ。うん」
「いたいのいたいのとんでけー」
「ああもうメルちゃんかわいいなあ!」
「わぷ」
メルを抱きしめて頬ずりする奏と逃げようとするメル。他人が見れば通報案件だが、メルがそれほど嫌がっていないようなので、様子見でいいだろう。
「さてと。俺も何か手伝おうか」
「あ、私も! 私も手伝う!」
メルが手を上げて宣言する。微笑ましい気持ちになるが、メルには最優先でお願いすることがある。アイリスたちの作業を手伝っても、メルだと手が出せる部分が少ないのもあるため、やはりお願いすることは一つだろう。
「よしメル! 最重要の指令を与える!」
「はい!」
元気よく返事をするメル。気合いたっぷりだ。頬が緩むのを止められない。
「メルにはちょっとこのお姉ちゃんの相手をお願いしたい。一人だと拗ねるから」
「ちょっとシュウ! どういう意味よ!」
「わかりました! かなでおねえちゃんと遊んであげます!」
「メルちゃん!?」
まさかのメルの悪のりに奏が愕然としているが、むしろこれは奏としては良い提案のはずだ。なにせこれから全員で準備をするのだ。その間、メルと二人で遊ぶことになる。
ということを説明してやると、奏はなるほどと頷いて表情を輝かせた。我が幼馴染みながら、単純すぎて今後が不安になる。
「それでいいわよ!」
「ああ、ちなみに。メルに変なことをしたら……」
そっと、奏の方に手を置いて、彼女の耳元でゆっくりと、はっきりと、告げた。
「殺すぞ」
「怖い。幼馴染みの想定以上の親ばかっぷりが」
失礼な。思うが、口には出さないでおく。一応自覚はあるためだ。
それじゃあよろしく、とメルを撫でて、修司はまずアイリスの元へと向かった。
準備を終えたのは、日もすっかり傾いて、今にも暗くなりそうな時間だった。誠が腕によりを掛けて作った料理の数々も、今はテーブルの上に並んでいる。今日は貸し切りということで、いくつかのテーブルを集めて、囲めるようにしておいた。
定番のチキンはもちろんのこと、サンドイッチや大盛りのフライドポテトなど、なかなかに種類が多い。そのほとんどが作りたてということで良い匂いが鼻をくすぐってくる。お腹が鳴りそうだ。
全員にジュースで満たされたコップが行き渡ったところで、誠が言った。
「さて、それじゃあみんな、遠慮なく食べてほしい! 乾杯? 僕達に今更そんなもの、いらないだろう?」
ということで、各々が好きに料理を取ることになった。
メルはまだまだ手が届かないので、メルが食べるものは修司が取ってやる。誠から大きな皿を受け取り、様々な料理を少しずつ盛りつけていく。その皿をメルの前に置いてやれば、メルの顔が輝いた。
スパゲティをフォークでくるくる巻き取り、ぱくりと口に入れる。口の周りを汚すメルに苦笑しながら、ティッシュで拭いてやる。それでもメルの口の動きは止まらない。ごくんと呑み込んで、幸せいっぱいの笑顔で誠へと言った。
「おいしい!」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいよ」
その後もメルは唐揚げやポテトをどんどん食べていく。どれもが美味しいらしく、笑顔が崩れることはない。見ていてとても癒やされる。皆も同じように考えているらしく、料理を食べながらもちらちらとメルを見ていた。
メルが食べている間に、修司は骨付きのチキンを切っていく。骨付きをそのまま渡そうとは思えないので、丁寧に、メルの口の大きさに合わせて切ってやる。
「シュウ。食べてるかい?」
せっせとメルのためにチキンを切っていると、誠に話しかけられた。肩をすくめて、続ける。
「食べてるよ。少しずつだけど」
「代わろうか?」
「断固として拒否する。俺の楽しみを奪うな」
「あ、うん。ごめん。……なんか、すっかり親だね、シュウ」
何を今更、と鼻を鳴らす。修司はメルの父親だ。まだまだ半人前という自覚はあるが、それでもやはり、父親なのだ。できる範囲で頑張るしかない。
「はは。なんか安心したよ。フリーターになった頃は無気力になってたからね」
「あー……。まあ、それは否定しない。何もやる気が起きなかったからなあ……」
「うん。だから、良かった。メルちゃんが来てくれて。本当に、ね」
「はいはい。心配かけて悪かったよ」
修司が父なら、誠はいつも修司の兄だった。同じ施設で育った幼馴染みという面の方が強いが、院長の次に頼るのが誠だ。もっとも、それを口に出して言うことはない。気恥ずかしい。
「よし。ほら、メル。チキンだ」
「ちきん……、とり!」
「うん。とり」
「とりさんかわいそう」
そう言いながら食べる。思わず食べるのかよと言いたくなるが、これはいつものことだ。
異世界人特有の考え方、というよりも、現代人が忘れつつある食べ物への感謝。かわいそうだから食べない、などそんなことはメルを含めて考えない。弱肉強食、その代わりに、しっかりと食べ物へと祈りを捧げる。
色々と問題のあるエルフたちだが、こういった教育はしっかりしていたらしく、メルと出会った当初から身についていたことだった。その点はエルフを評価してもいいかもしれない。少しだけ、ほんのちょびっと。
いつもより豪華な料理を、全員で残すことなく食べ終えた。それなりにお腹が膨れたと思っていたところにデザートが出てきたのは驚いたが、それも含めてしっかりと食べ切れた。さすが誠と言うべきか、最後まで美味しく食べることができた。
メルも先ほどまで満足そうにしていたが、今はお腹がいっぱいになったためか、うとうとと眠たそうにしている。もう少し起きていてほしいが、大丈夫だろうか。
「よし! それじゃあメインイベント!」
奏が叫ぶ。メルがびくりと目を開けて、きょろきょろしている。そのメルへと、奏が言った。
「というわけで、メルちゃん!」
「なあに?」
「クリスマスプレゼント!」
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ではでは。




