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67 メル(職場見学2)

「何やってんすか、霧崎さん。……え? そういう趣味?」

「違うから。俺の娘」

「は? ……え? はい? この子が?」

「そう」


 男の人は目を白黒させて、おとうさんとメルを何度も交互に見ています。どうしたのか不思議に思いますが、とりあえずは挨拶です。院長先生に教わった挨拶をすることにします。


「初めまして! メルです! おとうさんがいつもお世話になっています」


 ぺこりと一礼。うまくできた、と思います。顔を上げると、またも呆然としている男の人と、何故か顔を引きつらせているおとうさんが見えました。


「あー……。アイリス。お前が教えたのか?」

「違う。院長先生」

「なるほど……。いや、うん。間違ってないけどさ」


 はあ、とおとうさんが大きなため息をつきました。何か失敗してしまったのでしょうか。不安になっていると、おとうさんは苦笑して撫でてくれます。


「いや、何も間違ってないよ。俺はまだ仕事だから、そうだな、本を立ち読みするなり、買い物するなりしておいてくれるか? それとも、先に帰るか?」

「待ってる!」

「そっか」


 おとうさんが笑いながら仕事に戻っていきます。メルはおねえちゃんと一緒に、雑誌コーナーに向かいます。ですが、メルはあまり漫画を読みません。手に取るのは旅行を題材とした本です。ちょっと重たいので開きにくいですが、おねえちゃんにも手伝ってもらって本を開きます。

 メルはあまり科学というものが好きになれません。すごいとは思うのですが、空気の汚れる原因だと思うと、内心はちょっとだけ複雑です。ですが、この写真というものは、とてもいいものだと思います。遠い場所の景色を、実際に行かなくても見られるなんて、あの世界では考えられませんでした。


 もうすぐ冬ということで、冬景色の特集でした。北の寒い地方の雪景色が紹介されています。そして、スキーというスポーツも。楽しそうです。やってみたいと思いますが、この土地で雪が積もることはあまりないと聞いたことがあるので、難しいでしょう。


「おねえちゃんは雪って見たことあるの?」


 メルが聞くと、おねえちゃんは頷いて、


「あちらの人間の国だと、地域にもよるけど、積もるところがある。私も、見たことぐらいはある。このスキーというものは知らないけど」

「へえ……。エルフの里はずっとぽかぽかしてたから、見たことなくて。見られるといいなあ……」

「ん。それならスキーにも行こう。シュウに相談しておく」


 なんだか冬休みはスキーに行くことになりそうです。メルとしては嬉しいのですが、とりあえずおとうさんに相談でしょう。行くことができるなら、ケイオスさんとも一緒に行きたいものです。

 ケイオスさんは、まだ戻ってきていません。あの世界に行ったきり、連絡もありません。おとうさんはもちろん、おねえちゃんですら少し心配しているのが分かります。早く戻ってきてほしいものです。




 おねえちゃんと一緒に写真を眺めていると、唐突に肩を叩かれました。おねえちゃんと一緒に振り返ります。

 そこにいたのは、女の人でした。活発そうな印象を受ける女性です。女性はにっこり笑顔で言いました。


「おはようございます。あなたが、メルちゃん?」

「うん。だあれ?」

「私は、そうね……。ここの店長よ」

「店長さん!」


 おとうさんが働くお店の店長さん。つまりおとうさんよりも偉い人です。慌てて姿勢を正して、頭を下げました。


「初めまして! おとうさんがいつもお世話になっています!」


 そう言った直後、どこかで何かをぶつける音が聞こえてきました。例えるなら、誰かが机に頭を打ち付けたような音です。きょろきょろと周囲を見回せば、おとうさんがレジで頭を抱えているだけでした。あの音は気のせいだったのでしょうか。

 店長さんへと視線を戻すと、何故か肩をふるわせていました。笑っているようです。何かあったでしょうか。


「ふふ……。霧崎君が自慢するのも分かるかな」


 店長さんが頭を撫でてくれます。嫌な感じはしないので、撫でられておきます。店長さんの撫で方は丁寧で、こちらに気を遣ってくれているのがよく分かりました。


「お父さんはまだもう少しお仕事だから、ここで待っていてもらえる?」

「うん! 大丈夫!」


 店長さんは嬉しそうに微笑むと、もう一度メルを撫でてからカウンターの方に行ってしまいました。そこでおとうさんと何かを話しています。いつの間にか、外で掃除をしていた男の人も一緒でした。どんな話をしているのか気になりますが、お仕事の邪魔をするわけにはいきません。

 メルは再び本に視線を戻して、おとうさんを待つことにしました。




 さらにまた時間が経って、おとうさんの仕事が終わりました。雑誌コーナーに来てくれたおとうさんと一緒に、またレジに向かいます。せっかくなので何か買ってくれるそうです。


「何が欲しい?」

「えっと……えっと……」


 コンビニには魅力的なものがたくさんあります。お菓子もそうですし、ジュースもそうですし、アイスも。レジの周りには肉まんとかフライドチキンとか、これらも美味しそうです。とてもすぐには選べない量なのです。

 おとうさんと一緒のものにしようかなと思ったら、おとうさんはゆっくり選ぶといい、とメルを待つつもりのようです。これは、困りました。


「何でもいいの……?」

「うん。何でもいいぞ」


 それじゃあ、とメルはデザートコーナーへ向かいます。その棚にある、ちょっと高いプリンを手に取りました。おとうさんの顔色を窺ってみますが、特に怒ってはいないようです。安心して、そのプリンをレジへと持っていきました。


「お願いします!」


 メルがプリンを渡すと、店長さんは優しく笑って受け取りました。小さな機械でバーコードを通して、おとうさんがお金を払います。そうしてから、店長さんがプリンの入ったレジ袋を渡してくれました。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」


 ぺこりと頭を下げます。店長さんはにこにことても機嫌がよさそうです。


「これぐらいの子が一番かわいいよね。霧崎君、また連れてきなさい」

「ははは……。考えておきますよ」


 そうして、店長さんと、そして男の人に手を振られて、メルたちは店を後にしました。

 三人で、のんびりと施設への道を歩きます。いつもよりちょっと良いプリンにメルの足取りは自然と軽くなります。早く食べたいものです。


「ん……。プリン一つですごくご機嫌。いつかプリンにつられて騙されないか心配」

「ははは。いやいやそんなこと……。ないよな?」


 おとうさんが不安そうにしていますが、少し失礼ではないでしょうか。さすがにメルでも、プリン一つで騙されたりしません。メルを騙すつもりならプリン五つは出すべきです。


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