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「あのバカ……。悪いね、シュウ。奏にはあとできつく言っておくよ」

「ああ」


 おとうさんと誠さんが笑い合います。いまいちメルには分かりませんが、でも二人が、おとうさんが楽しそうだとメルも嬉しいです。でも、もうちょっと構ってほしいです。

 もう一度ぐりぐりと頭をこすりつけると、おとうさんは笑いながら膝の上に載せてくれました。


「ちなみに、メルちゃん。家族とも結婚できたとしたらどうする?」

「おとうさんとする!」

「あっはっは。……どうしよう、泣きそう。嬉しい。世の中の娘を持つお父さんの気持ちがすごく分かった」

「はは。良かったじゃないか、シュウ」


 にこやかに笑い合っています。どうしたのかなと思いながらアイリスおねえちゃんを見ると、おねえちゃんも笑顔で、けれど何も言わずに撫でてくれました。


   ・・・・・


 メルを寝かしつけてから、修司は喫茶店に戻っていた。誠もわざわざ待っていてくれていて、修司が頼んでいたものを準備してくれている。アイリスとケイオスも修司を待ってくれていたようだ。


「悪いな、無理言って」


 修司が言うと、気にするなとばかりに誠が首を振った。

 誠が用意していた日本酒をコップに注ぐ。この一杯だけという約束なので、修司はそれを少しだけ飲む。大事に飲まなければ。


「シュウ。大丈夫?」


 アイリスが聞いて、修司は肩をすくめた。


「ああ。ただやっぱり、ちょっと、きついな」

「仕方あるまい。父親だけでは、足りないこともあるだろう」


 ケイオスの言葉に、修司はため息をと共に頷いた。

 思い出すのは、ここでのメルの話だ。あの子はけんちゃんを羨ましいと言っていた。やはり、母親が恋しいという気持ちがあるのかもしれない。

 寂しくないようにと、してきたつもりだった。それでもやはり、修司だけでは限界がある。仕事があるとメルが帰ってきた時にただいまを言うことはできないし、あの子が夜に目を覚ました時に一緒にいてやることもできない。


 もちろん院長や職員はそれらも考慮してくれている。院長は、夜は時折様子を見に行っているとも聞いている。頭が上がらない。

 だがやはり、修司がどうにかしなければならないことではある。

 やはり、母親はいるべきなのだろう。けれど、どうにもならない。こればかりは、修司の努力でどうにかなる問題ではない。


「ディーネを探すべきか?」


 メルの実母を思い浮かべてつぶやくと、その場にいる全員が首を振った。

 まずは誠が言う。


「話を聞いただけだけど、どう聞いてもろくな親じゃない。今後改心したとしても、過去が消えるわけじゃないよ。メルちゃんの負担になるだけだと思うけど?」


 次にケイオス。


「探すとしても現実的ではなかろう。もう元の世界に帰っているはずだ。手がかりもなく探し出せるほど、あの世界は狭くないぞ」


 最後に、アイリスが言った。


「何より、メルがそれを望んでない。メルが望んだのなら、ディーネはここに戻らざるを得ないことになっているはず」

「なにそれ怖いんだけど」


 だが確かにアイリスの言う通り、メルがそれを望んだのならディーネはすでに戻ってきているはずだ。音沙汰がないということは、メルもディーネを求めているわけではないということだろう。


「じゃあ、やっぱり……」

「シュウが見つけるしかないね。シュウと気が合って、メルちゃんと仲良くできて、かつ異世界のことを受け入れてくれる女性を」

「難易度高すぎて笑うしかないな」


 それに、打算ありで女性と付き合えるほど、修司は器用ではない。きっと、ろくなことにならないだろう。

 幸い急いで手を打たなければならない問題というわけでもない。この件は保留でいいだろう。

 修司がそう言って残りの酒を喉に流し込むと、三人ともが肩をすくめていた。


   ・・・・・


 九月もそろそろ終わろうとしている頃。小学校の大きなイベントの一つが迫ってきています。

 それはずばり、運動会です。

 低学年も高学年もみんなが運動場に集まって、そして運動をするイベントだとメルはおとうさんから教わりました。どうしてそんなことをするのか、メルには分かりません。ですが、施設のみんなはとても楽しみにしているようなので、きっと楽しいことなのでしょう。


 メルが出る競技は、障害物競走と、そしておとうさんと一緒に出る二人三脚です。あとは全員参加のダンスと、大玉転がし。

 二人三脚については、少しずつおとうさんと練習をしてきました。きっと良い順位が狙えるはずです。

 他の競技は体育の授業で練習しただけですが、きっと大丈夫でしょう。

 心配があるとすれば、おとうさんの体調、でしょうか。




 ある日の夜。ベッドの中で、メルはおとうさんに聞きました。


「おとうさん、運動会の日、本当に大丈夫? 無理しなくても、いいよ?」

「大丈夫だって。メルが出ていない競技の間は寝るし」

「ちゃんと寝ないとだめだよ?」

「ははは。メルは心配性だな。まあ無理はしないさ。心配してくれてありがとな」


 そう言って、おとうさんが撫でてくれます。ですがやはり、心配なものは心配なのです。

 運動会があるのは日曜日です。そして土曜日の夜は、おとうさんは仕事です。いつもの日曜日なら、朝かお昼過ぎにお昼寝をしているはずなのです。


「どうしてもきつかったら、その時は帰って寝るからさ。メルは気にせずに楽しんでくれ。な?」

「うん……」


 メルは頷きこそしましたが、あまり納得はできていません。

 もちろん、メルとしても来て欲しくないわけではありません。他の誰よりも、おとうさんに一番来てほしいのです。ですが、やっぱり、心配なものは心配なわけで。


「メル」

「なあに?」

「我が儘ぐらい言えって言っただろ? メルは、俺に来て欲しいのか来て欲しくないのか、どっちだ?」


 その言い方は、ずるいと思います。


「来て欲しい……」

「うん。じゃあ、行くよ」


 そう言って、おとうさんは優しく撫でてくれます。それならメルも、大人しく信じることにしましょう。おとうさんなら大丈夫だ、と。


「おとうさん、ありがとう」

「おう」


 メルが笑顔でそう言うと、おとうさんも笑ってくれました。


   ・・・・・


壁|w・)というわけで、まったり運動会編です。

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