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58 メル


   ・・・・・


 学校の帰り道、メルはおとうさんが待つ公園へとみんなと一緒に歩きます。新しく友達になったけんちゃんも一緒です。お昼休みは男の子たちとサッカーなどをしているようですが、短い休憩や帰りはメルたちと一緒になっています。

 けんちゃんは公園まで行きません。その途中にある商店街のお肉屋さんがけんちゃんの家です。


「けんちゃん、また明日!」

「うん。またね、メルちゃん」


 はにかみながら手を振るけんちゃん。そうしてお肉屋さんの前で待つけんちゃんのおかあさんの元へと向かいます。


「ただいま」

「ああ、おかえり。仲良くできてるかい?」

「うん」


 あの時はとても怖く思いましたが、今はとても優しそうなおかあさんです。

 ちょっとだけ。本当にちょっとだけ、羨ましいな、なんて。

 それを見ていると、声をかけられました。


「どうしたの?」


 振り返ると、アイリスおねえちゃんがいました。その少し向こうでは、おとうさんが魚屋さんで何か買っています。こちらをちらちらと見ているので手を振ると、おとうさんは笑いながら頷きました。


「なんでもないよ」

「そう?」

「うん」


 買い物を終えたのか、おとうさんがこちらに来ました。メルと、けんちゃん親子を見て、少しだけ眉尻を下げました。すぐに首を振って、メルへと言います。


「みんなには出かけてくるって言ってある。喫茶店にでも行くか」


 そのおとうさんの提案に、メルは破顔して頷きました。


「うん!」




「月曜日は定休日なんだけど」

「じゃあ帰るよ」

「いや、誰も帰れとは言ってない。帰るにしてもメルちゃんは置いていって、甘やかすから」

「おい」


 おとうさんと誠さんの会話を聞きながら、メルはケーキを口に入れます。幸せな甘さが口の中に広がります。今日のケーキはモンブランです。


「ふむ。俺には未だにケーキの良さが分からん」


 ケイオスさんがハンバーガーを食べながら言います。ケイオスさんの前にはハンバーガーが十個ほど山積みになっています。それを見ていると、ケイオスさんはこちらを一瞥して、おもむろに新しいハンバーガーを手に取りました。指を振ると、ハンバーガーが綺麗に半分になります。


「食うか?」

「いいの?」

「うむ」


 お礼を言って、ハンバーガーを受け取ります。肉汁たっぷりのハンバーガーはやっぱりとても美味しいです。


「メル。あの時の男の子は新しい友達?」


 ふと、おねえちゃんがそう聞いてきました。あの時の男の子というのは、けんちゃんのことでしょう。メルは頷いて答えます。


「うん。最初はね、なんだか悪口を言われてたの」

「悪口」

「殺すか」

「やめろ」


 おとうさんが口を挟みます。冗談だとケイオスさんが肩をすくめて、おとうさんは疑わしそうにしながらも誠さんとの会話に戻ります。


「でね、色々あって友達になったの」

「色々」

「一番大事な部分を省略していないか?」

「メルにとっては友達になった部分が大事なんだよ」


 またおとうさんが口を挟みます。その通りです。


「その子のお母さんがね、すごく怖い人なんだよ」

「あー……」

「ん? どうしたの、シュウ」

「いや、同情しただけ」


 あのイメージが定着したか、とおとうさんが苦笑しながら言いました。よく分かりませんが、メルの中でのけんちゃんのおかあさんは、ちょっと怖い人です。でも。


「怖いけど、けんちゃんが大好きなのは、分かったよ」


 理不尽な暴力ではなかったのは、メルにも分かります。間違ったことをしたから、厳しく怒っていたのです。きっとそれ以外では、とても優しいおかあさんなのでしょう。帰り道のけんちゃんを見ていると、それはよく分かります。


「あれが、おかあさん、なんだね」


 いいなあ。そんなことをつぶやけば、おねえちゃんがメルの頭を撫でてきました。きょとんと首を傾げると、おねえちゃんが言います。


「メルにはおとうさんがいる。私や魔王もいる」

「うん。でも、ちょっとだけ羨ましいなって。もちろんおとうさんが一番好きだけど! おとーさーん!」


 隣のおとうさんに抱きつくと、おとうさんは笑いながらメルを抱き上げてくれます。いつもの温かいおとうさんです。ぐりぐり頭をこすりつけると、頭を撫でてくれました。


「本当に、メルちゃんはシュウのことが好きよね。将来はシュウのお嫁さんになるの?」


 おとうさんの向こう側で、奏おねえちゃんが言いました。手元のパソコンをじっと睨み付けています。ちょっと雰囲気が怖かったのでそっとしておいたのですが、大丈夫でしょうか。


「お嫁さん? それは無理だよ」


 あれ? おとうさんが固まりました。同時に、奏お姉ちゃんが噴き出して、誠さんが顔を逸らして肩を震わせてういます。メルが首を傾げていると、アイリスおねえちゃんが言いました。


「えっと、メル。それはどうして? お父さんのこと、好きなんだよね?」

「だって、けっこんって、あかの他人が家族になるためにするものでしょ? 私とおとうさんは親子だもん」

「ああ、そういう認識になってるのか……。良かった、嫌われたわけじゃなかった」

「良かったじゃない、シュウ。笑い死ぬかと思ったわ」


 まだ笑ったままの奏おねえちゃんが言います。確かに、と誠さんが頷いて、


「でも、覚え方というか、言い方に悪意を感じるね。いや、間違ってはないけどね? メルちゃん、誰に教わったの?」

「奏おねえちゃん」

「へえ……」


 全員の視線が、奏おえちゃんへと向きました。奏おねえちゃんはパソコンを閉じておもむろに立ち上がると、


「急用を思い出したから戻るわね!」


 一目散にカウンターの奥へと消えてしまいました。


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