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「おとうさん、その黄色はなあに?」

「マスタードだよ。ちょっと辛いけど、かけるか?」

「かける!」


 自分のしていることを真似したいのだろうな、とそんなことを考えながら、メルのフランクフルトに少しだけつけてやる。一切の躊躇なく、メルはそれを口に入れた。


「うーん……」

「どうだ?」

「ケチャップだけでいい」

「そっか」


 メルの口には合わなかったようだ。こればかりは好みの問題なので仕方ない。メルは辛いものはだめというわけでもなかったはずなので、本当に単純に好みの問題だろう。

 次に立ち寄ったのは、たこ焼きの店だ。ただこれは食欲よりも、その手際に興味があるらしい。メルにせがまれたので抱き上げてやると、店員がたこ焼きをくるくるひっくり返していくのを興味津々といった様子で見つめていた。


「ん。すごい。器用」


 アイリスも感心しているのが分かる。メルとアイリスにじっと見つめられているおじさんは少々居心地が悪そうだ。照れくさいのか、頬がひくひくと引きつっている。

 くるくるくるくる。くるくるくるくる。まさに職人技だ。

 慣れれば簡単だとも聞くが、それでもここまで素早くひっくり返すのは相応に経験の技だろう。


「おとうさん、ありがとー」


 たっぷりと見学して、メルは満足したらしい。最後に十二個入りのパックを購入して後にする。


「シュウ。どうやって食べるの?」

「あ」


 修司の片手はメルの手をしっかりと握っている。少しぐらいなら放しても問題ないのでは、とも思うが、その結果メルが迷子になる可能性もある。放したくは、ない。


「仕方ない」


 アイリスはたこ焼きを奪い取ると、パックを開けて爪楊枝を手に取る。たこ焼きに刺して、しっかりと息をふきかけて冷ましてから、メルへと差し出した。


「はい、メル」

「おねえちゃんありがとー!」


 ぱくりと一口。まだ少し熱かったのだろう、はふはふと口を閉じれずにいる。けれどすぐに呑み込んで、


「美味しい!」

「ん……。シュウ」


 今度はシュウに差し出してくる。もちろんしっかりと冷ましてから。少し気恥ずかしく思いながらも、素直にそれを口に入れる。まだ少し熱いが、食べられないほどではない。


「ん……。美味しい」


 アイリスも満足しているようだ。ただ彼女は恥ずかしくないのだろうか。修司の方が恥ずかしくなってくる。


「おとうさん、どうしたの?」


 首を傾げたメルに何でも無いと答えながら、アイリスが差し出してくるたこ焼きを食べつつ次に向かった。




 人が多くなってメルが迷子になった、なんてこともなく、三人は夜の七時にはホテルに戻ってきた。修司は少し疲れているが、メルは今も元気そうだ。そんなメルの持つ袋には、スーパーボールが大量に入っている。

 メルが一番喜んだのは、スーパーボールすくいだ。最初は一つも取れずにポイの紙を破っていたが、何度も何度も挑戦するうちにそれなりの数が取れるようになっていた。その結果が、メルの持つ袋だ。


「それで遊ぶ時は周囲に気をつけるんだぞ」


 念のため、そう声をかけておく。メルはしっかりと頷いた。

 浴衣を着替えて、それぞれの部屋に戻る。この後は風呂の後に、この部屋に集まることになっている。

 修司が風呂の準備をしている間に、メルはスーパーボールを一個取り出して、テーブルの上で転がし始めた。何が面白いのか、にこにこと楽しそうだ。


「割れる物は、ないな」


 修司とメルの間、そしてそれぞれの向こう側に破損しそうなものがないことを確認してから、メルへと言う。


「メル」


 ちょいちょいと、指を動かす。それだけで察したのか、メルはぱっと笑顔になった。えいや、と修司へと投げてくる。ボールは何度か床に跳ねながら、修司の手に収まった。


「いくぞー」

「うん!」


 次は修司が投げる。もちろん軽くだ。ボールは床を何度か跳ねて、メルの手の中に収まった。

 その後も二人でスーパーボールの投げ合いを続ける。跳ねて転がるボールを見ているだけでメルは上機嫌になっている。修司としては何が面白いのかはあまり分からないが、メルが楽しそうならそれでいい。

 ボールで遊んだ後は一緒に風呂に入る。メルは風呂にまでボールを持ち込んできた。それも、祭りでもらった物全部だ。計十個のボールを浴槽に浮かせて喜んでいる。


「メル。間違っても呑み込むなよ?」

「のみこまないよ」


 少しだけ不機嫌そうに唇を尖らせる。さすがに子供扱いしすぎたかもしれないが、修司としては心配の種はできるだけ潰しておきたい。

 水に浮くボールで遊び始めた頃には、すでにメルの機嫌は良くなっていた。波を立たせてボールを飛ばしたりと、一人で遊んでいる。ボールだけでよく遊ぶものだ。


「うん。なんかボールに負けたような気がする」


 くっついてもらえないのがちょっとだけ寂しい。そんなことを考えていると、修司の呟きが聞こえたのか、メルがこちらをじっと見ていた。そしてすぐに、こちらへとやってくる。そうして修司の腕の中に収まった。


「メル?」

「んー」


 ぎゅっと、メルが抱きついてくる。気を遣わせただろうか。頭を撫でてやると、メルはふんにゃり笑って頭をぐりぐりこすりつけてきた。


「どうしたんだ?」


 突然の甘えっぷりに修司の方が困惑してしまう。メルは顔を上げると、少し考えるように視線を上向かせて、


「今日はもう恥ずかしいから、今のうちに甘えておくの」

「恥ずかしい?」

「うん。あとは……えっと……。まーきんぐ?」

「いつの間に犬になったんだ」

「わんわん!」

「はいはい」


 苦笑しながら、抱き直して頭を撫でる。いまいちメルの言いたいことは分からないが、甘えてくるなら甘やかすだけだ。修司としても楽しいので問題ない。


「えへへ。おとうさん大好き」

「おー。俺も大好きだぞ」


 甘えたい日でもあるのだろう。修司は苦笑しながら、メルを撫で続けた。


壁|w・)娘に気を遣われるお父さんの図。

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