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翌朝。スマホのアラームに起こされた修司は、隣でしがみつくようにして眠っているメルの体を揺すった。すぐにメルは目を開けて、大きな欠伸をする。目をこすろうとするのでそれを止めてから、一緒に顔を洗う。
朝食のために部屋を出て、またアイリスと鉢合わせをした。いや、これは鉢合わせというよりも、ずっとここにいたのかもしれない。
「おねえちゃん、おはよー!」
「おはよう、アイリス。どうした?」
アイリスはこちらを見て、珍しいことに小さく欠伸をした。何でも無い、と首を振る。
「もしかして、あまり寝られなかったのか?」
「ん……。何もないとは分かってるけど、殺し合いをしていた相手と一緒の部屋は、やっぱり緊張する」
「あー……。だよな……」
やはり大丈夫ではなかったようだ。今晩は少し考えてやらないといけないかもしれない。
「おねえちゃん、大丈夫?」
メルがアイリスに駆け寄って、その手を握って聞く。アイリスは少しだけ目を見開き、次に薄く微笑んで、
「大丈夫、だよ。ご飯、行く?」
「うん!」
メルの元気な返事を聞いて、アイリスもしっかりと頷いた。
「ケイオスは?」
「後で食べるらしい。多分、私に気を遣ってる」
「ケイオスらしいな」
いつも思うが、本当にケイオスは魔王なのかと疑ってしまう。最近よく一緒に行動している自分たちの中で、一番気遣いしているのではなかろうか。
同じことを思っているのか、アイリスは何も言わないながらも神妙な面持ちだった。
昨晩と同じレストランで、朝食はバイキング形式だ。大きなテーブルに様々な料理が並んでいる。
「うわあ! うわあ! おいしそう!」
あれもほしい、これもほしい、なんて呟きながら、メルの視線はあっちこっちに向かっている。放っておくと食べられない量を取りそうだ。残しても怒られるわけではないが、自分で量を調節できるのだから残さない程度に取らないと失礼だろう。
メルに皿を渡して一緒に回る。ただ、それほど心配する必要はなかったらしい。そもそも背が届かないので、メルが欲しい料理があるたびに修司が持ち上げてやっている状態だ。
「おとうさん! カレーがある! ソーセージもある!」
「うん。いろいろあるなあ。ソーセージカレーにしようか」
「ソーセージカレー!」
そう言えばお子様ランチの付属のカレーライスはトッピングがなかったな、とそんなことを考えながら、メルの皿にカレーをよそってやる。ソーセージと、ついでに唐揚げもセットにしておこう。メルに手渡してやると、それはもう嬉しそうにぴょこぴょこ飛び跳ねていた。
「すごい!」
「うん。大人しくしないと、こぼすぞ」
修司も同じものを盛りつけて、空いている席に向かう。後ろを見れば、アイリスはサンドイッチの盛り合わせだった。
席に座って、手を合わせていただきます。もうすっかりメルも慣れたものだ。見た目が外国人のメルがいただきますと流暢に言うのは、なかなか妙な光景のように見えるかもしれない。
事実として、実は結構注目を集めている。今だけでなく、人が多い場所だといつもだ。地元ではもう皆も慣れたのかそうでもないのだが、デパートなど大勢の人が集まる場所ではやはり目立つらしい。
メルは手に持つスプーンでカレーをすくい、唐揚げにかけている。ぱくりと一口、瞳が輝く。どうやら唐揚げとカレーの組み合わせはメルのお気に召したらしい。にこにこと笑顔が絶えない。本当に、美味しそうに食べるものだ。
「ん……。私も同じものを取ってくる」
そう思ったのはアイリスも同じだったらしい。新しい皿をもらいに行った。
「それにしても……」
修司もカレーを一口。辛口ではないが、いわゆる中辛程度の辛さだ。子供向けではないと思うのだが、メルは気にせず食べ進めている。もぐもぐもぐもぐ、止まることがない。水すら飲まない。
「メル、辛くないか? 甘口も一応あるんだぞ?」
「うん。大丈夫。前まで食べてた果物に比べれば平気」
「あ、そう……」
以前までの、つまりはエルフの里での食生活が微妙に気になるところだ。辛いものが平気になる果物とはどんな刺激物だろうか。ディーネにはもっと文句を言っても良かったかもしれない。
結局メルはそのまま、平気な顔をして、やはり水も飲まずに完食してしまった。
・・・・・
どうしてこうなったのだろう。ケイオスは海に足首をつけて、漠然とそんなことを考えていました。
「ケイオスさん?」
視線を下げれば、愛し子が両手を出してこちら見ています。小首を傾げるその仕草は素直に可愛らしいものです。
「まだやるのか?」
「うん!」
内心でため息をつき、メルを両手で持ちます。そして、少しだけ力をこめて、投げました。
「きゃー!」
楽しそうな声を上げながらメルが飛んでいき、そして落下地点にいるアイリスが器用に勢いを殺して受け止めました。
最初は魔法で保護しようかと二人とも考えていたのですが、周りに疑問に思われることは避けるべきだという修司の意見に従い、この形を取っています。メルはこれでも満足らしく、またこちらへと走ってきて両手を出してきます。もっと投げろ、と。
ケイオスとしては、何が楽しいのかいまいち分かりません。分かりませんが、メルが楽しそうなので問題はないのでしょう。
そうして同じことを繰り返していると、なんだか周囲に子供たちが集まってきて。
どうしてこうなった。
いつの間にか他の子供も投げることになり、忙しくなってきたケイオスは内心で大きなため息をつきました。面倒だなんて思ってません。
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