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しばらく経って料理が運ばれてきた。修司の目の前にはハンバーグとコーンスープ、そしてライスのセットが、メルとアイリスの前には数種類の料理が盛られたプレートが置かれた。そして、ぬいぐるみ。
店員がアイリスに目配せして、アイリスが頷く、店員も頷き返すと、どうぞ、とメルにぬいぐるみを手渡した。シロクマとペンギンの二種類ともだ。
きょとん、と呆けるメルに、アイリスが言う。
「私の分。メルにあげる」
「いいの……?」
「ん」
アイリスが頷くと、メルは少し戸惑っているようだったが、次第に意味が分かってきたのだろう、花が開いたような満面の笑顔になった。
「ありがとう、おねえちゃん!」
「ん……」
照れているのか、ちょっとだけ顔が赤いように見える。笑いそうになるのを堪えながら、修司はメルの持つぬいぐるみを見る。
ぬいぐるみといっても、それほど大きくはない。メルでも二つ一緒に抱えられる程度の大きさだ。メルは二つのぬいぐるみを抱えて、とてもご満悦だ。
「良かったな、メル」
修司がそう言って頭を撫でてやると、
「うん!」
ぬいぐるみを抱えたままの、嬉しそうな返事だった。
夕食後、部屋の前でアイリスと別れた後、修司は風呂の用意を始める。用意と言っても、着替えを出して風呂のボタンを押すだけのものだ。
そうしてから寝室に入ると、メルはベッドの上で、すでに整った寝息を立てていた。
「あー……。しまった。どうするかな……」
これは予想しておくべきだった。あれだけ遊んでいたのだから、疲れて寝てしまうのは当然だ。こういった場合、どうすればいいのだろうか。起こして入らせるべきだろうか。
というのも、海水浴場の更衣室にはシャワーが備え付けられている。メルはアイリスと一緒に着替えていたが、しっかりとシャワーを浴びていたと聞いている。それを考えれば、今日ぐらいは目をつむるべきだろうか。
メルはぬいぐるみを大事そうに抱えたまま眠っている。なんとなく、起こしてしまうのがもったいない。
時計を見ると、まだ午後七時だ。もう少しだけ待ってから起こすことにする。
そう決めて、メルをベッドの中に入れてやってから、修司ももう片方のベッドに横になった。明日はどうしようかと、そんなことを考えているうちに、気付けば修司も眠りに落ちていた。
・・・・・
夜。メルは不意に目を覚ましました。抱いたままのぬいぐるみを見て、頬が緩みます。すぐにはっと我に返り、少し心細くなりました。おとうさんはどこでしょう。
きょろきょろと辺りを見回せば、すぐに見つけることができました。隣のベッドで、目を閉じています。寝ちゃっているみたいです。
ぬいぐるみをその場に置いてからベッドから下ります。おとうさんの側に行って、その頬をつついてみます。するとすぐに、おとうさんは目を開きました。
「んあ……。ああ、メル。……悪い、寝てた」
「んーん」
メルは別に気にしていません。だって、メルの方が早く寝ていたはずですから。
おとうさんは大きな欠伸をしてから、ベッドから下りました。時計を確認しています。少し寝過ぎたな、と苦笑いしています。
「とりあえず風呂でも入るか。その後は、ちょっとテレビでも見てから寝よう」
「うん」
そう言えばお風呂がまだでした。
おとうさんと一緒にお風呂に入ります。服を脱いで、おとうさんが出してくれた洗濯袋という大きな巾着袋に入れます。これに入れておくと、明日のうちにホテルの人が洗濯してくれるそうです。アイロンなどはなしの、本当に洗って乾かすだけのものらしいです。
体を洗って、おとうさんとお風呂に入ります。ぽかぽかとても気持ちが良いです。
「きもちいい……」
「はは。メルが本当に風呂が好きだな」
顔がふにゃふにゃだ、とおとうさんに言われたので手で顔に触ってみますが、よく分かりません。首を傾げていると、おとうさんは笑いながら撫でてくれました。
しっかりと温まるまでお湯につかってからお風呂から出ます。しっかりと体を拭いて、髪はおとうさんに乾かしてもらいます。
「メル。好きなものを見ていいよ」
おとうさんからリモコンを受け取って、テレビを操作していきます。このリモコン操作にも慣れたものです。
「おとうさん、消えちゃった」
「この間もう慣れたとか言ってなかったか?」
おとうさんが笑います。次からは気をつけます。
もう一度リモコンのボタンを押して、チャンネルを切り替えていきます。すると、アニメの映画を見つけました。
「お、懐かしいなこれ」
「知ってるの?」
「ああ。面白いぞ」
おとうさんと一緒に映画を見ます。ちょっと田舎のお話で、子供だけに見える大きな妖怪さんのお話でした。
見ている間にうとうとと。メルが船をこいでいることに気が付いてくれたようで、おとうさんと一緒に歯磨きをします。それを終えてから、ベッドに潜り込んでぬいぐるみを抱きます。
「…………。んー……」
なんだかちょっと寂しいです。これもベッドが大きすぎるのが問題なのです。
「おとうさん……」
呼んでみると、おとうさんが笑ったのが分かりました。
「仕方ないな。ほら、おいで」
「うん!」
ぬいぐるみを置いて、おとうさんのベッドの中に潜り込みます。もぞもぞとおとうさんの横に収まると、また頭を撫でてくれます。とても気持ちがいいです。
おとうさんの温もりを側に感じながら、メルはまぶたを閉じました。
・・・・・