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「ケイオスさん!」


 今度はケイオスの方へと駆けてきた。怪訝そうにするケイオスに、メルは屈託なく笑いながら、


「明日はいっしょにあそぼうね!」

「そ、そうだな。そうしよう」


 ケイオスが助けを求めて視線を投げてくるが、修司には知ったことではない。一人だけ楽するのが悪いのだ。是非とも頑張ってほしい。


「さっきの男の子がね、やってたことをやりたいの」

「む……。なんだ?」

「えっとね、体をぐわって持ち上げて、ぶーんって飛ぶの!」

「む……?」


 意味が分からなかったようで首を傾げるケイオス。メルはどうにか分かってもらおうと言葉を探している。これは放っておくと時間がかかりそうだ。


「つまり、メル。投げてほしいのか? ケイオスに、海の方へ」

「うん! そう! だめかな?」


 確かに少し危ないだろう。ある程度の深さがあるプールならともかく、海だと体を打ちかねない。そう思っていると、アイリスが口を開いた。


「なら、私が落ちるところで助ける。空気の層でも作って、強く打たないようにする」

「あー……。それなら、大丈夫かな。頼めるか、ケイオス」

「わ、分かった……」


 何故か少し緊張しているようだ。今更何を緊張することがあるのだろうか。アイリスへと目を向ければ、彼女も不思議に思っているようでケイオスを見つめていた。


「うむ。まあ、明日のことはおいておいてだ。ホテルとやらに行かないか?」


 露骨な話題逸らしだ。だが修司もそろそろホテルに移動したい。修司はメルを抱きかかえると、残りの二人に言った。


「それじゃあ、ホテルに行くか」




 ホテルは浜のすぐ側に建っている、二十階建ての大きなホテルだ。この地域ではそれなりに有名なホテルで、最上階のロイヤルスイートは修司たちでは手が届かない金額の部屋になっている。

 もちろん修司たちが泊まるのはそんな部屋ではない。自治会もそこまでお金があるわけではないということだ。

 修司たちが泊まるのは、十階にある二人用の部屋だ。アイリスとケイオスはその隣の部屋となる。

 ホテルの一階の受付で鍵をもらって、エレベーターへ。メルはここですでにテンションがうなぎ登りだ。


「すごーい! ひろーい!」


 今にも走りだそうとしているのでしっかりと手を握って捕まえておく。受付の女性が心なしか笑っているよな気がするのは、きっと気のせいだ。

 エレベーターで十階へ。


「やはりこのエレベーターというものは便利だな。我が城にも欲しい」

「ん。とても分かる。城は階段が多くて嫌になる」

「魔力を動力として作れないものか」

「ん……。作るにしても、これだけ重たい箱を上げ下げするのはかなりの魔力がいる。私たちならともかく、一人じゃたりない」

「ぬう……。無駄な費用だな……」


 ファンタジーらしいようでファンタジーらしくない会話だ。修司は、エレベーターの仕組みはなんとなく分かるが、作り方までは当然ながら分からない。力になれそうにはない。


「いっそのこと飛行魔法で窓から窓に飛べばいいのに」


 修司がそう言うと、アイリスは頷いて、


「怒られた」

「やったのかよ」


 冗談のつもりだったが、本当にやったらしい。それはまあ、怒られるだろう。


「エルフの里だと、使える人はよく使ってたよ?」

「ん……。エルフの里特有。木の高い場所に家があったりするし」

「へえ……」


 ゲームなどで見ることができる森の中の里とかを思い浮かべたが、そんなものだろうか。ただ、どうにもこの世界でのエルフのイメージはあちらと近いようなのが不思議だ。もしかすると、誰かが実際に行って帰ってきたことがあるのだろうか。

 そんなことをつぶやけば、アイリスは肩をすくめた。


「知らない」

「そりゃそうだ」




 エレベーターを降りて、長い廊下を歩いて行く。そうして自分の部屋の前にたどり着いて、


「あのさ。今更だけど、本当に二人は一緒でいいのか?」


 修司が聞いた瞬間、アイリスとケイオスが渋面を浮かべた。やはり歓迎できるものではないらしい。だがかといって、


「もう一部屋借りるのは、さすがに無駄だからな……」


 ということだろう。

 もちろんこのホテルには一人用の部屋もあるが、どうやらアイリスたちは修司の部屋の隣にしておきたいらしい。何かあった時にすぐ対応できるように、とのことだ。


「気にしすぎじゃないか?」

「父上殿はあの女の言葉を忘れたのか?」

「え? ああ……。あったな。そう言えば」


 確かにメルの母親、ディーネは脅迫紛いのことを言っていた。だが修司はあまり心配していない。メル曰く、エルフが大勢転移してきたのなら分かる、とのことだった。

 その話を二人にもすると、二人はどこか納得したような表情を浮かべた。


「他でもないシュウが気にしていないから、少し不思議だった。うん、確かにメルなら私たちよりも先に分かる」

「しかし分かった時には遅いということもあるだろう」

「そう、なのか……? 俺は異世界の事情には明るくないから任せるけどさ」


 だが二人が多少なりとも警戒を続けているということは、転移直後に突然メルを攫うとか、そんな手段があるのかもしれない。もう少し修司も異世界について学ぶべきだろうか。

 そんなことを修司が考えていると、メルが言った。


「おねえちゃんとケイオスさんは、一緒だとだめなの?」

「ん……。だめ、というか……」

「一応仮にも、男と女だからな」

「それだと何かあるの?」

「……っ!」

「ぬう……」


 メルの純真な目が痛い。アイリスはわずかに頬を引きつらせ、ケイオスは何も言えずに視線だけで修司に助けを求めてくる。そんな目をされても、修司にもこれは答えられない。


「あー……。あれだ、メル。この二人はまだ仲直りして時間が経ってないからな、やっぱりちょっと気まずいんだよ」

「そうなの?」

「ん。そう。そうなの」

「ああ、そうだ! その通りだ!」

「そっかー」


壁|w・)感想返しは……お待ちください……。

読んではいるのでいただけると嬉しいです……!

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