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番外編 初詣

壁|w・)明けましておめでとうございます。

元旦の特別編です。

 元旦。子供たちすら夜更かしして新年を待つこの日。この施設でも例外ではなく、大晦日のみ夜更かしを許されている子供たちは夜まで食堂で騒いでいた。年越しをして、新年の挨拶をして、そうしてから寝るために、翌日の起床は遅くなる。

 だが修司とメルは例外で、年明けを待たずにさっさとベッドに入っていた。理由は単純で、メルがそれほど興味を示さなかったためだ。


 アイリスに聞いたところ、異世界では新年を祝うという風習はないらしい。いたっていつも通りの一日が始まるそうだ。もちろん休みになるようこなこともなく、故に年越しのイベントが異世界の人にはあまり理解できない。

 だからこそ。元旦の日の出と共に起床したメルのテンションは高かった。


「メル。そんなに急がなくても」

「いいの!」

「はいはい……」


 起床後、修司はメルとともに近くの神社に向かっている。以前からメルに連れて行ってほしいとお願いされていたためだ。異世界に行事はないが、テレビで元旦の神社がどういったものかは知っているらしい。

 ただ、どう見ても出店が目的のようだが、指摘はしない方がいいだろう。

 手を繋いで歩き続けて。やがて二人は神社にたどり着いた。普段は閑散としている、こぢんまりとした神社だが、今日は大勢の人で賑わっている。出店も多く、食べ物ももちろん取り扱っていた。


「わあ……!」


 メルは瞳をきらきらさせて、その光景に見入っている。テレビで特集されている有名な神社よりも規模は小さいが、それでもメルにとっては楽しそうなものらしい。

 迷子にならないように、メルの手をしっかりと握って歩いて行く。途中でフランクフルトを買ったり綿飴を買ったりと、気分はお祭りだ。今もメルはリンゴ飴をせっせとなめている。


「美味しいか?」

「うん!」


 にっこりにこにこ。ご機嫌なメルの頭を撫でて、奥へと向かう。

 奥へと行くにつれて、出店の数は減ってくる。代わりに、お汁粉や特製のお餅が配られている。メルも食べたそうにしているが、ここまで来たのだから先にお参りを済ませたいところだ。


「あとで必ず寄るからな?」

「うん……」


 残念がっているメルを引き連れて、人の列に並ぶ。小さい神社ではあるが、近辺に神社が少ないために町中の人が集まってくる。そのため毎年混雑している場所だ。

 再び待つことしばらく。ようやく先頭までたどり着いた。


「ほら、メル。ここにお金を入れるんだ」

「ここに? どうして?」

「神様にお願いを叶えてもらうためだよ」

「え? 別にお金を渡したところで、神様には関係ないよ?」

「あー……」


 メルは愛し子だ。時折神様と会話なんてしていることすらある。そんなメルにとって、このお賽銭は本当に意味が分からないものなのかもしれない。


「まあ、うん。この世界の神様に祈るためのものだから」

「そうなの? そっかー」


 納得はしていなさそうだが、そういうものだと認めたらしい。メルは頷くと、修司から渡された五円玉を投げ入れた。続けて修司も投げ入れてから、メルを抱えてやる。首を傾げるメルに鈴を鳴らしてみせると、大喜びで鳴らし始めた。


「うん。メル。もういいぞ。それじゃあ手を合わせて願い事だ」

「はーい」


 手を鳴らして、お願い事を心の中で唱える。

 メルが健やかに育ちますように。

 願い事をしていて思う。自分もすっかり親になってるな、と。

 ちなみに去年まではと言えば、混雑を嫌って来ることすらなかった。今年もメルがいなければ、まず来なかったはずだ。


「よし、戻るか」

「うん!」


 すでに願い事を終えていたメルを連れて、列から離れる。その際に、おみくじも買っておく。この神社ではここでしか売っていないのでここを逃すとまた並びなおしになる。

 かしゃかしゃかしゃ。メルが引き出した棒の番号と自分の番号を覚えて、受付の人にお金を渡して伝える。すると奥の棚から二枚の紙を引き出して、手渡してくれた。


「はい、メル」

「うん!」


 わくわく、といった様子のメルだが、修司としてはあまり意味ないだろうとは思う。おそらくメルは大吉だろうから。

 だが開いてみると、その結果に修司は少しだけ目を見開いた。

 修司が大吉だった。ちらとメルのものを見ると、こちらは末吉だ。メルのものと取り違えただろうかと思ったが、メルはその結果に満足そうだった。


「メル?」

「うん。えっとね、おとうさんが幸せになりますようにってお願いしたの」


 それは、先ほどの参拝のことだろうか。つまりはこれが幸せの一つらしい。

 おみくじで反映しても、と思ったりもするが、それよりも、


「そっか。メル、ありがとな」

「えへへー」


 娘がそう願ってくれたことが単純に嬉しい。いや、親としては娘の幸せこそが一番なのだが、それでもやっぱり、嬉しいもので。

 なんだか上機嫌な父親と撫でられて幸せいっぱいの娘がそこにいた。



 おみくじの後は、改めてお汁粉だ。テントを使った休憩所へと向かえば、係の人がお汁粉を配っていた。お汁粉の他にも甘酒や、単純に温かいお茶などもあるようだ。

 そしてお汁粉を配っている人を見て、修司とメルは顔を見合わせた。


「アイリス、何やってるんだ……?」

「ん。アルバイト」


 お汁粉担当はアイリスだった。巫女装束を身に纏ったアイリスは、なかなか神秘的だ。銀髪巫女さんは参拝客にも人気のようで、時折写真を頼まれている。アイリスは勝手にどうぞ、というスタンスらしい。


「アルバイトって……。そんなに金に困ってるのか?」

「ん? 別に。いつもの店が休みなだけ。暇だから、一日だけのここに応募してみた」

「元旦ぐらい休めばいいのに……って、ああ、そんな感覚はないんだったな……」


 働き者だな、と感心する。もっとも、修司も今日はたまたま休みが取れただけで、いつもなら年末年始は常に仕事なのだが。


「おねえちゃん、お仕事がんばってね」


 お汁粉を受け取りながらメルがにっこり笑顔で言うと、アイリスも微かに頬を緩めて頷いた。


「ん。シュウも」

「ああ。ありがとう。……あと、あれだ」

「ん?」

「似合ってる。かわいいと思う」

「……っ」


 アイリスが頬を朱に染めて。それが直視できなくて、修司はメルの手を引いて足早に後にした。




 椅子に座って、お汁粉をすする。甘ったるいだけだよなあ、なんて身も蓋もないことを考えながら、隣のメルを見る。


「すっごくあまい」

「だなあ。……まずいか?」


 甘すぎて嫌いという人もいる。メルもそうなのかと思ったが、メルは首を振って、


「んーん。おいしいよ。あったか!」

「はは。そっか」


 ずず、とすすっては美味しそうに頬を緩める顔を見れば、嘘は言っていないと分かる。修司も自分のお汁粉をすする。甘ったるいだけだとは思うが、この時期しか飲まないことを考えると、悪くはないとも思える。

 二人でずるずるお汁粉をすすっていると、


「ここにいたか」


 いつの間にか側にケイオスが立っていた。黒いコート姿の巨躯の登場に、周囲が驚いているのが分かる。見た目はいかにも危険なケイオスだ。警戒するのが当然だろう。もっとも、ご近所さんたちは慣れたもので、すぐに苦笑になっていたが。


「院長から聞いたが、この世界では年下の知り合いにお年玉という小遣いを渡すそうだな」

「年下というか、子供に、だけど、まあそうだな」

「うむ。ならば二人にお年玉だ。受け取れ」


 そう言ってケイオスが差し出してきたのは、分厚い封筒だった。修司だけでなくメルまでもが絶句しているのがある意味印象的だった。


「あー……。ちょっと待ってくれ」


 いやまさか万札の束とか、そんなわけがないだろう、商品券とかそういったものだろうははは。

 そう現実逃避しながら受け取って、中身を見る。万札の束だった。


「受け取れるかあ!」

「何故だ!?」

「これのどこが小遣いだよ! 俺の月収の半年分近くあるぞ! 泣くぞ主に俺が!」


 これを受け取ってしまうと、自分の働く意味を見失ってしまいそうだ。確かに金に困っていないと言えば嘘になるが、さすがにこれは受け取れない。


「そもそもこんな金、どうやって用意したんだよ」

「いつも通りだ。俺が所有している宝石の類いを売り払った」

「あー……。そうですか」


 以前にちらっと聞いただけではあるが、ケイオスはアイリスと違って働いておらず、こうして自分の世界の宝石や装飾品を売却して金を得ていると聞いたことがある。今回の金もそうして得たのだろう。


「ではいかほどが適正だ?」

「あー……。一万ぐらいじゃないか? それでもかなり多い方だとは思うけど」


 かつて学校に通っていた時に聞いた一番多い額がそれだった。小学生の頃なら、記憶は曖昧だが少ないと五百円とかもあったはずだ。


「ふむ。ならばこれでいいだろう」


 そう言って、ケイオスは先ほど封筒から一万円札を一枚だけ抜き取って、修司に手渡してくる。美味い飯でも食え、と。


「あー……。うん。まあ断るのも失礼か。有り難く受け取っておくよ」

「うむ。残りはせっかくだ、あの施設に寄付するとしよう」

「ケイオスの金だからそれは任せるけど……。うん。まあ、院長を困らせるといいさ」


 ひらひらと手を振って立ち去るケイオス。そのケイオスへと、


「ケイオスさん、ありがと!」


 メルが手を振って言うと、ケイオスは振り返り、にやり、という擬音語が似合いそうな笑顔を浮かべて今度こそ立ち去った。


「笑顔でも損してるよな、あいつ」


 ケイオスの笑顔から感じる威圧感に、思わずため息をついてしまった。




 お汁粉を飲み終わった後は、のんびりと歩いて帰る。誠や奏からは、明日でいいからメルを連れてこいと言われている。なので喫茶店は明日だ。

 二人曰く、お年玉を用意してるから、とのことだった。あの二人もメルに甘い気がするのは気のせいではないだろう。

 メルはと言えば、初詣は十分に楽しめたのか、上機嫌だ。


 ちなみに今日のメルの服装は、ピンク色のもこもこセーターにもこもこマフラーと全体的にもこもこしている。とても暖かそうではある。ただしメル含め異世界組は魔法で何かしているらしく、寒ければ暖気を身に纏うらしいのであまり意味はないそうだ。何でもありか。

 もっとも、できるだけそういった魔法の使用は控えているとは聞いているが。それ故のもこもこメルである。


「さあて、帰ったら何するかな……」


 帰ってからの予定は特にない。今日は修司も休みなのでゆっくりできる。


「おとうさん、おこたでおみかん食べよう?」

「おー。みかんか。そうだな」


 今日はのんびりメルと一緒に過ごすとしよう。去年では考えられなかった元旦だ。悪くないと思う。そう思っていると、


「おとうさんおとうさん」

「ん? どうした?」

「だっこ」

「おー」


 今でもあまりこれが欲しいという我が儘は少ないが、その代わりにこうしてよく甘えてくれる。修司としてはやはり嬉しい。まだまだ軽いメルを抱き上げると、メルがぐりぐりと頭をこすりつけてきた。


「なんだ? 眠たいのか?」

「んー……」

「今日は早起きしたからな。うん。ついたら起こしてあげるから、寝ていいぞ」


 メルの背中を優しく叩いてやると、すぐに整った寝息が聞こえてきた。どうやら修司が思っていた以上に疲れていたらしい。

 確かに感じるメルの温もりを感じながら、修司は施設への道をのんびりと歩いて行った。


壁|w・)今年もよろしくお願いします。

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