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 まだメルは幼いため、包丁を使うのは修司だ。ハムや大きめのチーズを包丁で切っていく。修司の隣では、メルがパンにマヨネーズを塗ってから具材を挟んでいる。夢中になっているようだ。

 そうしてできたものは、薄いパンにマヨネーズを塗って、ハムとレタスを挟んだだけのシンプルなサンドイッチだ。簡単なものではあるが、メルは満足しているらしい。サンドイッチが盛られた大座を持って、テーブルに戻る。テーブルに置かれたそれを見て、アイリスたちは感嘆の吐息を漏らした。


「すごい。美味しそう。いただきます」


 早速とばかりにアイリスが手を伸ばし、次にケイオスが、そして修司も手に取った。戻ってきたメルと一緒に、二人が食べる様子を見守る。同時に口に入れてしばらく噛んでいた二人は、頷いて笑顔を見せた。


「ん……。美味しい。すごいよ、メル」

「ああ。これは大したものだ」

「ほんとに? 美味しいって、おとうさん!」


 微笑むメルに、修司も自然と笑顔になる。サンドイッチだと誰が作っても同じだろうとは思ってしまうが、こうして愛娘の笑顔を見れば、価値はあったと思う。

 ちなみに修司はすでに食べた後だ。先に、おとうさんに食べてほしい、とメルに言われて、それならばと食べたのだ。とても美味しかったと思う。

 後片付けをした後は、メルはアイリスと共に周辺のゴミ拾いに向かった。ここの義務というわけではないが、メルがやりたいことらしい。お世話になった場所は綺麗にしておきたい、と。我ながら素晴らしい娘だ。


「ケイオスもそう思うだろ?」

「そ、そうだな」


 何故かケイオスに引かれているような気がする。意味が分からない。


「お前らも国大好きアピールしてくるんだから、俺のメル大好きアピールも聞けよ」

「…………。そうか、我らのあれは、こう見えるのか」

「ん?」

「いや、何でも無い」


 聞こう、とケイオスが背筋を伸ばす。なかなか素直で、好感が持てる。

 そうしてメルのことについて語っていると、そのメルたちが戻ってきた。どうやら修司のメル自慢は微かに聞こえていたようで、メルは顔を真っ赤にしている。


「もう……」


 メルが唇を尖らせるが、かわいいだけだ。修司がそう思っていることに気付いたのか、メルは頬を膨らませるが、照れているのか顔が赤くなっていた。




 昼食は昨晩のカレーライスの残りを食べる。しっかりと煮込み、さらにはアイリスが何かしらの魔法をかけていた。曰く、食あたりにならないようにするための魔法らしい。

 全員で鍋を空にして、食後の休憩を取る。その後はアイリスをメンバーに加えて、昨日と同じく川に向かった。


「おねえちゃん、石の下にかにがいるんだよ」

「そうなの?」

「うん!」


 メルが川辺の石を手当たり次第にひっくり返していく。アイリスも興味があるのか、その様子をじっと見守っている。


「そっちの世界にかにはいないのか?」

「いる。でも、それを言うのは、やぼ? というもの」

「そっか」


 メルに気を遣ってくれたらしい。そうして話をしていると、メルが、いた、と大きな声を出した。慌てて二人で駆け寄ると、メルの手元に小さなかにがいた。


「ほら!」

「ん……。かわいいね」

「うん!」


 にこにこと、メルはかにを見つめている。修司は密かに胸を撫で下ろしながら、二人を見守る。

 いた、と聞こえた時は、何かにぶつけたか挟まれたか、と思って焦ってしまった。すぐに考えれば分かるだろうに、少しだけ恥ずかしい。アイリスに気付かれてなければいいのだが。

 アイリスを見ると、こちらを意味ありげに目を細めて見つめていた。どうやら修司の淡い希望は届かなかったようだ。


 かにが逃げた後は、川辺をのんびりと歩く。同じように遊んでいる他の人に挨拶しながら、南の方へ。そうして見えてくるのは、地図にあった少し深くなっている場所だ。少し深いといっても、大人ならつま先立ちができる程度の深さではあるらしい。川の流れも早くはないので、雨が降らない限りはさほど問題はないだろう。


「おとうさん、入ったらだめかな?」

「あー……」


 ここでだめだと言えば、メルはすぐに引き下がるだろう。良くも悪くも、我が儘をあまり言わない子だ。時折出てくるこうしたささやかな希望ぐらいは叶えてやりたいところではある。だが、やはり保護者としては許可できないわけで。

 一人悶々と悩む修司に、アイリスが言った。


「別にいいと思う。何かあったら魔法で助ける」

「できるのか?」

「ん」


 しっかりとアイリスが頷いたので、それならと修司も頷いて、


「いいぞ、メル。ただし足はつかないから気をつけてな」

「はーい!」


 すぐに、メルは川に飛び込んだ。器用に泳いでいる。ただし、泳ぎ方は見たこともないものだ。クロールとも、平泳ぎとも違う独特な動き。修司が首を傾げていると、アイリスが教えてくれた。


「魔法で体を浮かせてる。だから泳ぎ方にあまり意味はない」

「あ、そう……」


 まさかの意味なし発言に思わず修司が苦笑する。聞けば聞くほど、魔法とは便利なもののようだ。正直、ちょっと羨ましい。


「アイリスは泳がなくていいのか?」

「ん? んー……。シュウは?」

「見てるだけで十分かな」

「そう」


 それきりアイリスは何も言わない。アイリスも泳がない、ということだろうか。もう少し言葉があってもいいと思うのだが。

 メルに視線を戻す。とても楽しそうに泳いでいる。


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[気になる点] >サンドイッチが盛られた大座を持って、テーブルに戻る。 大座→大皿 でしょうか?
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