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24 メル



「ぬう! なんだこれは! ただの焼いた挽肉をパンで挟んだだけだというのに、考えられぬ美味だ! 濃いめのソースとやらが溢れる肉汁に絶妙に合っている! いくつかの具材がアクセントになっていて飽きない工夫も素晴らしい! 美味し! 美味し!」


 どうやら魔王は、ここのハンバーガーをいたく気に入ったらしい。これ以上ないほどの絶賛だ。修司もこのハンバーガーを気に入っているが、ここまで手放しで喜ばれるとは思っていなかった。作った本人である誠も、喜びや照れなどはなく、気恥ずかしさと困惑が見て取れる。


「ふふん。魔王。この世界で暮らすなら覚悟しておくといい。この世界は食べ物がうまい」


 この勇者はどうして自慢気なのだろう。全く関係ないのだが。


「侮れないな、異世界というものは……」

「ん。そこだけは同感」

「…………。なあ、シュウ。異世界ってそんなにご飯がまずいのかな?」

「俺に聞くな……」


 今までの食べ物を振り返っているのか、恍惚とした表情を浮かべる勇者と、まだ見ぬ料理の数々に思いを馳せる魔王。どうやら人族と魔族の争いは料理で解決できるらしい。


「メル。実際のところ、どうなんだ?」


 はぐはぐと一心不乱に食べているメルへと問いかければ、もぐもぐと口を動かしながら少し考えて、


「エルフのご飯よりはおいしいよ」

「そ、そっか……」


 参考にしていいのか分からない返答だった。誠も苦笑してしまっている。


「シュウの周りはまだまだ賑やかになりそうだね」


 にやにやと笑いながらの誠の言葉に、シュウは若干頬を引きつらせながらも、否定はしない、と肩をすくめた。


   ・・・・・


 もぐもぐもぐ。誠さん特製のハンバーガーを食べながら、メルはみんなの様子を観察します。

 おとうさんの反対側に座るケイオスさんは、一心不乱に、けれどしっかりと味わいながら、ハンバーガーを食べています。ケイオスさんはこれがこの世界での初めての食事のようです。きっとこの先、何度も驚くことになるでしょう。ただ、このハンバーガーのおいしさを他でも求めないか心配です。ともかく、あの時の怖い魔王さんではなくなっているので、一安心です。

 隣に座るアイリスおねえちゃんは未だにケイオスさんのことを警戒していますが、それでも意識の半分以上はハンバーガーに向いています。その気持ちはとても分かります。美味しいは正義です。時折思い出したようにメルの頭を撫でてくれて、ちょっとだけくすぐったいです。


 誠さんはお父さんと話をしながら、どことなく嬉しそうです。今までここに通った中で聞いたところ、誠さんはお金を稼ぐためというよりは、誰かが自分の料理を食べて喜んでくれるのが好きだと言っていました。きっと、今、とても喜んでいることでしょう。

 そしておとうさんはと言えば、やれやれと呆れつつも、楽しそうです。いいことです。でもちょっとだけ面白くないので、構ってほしくてお腹に顔をこすりつけると、少しだけ驚いたように目を丸くしました。


「眠たいのか?」


 違います。ふるふると首を振ると、おとうさんは首を傾げながら、メルのことを膝の上に載せてくれました。メルの特等席です。そのまま頭を撫でてくれるまでが一連の流れです。もっと撫でてもいいんだよ?


「ここに来ている時はそうでもなさそうだけど、随分と甘えてるね。お父さんっ子か」


 羨ましい、と誠さんが言って、おとうさんはにやりと笑います。


「いいだろう? ただ、学校でどう過ごしているのか、ちょっと不安なんだけどな……」

「なるほどね……。そう言えば、もうすぐ授業参観じゃないかい? あの学校、夏休み前に一回あったはずだよね」

「お、確かに。楽しみなような怖いような……」

「ははは。是非とも感想が欲しいね。僕も見に行きたいぐらいだし」


 授業参観。確か家族が言っていました。おとうさんやおかあさんが授業を見に来るというものです。普段は院長先生や職員さんが見に行くそうですが、メルにはおとうさんがいるのでちょっぴり楽しみです。


「授業参観?」


 アイリスおねえちゃんとケイオスさんが視線鋭く反応しました。


「簡単に言えば、親が子供の授業を見に行くんだよ。学校での子供の様子を知ることができる、数少ない機会だな」

「ほう。なるほど、授業参観か。それは……」

「言っておくが、連れて行かないぞ」


 む、とケイオスさんが顔をしかめます。けれどお父さんは気にした様子もありません。魔王相手に一歩も引かないのはすごいと思います。


「おとうさん学校に来るの?」


 メルがそう聞くと、もう少し先の話だ、としながらも頷いてくれました。それはとても素敵なことです。とても楽しみなことです。

 機嫌が良くなったメルが鼻歌を歌い始めると、お父さんは単純だなと笑いました。


「まあその前に、遠足か」


 ぽつりと。お父さんがつぶやきます。そうです、それもありました。来週は遠足があるのです。バスに乗ってどんぶらこ。どんぶらこ? ともかく、バスに乗ってちょっと遠い、大きな公園に行くことになっています。


「あ、そっか。それもあるんだね。おやつは?」

「五百円まで!」

「増えてる……。僕たちの時は三百円だったのに」

「そしてバナナはおやつである」


 お父さんも誠さんも、どこか懐かしそうに目を細めています。アイリスおねえちゃんとケイオスさんはちょっとだけ首を傾げています。二人にとっては遠足も分からないのでしょう。


「メル。どこか行くの?」

「うん。学校のみんなで、遠い公園に行くの。楽しみ!」

「遠い公園……。寂しくなるね」

「いや、一日で帰ってくるからな?」


 大げさすぎる、とお父さんは呆れていますが、メルもちょっとだけ寂しいです。帰ってくるのは少し遅くなるので、みんなに会うのもやっぱり遅くなります。


「私もちょっと寂しいよ」


 メルがそう言うと、おねえちゃんは少しだけ驚いたみたいで、すぐに少しだけ口角を持ち上げました。とても嬉しそうに見えます。


「しっかり楽しんでくるんだよ」

「うん!」


 誠さんの言葉に、メルは満面の笑顔で頷きました。




「ところで奏は?」

「買い物。子供が喜びそうなお菓子を研究中」

「あいつ、もしかして一番メルに甘いんじゃないか……?」


   ・・・・・


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ではでは。

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