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 どうやらメルの意志ではないらしい。魔法の仕組みが分からない修司には分からないことだ。


「これも推測だけど、神様が切った可能性がある。今の話は、この平和な世界の人には聞かせていいものじゃない」

「そんなにひどい話だったのか?」

「ん……。とりあえず私はエルフを見損なった」

「そ、そうか」


 アイリスの、吐き捨てるような言い方に修司の方が引いてしまうほどだ。でも、とアイリスが続ける。


「エルフからの連絡内容にも得心がいった」

「ん? 見つけて連れ帰れ、じゃないのか?」


 ふるふるとアイリスが首を振って、続ける。


「見つけた国が保護と、面倒を見てくれ、と。あちらも、母君と一緒にしない方がいいと判断したのだと思う。見つけて保護した国が、養育権を得る」

「なんだそれ」


 意味が分からない。それはつまり、メルを捨てるということなのだろうか。修司としても嫌がっているメルを任せるつもりはないが、それでもあまりにひどすぎる。


「というわけで」


 アイリスがメルを見る。先ほどの会話で多少警戒心が緩んだのか、首を傾げてメルもアイリスを見返している。


「私が、お母さん。だめ?」

「お前は何を言ってるんだ」


 言ってから、いや、と思い直す。今までの情報から判断すると、そうなるのだろうか。


「両親は国が決めることになってるけど、私の方が安心。でしょ?」

「いや、それはまあ……。いや待て、メルは渡さないから。お前らの世界には任せない。この子は俺の子だ」

「おとうさん!」


 ぎゅっとメルが抱きついてくる。かわいい。よしよしと撫でてやると、ふむ、とアイリスは少し考えて、


「それじゃあ、シュウも一緒に来るといい」

「はい?」

「で、私と結婚する。解決」

「お前は本当に何を言ってんの!?」


 正気かこの勇者。これが勇者で本当にいいのか。異世界の住人の正気を疑ってしまう。


「やだ。友達も、できたから……」


 メルの小さな声。アイリスは一瞬だけ口を閉じ、そして目を細めた。


「そっか」


 たったそれだけ。それだけの返事だったが、何故か、アイリスが諦めたのが分かった。あっさりと諦めたアイリスに修司もメルも首を傾げる。もっと交渉をしてくると思っていたのだ。

 よく分からない沈黙が流れる。どうしたものかと修司が困惑していると、お子様ランチとカレーライスが運ばれてきた。テーブルに全て並んだところで、手を合わせて、


「いただきます」


 メルだけでなく、アイリスまで言ったのを聞いて、修司は苦笑した。日本に染まりすぎだろう、この勇者は。


「ここは良い世界。良い国。食べ物が美味しい」

「はは……。まあ、褒められて悪い気はしないかな」


 カレーライスを食べるアイリスと、思わず笑う修司。メルはと言えば、


「おとうさん見て見て! 旗! 旗がある!」

「うん。日の丸、日本の国旗だな」

「わあ……! あとたくさんあるよ! カレーもある! ちっちゃいケーキもある!」

「うん。ゆっくり食べろよ?」


 先ほどの怒気なんて何もなかったかのように、お子様ランチに夢中になっていた。幸せいっぱいの笑顔だ。この笑顔が、修司はとても好きだ。守ってやりたいと素直に思える。

 そしてそれは、修司だけではないのだろう。アイリスもメルの笑顔を見て、どこか優しげに頬を緩めていた。


「アイリス」


 修司が呼ぶと、カレーライスを口に含んだままアイリスがこちらを見る。


「本当にいいのか?」


 そう聞くと、アイリスは小さく頷いた。口の中のものを呑み込んでから、言う。


「ん。一応私も役目があるから、この世界に留まるし交渉は続けるけど、無理に連れて行くつもりはない。私としても、愛し子様の笑顔が好き」

「そうか」


 この勇者の少女は、信頼できる子なのかもしれない。そう思ったところで、勇者がそれに、と続けた。


「近いうちに多分魔王も来るし。警戒は解けない」

「あー……。魔族の国とか言ってたな……。そっか、そういうのもいるのか……」


 想像以上に、異世界というのは危険なところかもしれない。

 修司は引きつった笑いを浮かべながら、そっとため息をついた。




 食事後。アイリスが修司とメルを施設まで送ってくれることになった。女の子にそんなことはさせられないと断ろうとしたが、


「この中で私が一番強い」


 ぐうの音も出なかった。

 というわけで、今はアイリスと共に施設へと向かっている。アイリスはすでに修司たちの施設もこの町についても知っているらしい。しっかりと下調べをしてから接触した、とのことだ。


「しっかりしてるなあ」

「えっへん」


 無表情で胸を張る勇者。少し不気味である。


「ちなみにアイリスはどこに住んでるんだ?」

「ん? 興味あるの? えっち?」

「おとうさんはそんなんじゃないもん!」

「あ、うん。ごめんね、愛し子様。冗談だから」


 怒るメルと慌てて謝るアイリス。その様子を見守りながら、修司はこっそり嘆息した。

 誓って言うが、アイリスに惚れているとかそういったことではないが、それでも修司はこれでも男だ。いずれ彼女とか結婚とか、とそんなことも考えたいのだが、メルがいると難しいような気がしてきた。無論、メルを放り出すつもりは毛頭ないが。

 ともかく、話題の修正のためにアイリスへと言う。


「アイリスだけ俺たちの住居を知ってるっていうのは不公平だろ? 何かあったら、情けないとは思うけど、頼りたいとも思うし」


 例えば魔王とか、と小声で言えば、アイリスは真剣な表情で頷いた。そして唐突に修司の手を握ってくる。何を、と思う間もなく、修司の記憶に何かが送り込まれてきた。

 不思議な感覚だ。今まで分からないものが、突然、何となく分かるようになる。言葉では言い表せないその感覚に修司が戸惑っていると、アイリスが言った。


「私はそこの二階に住んでる。何かあったら、来て欲しい」

「あ、ああ……」


 修司が知ったのは、アイリスの住居だ。施設から徒歩五分程度の場所にある、小さな賃貸のマンションだったはず。家具つき、らしい。


壁|w・)本日3回目の更新は多分遅くなります。

日付が変わる前には投稿できる、はず……!


たまには言おうかなと。

面白いと思っていただければブクマとか評価とか入れてくれると、嬉しいです。

ではでは。

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