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100 エピローグ


 ぱたぱたと。メルは大急ぎで誠さんの喫茶店に向かっています。今日はこの後、ちょっとした集まりがある予定なのです。お父さんはすでに準備のために向かっていて、今日はメル一人でお出かけです。

 エルフの件から、もう二年が経ちました。メルは現在三年生、もうすぐ四年生です。背もちょっとだけ伸びました。ですがハイエルフの特性なのかどうかは分かりませんが、クラスメイトと背の順で並ぶと一番前に立つことになります。それでも成長が止まっているわけではないので、まだまだきっと伸びるでしょう。目指せアイリスお姉ちゃん。

 しばらく走ると、喫茶店にたどり着きました。今日は月曜日、定休日なのでお客さんはいません。定休日の札がかかったドアを開けて中に入ると、懐かしい顔が出迎えてくれました。


「ん。メル。こんにちは」

「お姉ちゃん!」


 お姉ちゃんに会うのはあの時以来なので二年ぶりです。あの時のように抱きつくと、お姉ちゃんは少しだけ笑ってくれたようでした。


「ん……。久しぶり、メル。大きくなった」

「そう? そうかな?」

「久しぶりに会うと、よく分かる」


 そう言えば、以前と抱きついた感じがちょっと違うような気もします。誤差のような気もしますが、大きくなれているならいいのです。


「ああ、メル。早いな」


 お姉ちゃんとお話しをしていると、奥のドアからお父さんが出てきました。ビニール袋を手に持っていて、そこには赤い木の実がたっぷり入っています。その木の実はさくらんぼによく似ていますが、少し違う果物です。そして、この日本、いえ地球にはない果物です。


「お父さん。手伝った方がいい?」


 ビニール袋をテーブルに置くお父さんに聞きます。


「んー? 別にいいぞ。久しぶりに会ったんだから、アイリスとお話ししたいだろ?」

「えっと……」


 ちらりと、お姉ちゃんを窺い見ます。そわそわしています。なんだかすごく、そわそわしています。気付いてお父さん、ここにお父さんとお話をしたい人がいるよ。


「じゃ、俺はもう一度行ってくるよ」


 あ、だめだこれ。

 メルは内心でため息をつきました。ただ、何となくですが、お父さんは気付いていて避けているような気がします。だから余計にお話しをしにくいのかもしれません。

 ならば実力行使です。


「じゃあ私が行ってくるね!」


 お父さんからビニール袋をひったくります。え、と固まるお父さんを置いて、奥のドアへ。


「行ってきます!」


 最後に振り返ってそう言うと、お父さんは引きつった笑顔でした。これはお姉ちゃんに頑張ってもらうしかなさそうです。

 階段を上がって、二階へ。ここは誠さんと奏お姉ちゃんのプライベートな空間です。が、廊下の隅のドアだけは違います。


 一見すると何の変哲もないドアです。ですが、他の部屋の広さを知っていると、すぐに分かります。このドアがどの部屋にも繋がっていないことが。事実、このドアはどの部屋とも繋がっていないのです。何も知らない人がドアを開けると、木の壁しか出てきません。

 ですが、意味の無いドアではないのです。今メルが開けたように、メルとその関係者がドアを開けると、全く違う部屋に繋がるのです。


 そこは小屋の中です。簡素なテーブルに小さな本棚、ちょっと大きめのベッドがあるだけの部屋で、ここで生活するとなると色々と不便なことでしょう。こうして喫茶店に繋がっているので、何も困りはしないのですが。

 小屋を通って、さらに奥のドアへ。そのドアを開けると、深い森が広がっています。そして、小屋の隣にはすごく大きな木。この世界の魔力を生み出す世界樹です。

 そう、ここは、メルが生まれた世界です。




 二年前のあの後、神様は地球の神様と色々と交渉したようです。その結果として、こうして世界を跨ぐドアを設置できたそうです。あの件のおかげで、かなり有利な交渉ができたとのことでした。

 この小屋は神様がさくっと作ってくれました。ちょっとしたお泊まりもできますし、ここに来ると犬の姿の神様と遊べます。


 そしてこの近辺は世界樹の加護があり、実りが豊かです。とても美味しい木の実とか、お野菜とかがたくさんとれます。誠さんに持って行くと、特製のお菓子を作ってくれるのです。今では月に一回はこうして訪ねて、神様と遊んでから果物をもらって帰っています。

 ですが、今日はちょっとだけ違う目的です。


「あれ? メルが来たのか。お父さんはどうしたのかな?」


 小屋の前にいた子犬の姿の神様が尻尾を振ってメルを見てきます。とりあえず抱き上げて撫でます。もふもふ。やわらか。


「お父さんはあっちに残してきたの。お姉ちゃんとちゃんと話をしないと」

「ああ、そういうことね……。勇者も当たって砕けたらいいのにねえ」

「砕けちゃだめ」

「ん? メルは勇者に、お母さんになってほしいのかな?」


 きょとんと、メルは首を傾げました。


「お姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ?」

「あ、うん……。これはまた、苦労しそうだなあ……。しーらないっと」


 それよりも、と神様が続けます。


「あっちでパーティやるんでしょ? 果物はそこにたくさんあるよ。好きなだけ持って行ってね。あとでケーキをたくさんもらえると嬉しいな?」

「あはは。うん。持ってくるね」


 誠さんにお願いすれば、きっとたくさん作ってくれることでしょう。

 誠さんは神様と直接お話しはしていませんが、それでも自分のケーキが気に入ってもらえたことを知っています。お父さんが伝えていました。それはもう、すごく喜んでいました。お父さんは微妙な表情でしたが。

 その神様がまた誠さんのケーキを欲しがっています。きっと、たくさん作ってくれることでしょう。

 ビニール袋に果物をたっぷり入れて、神様に手を振って帰ろうとしたところで、


「む。メルか」


 上空から声が降ってきました。顔を上げると、ケイオスさんがそこにいました。ケイオスさんとも二年ぶりです。


「ケイオスさん久しぶりー!」


 メルがにこにこ手を振ると、ケイオスさんは薄く笑って頷きました。メルの隣に降り立ちます。ケイオスさんはそのまま、側にいる神様に頭を下げました。


「ご無沙汰しております」

「君たちはほんと固いね。シュウとメルを見習ったら? 私は別に怒らないよ?」

「考えておきます」


 これはつまり、無理だ、とのことです。それが分かっているのでしょう、神様はまあいいけど、と苦笑していました。

 ケイオスさんと共に、小屋に入ります。ケイオスさんはちらちらとメルのことを見てきます。どうしたのかなと首を傾げると、ケイオスさんが言いました。


「いや、なに。随分と大きくなったと思っただけだ」

「そうかな? あまり伸びてないと思うんだけど……」

「久しぶりに会ったからこそ分かるものだろう」


 そういうものでしょうか。よく分かりませんが、ちゃんと成長できているならメルも嬉しいです。

 ドアを通って階段を下りて一階へ。誠さんと奏お姉ちゃんが料理を運んでいるところでした。


「あ、メルちゃんいらっしゃい! 相変わらずちんまくてかわいい!」

「怒るよ?」

「あ、はい。すみません」


 一応気にしているのです。触れないでほしいです。でも、なんとなくいつも憎めません。

 隣では、誠さんが笑っていました。


「ごめんね、メルちゃん。すぐに準備も終わるから、待っててね」

「うん!」


 ドアを通って、店内へ。何故かお父さんとアイリスお姉ちゃんの顔が真っ赤です。ちゃんとお話しができたということでしょうか。


「ほほう」


 ケイオスさんが意地の悪い笑顔を浮かべています。何も言っちゃだめだよ、とじっとケイオスさんを見つめると、にやにやと笑いながら分かっていると頷きました。本当に分かっているんでしょうか。不安しかない。

 メルが戻って、十分ほどして。ささやかなパーティが始まりました。




 今日のこの催しは、メルの一言がきっかけでした。お姉ちゃんとケイオスさんに会いたいな、と。

 それを聞いたお父さんが、神様に相談。あれよあれよという間に、今日のパーティが決まりました。あっという間に企画されていたので、メルとしてはそれはもうびっくりです。


 とりあえずみんなと報告から始めます。お姉ちゃんとケイオスさんは変わらない日々のようで、時折戦っているようです。勝手に小競り合いを始めるのはやめてほしい、と二人で同じ愚痴をこぼしていました。

 誠さんと奏おねえちゃんはのんびり生活しています。ちなみに一ヶ月ほど前に結婚式を挙げていました。ドレス姿の奏お姉ちゃんは、すごく美人でした。

 お父さんとメルは、変わらずいつも通りです。


「つまり、お父さん大好きは変わらないんだね」

「うん! おとうさーん!」

「おー。メルー」


 ぎゅうっと抱きつきます。いつものやり取り。お父さんは今もこうして、メルを抱きしめてくれるのです。


「ん……。二人は本当に仲良し。変わらなくて、安心した」


 その様子を、お姉ちゃんたちがなんだか優しい笑顔で見つめていました。


   ・・・・・


「いってきまーす!」


 ランドセルを背負って、施設の子たちと一緒に学校へと向かうメルを見送ってから、修司は自室に戻る。今日は特にやることもないので、のんびりと過ごす予定だ。

 ふと、勉強机に置かれたアルバムが目に入った。

 奏がきっかけで撮り始めた写真が収まっている。昨日、アイリスとケイオスが来た時にせっかくだからと持って行ったものだ。二人とも、興味深そうに見ていたのを覚えている。


 椅子に座り、アルバムを開く。たった二年。されど二年。こうしてアルバムを見てみると、メルもしっかりと成長しているのが分かる。けれどやはり、ちっこいけども。

 写真を見ながら、修司は頬を緩めた。


 最初はどうなることかと思ったが、悪くない生活だ。とても騒がしく、休みも休みではないような気もするが、それでもメルと一緒に過ごす毎日は何物にも代えがたい。メルを受け入れて、本当に良かったと思う。

 今までも騒がしく、楽しい日々だった。それはきっと、これからも続いていくのだろう。いつかメルが大人になるまで。できれば大人になってからも、自分に甘えてほしいものだけど。

 そんなことを考えながら、子育て記録と題されたアルバムをそっと閉じた。



                                    了


壁|w・)これにてエルフ子育て記録は完結です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

最後に感想とか評価とかいただけると嬉しいですよー!


もしかすると、この先番外編とか投稿することもあるかもしれませんが、ひとまずは終了です。

残りのあとがきは後ほど活動報告の方にでも投下するとしますよー。


ではでは、またどこかで。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった 1話目に暇つぶしで読んでくださいと書いてあるけど、めっちゃほのぼのまったりでほっこりとした話で和みました(*´ω`*) シリアスになる魔王と勇者の戦争とか娘の誘拐から助け出す…
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