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97 転生

 上空から、威圧感が降ってくる。殺意と敵意に塗れた暴威は、容赦なくエルフを打ち据える。修司たちにとってはわずかに感じる程度だったが、エルフたちの心を折るには十分だったらしい。

 何が来たのかを確認するために見上げて、修司は絶句した。

 白銀のドラゴンが、エルフたちを睥睨していた。陽光を受けて輝くドラゴンは神秘的ですらある。思わず膝を突きたくなってしまう神々しさだ。


「おー……。ドラゴン。まさにファンタジーだ」

「ん。この世界にも、ドラゴンはあの一柱だけ」

「そうなのか? ……いや待て、一柱ってことは、まさか……」

「そうだ、父上殿。あれが、神だ」

「あれが犬なのか!?」


 思わず修司が叫んでしまうと、ドラゴンがこちらを一瞥してきた。すぐに視線を逸らして、またエルフたちへ。目が合ったのは一瞬だけだったが、その一瞬だけで修司は冷や汗を流していた。

 あのドラゴン、間違い無く激怒している。どうやら、エルフたちはまさしく神の逆鱗に触れていたらしい。


「こうして会うのは、初めてだね」


 声が降ってくる。怒気に塗れた声が。エルフたちを絶望に突き落とす声が。


「初めまして、エルフの長。道を違えた愚かなエルフたち。私が、この世界を管理する神だよ」


 口調は、あちらで出会った時と似通ったものだ。声色に怒気さえ含まれていなければ、気さくな性格に思えただろう。だが今回ばかりは、むしろその口調が恐ろしい。


「驚いたよ。まさか、あっちの神と協力してくるとは思わなかった」


 本当にあっちの神はろくなことをしない、と吐き捨てるように言う。今回だけの問題ではないらしい。修司とは面識のない神だが自分の世界のことではあるので、少しだけ申し訳なく思ってしまう。


「私たちは君たちから見ても超常の存在だ。自覚はあるし、基本的にはあまり関わらないようにしてる。それが別の世界のことなら尚更だね。メルがあっちに行く時も、色々とお願いして回ったほどだよ」

「そうなんだ」


 知らなかった、とメルが言う。メルのために、愛し子のために、気付かれないように色々と手を回していたそうだ。


「それが、君たちはあっちの神と接触して、力を借りて、さらには私の大好きな子を呪おうとまでして。本当に、好き放題してくれたね。いくら私でも、我慢の限界だよ」


 だから、とドラゴンは続ける。翼を大きく広げ、次の瞬間にはエルフたちの足下に巨大な魔方陣が描かれた。魔方陣が光を放ち初め、エルフたちを染め上げていく。


「お、お待ちください! 何をなさるおつもりですか!」


 長が叫ぶ。ドラゴンは面倒そうにしながらも、答えた。


「転生の魔法。これから長い時間をかけて、君たち全員を人族、もしくは魔族に転生させる。記憶とかはまっさらになるから、何も心配しなくても大丈夫だよ」

「正気ですか!? 我らはエルフ! あなたが作り出したハイエルフの子孫ですよ!」

「そうだね。だからこそ、今まで我慢したんだよ。こうなるなら、最初から我慢しなければ良かった。私もまだまだ甘いってことだね」


 それじゃあ、さようなら。


 ドラゴンが感情のない声でそう告げた直後、魔方陣が一際目映い光を放ち、その光が消えるとエルフたちは一人残らず姿を消していた。あまりに現実離れした光景に呆然としてしまうが、すぐに気を取り直してドラゴンへと視線を向ける。ちょうどドラゴンもこちらを見ていたようで、目が合った。


「ちょっと待ってねー。へーんっしん!」


 ドラゴンの、気を抜けた声。そしてドラゴンが光り輝き、そして、見知った子犬が修司立ちの目の前に現れた。当然ながら威厳も全て消し飛んだ。何故犬になった。


「いや、こっちの方が話しやすいかなって」

「神様! もふもふしたい!」

「ばっちこい!」

「わーい!」


 以前と同じように、メルが犬を抱き上げて撫で回す。犬はご満悦のようで尻尾を振っている。何度も見た光景ではあるが、これでいいのか神様。


「なあ、アイリス。ケイオス。俺は恐怖を感じればいいのか? それとも、呆れればいいのか? どっちなんだ?」

「んー……。呆れる方、かな?」

「同じくだ」


 二人にとってもそうらしい。何度もこの神様を見ると尊敬も何もなくなってしまっただろう。少しだけ、二人が哀れだ。


「これが、神……」


 ディーネも呆然としている。ディーネは神様を見るのは初めてなのだろう。慣れるのには時間がかかりそうだ。頑張ってほしい。


「それで、犬。エルフはどうなったんだ?」


 修司が聞くと、犬は頷いて、


「さっきも言った通り、ここにいるエルフは全員転生させた。今頃魂の状態で転生待ちの列に並んでるよ。数が多いから、全員の転生が終わるまで少し時間がかかるだろうけど」

「なる、ほど?」


 よく分からないが、とりあえずは解決したということだろう。何となく、閻魔様の前に並ぶエルフたちという光景が思い浮かんだ。おそらく違うとは思うが、少し見たい光景ではある。


「神よ。私は何故、除外されているのですか?」


 ディーネが、修司たちからは少し離れた場所で聞いてくる。犬はディーネを見て、次にメルを見る。犬を抱いたままのメルは首を傾げて、そのまま二人そろって修司に視線を向けてきた。


「どうした?」

「いや。君はどう思うのかなって。彼女のことを」

「は?」


 どう、と聞かれても困るというものだ。メルを助けてくれたディーネには感謝しているが、どういった心境の変化なのか、それが分からない。ただ、何となくではあるが、きっと彼女はもう、メルを裏切ることはないだろう。そんな気がする。

 断言はできないし根拠もない。何となく。ただの勘だ。


「メルに任せるさ」


 今まで聞いた話から、彼女に対して思うところがないわけではない。ただそれは、修司とメルが出会う前のことであり、修司には何一つ関わり合いのないものだ。だから、今後のことを決めるのは、メルだろう。

 メルは犬を地面に下ろすと、ディーネの元まで歩いて行った。任せるとは言ったが、少しだけ緊張してしまう。


「おかあさん」

「な、なによ」


 冷たい言葉。けれど、それはどう接していいのか分からない、といった感情故か。視線が泳いでしまっている。

 メルは両手を出すと、言った。


「だっこ」

「…………」


 ディーネが固まる。だがそれは一瞬のことで、ディーネはすぐに意を決したかのようにメルを抱き上げた。そして、


「ぎゅー」


 メルがぎゅっと、母親に抱きつく。


「あ……」


 ディーネが呆然と、声を漏らした。

 メルなりの赦しなのだろう。メルにもきっと思うところはあるだろうが、それでも今は水に流して、母親として受け入れて。ディーネも何も言わずに、メルを抱きしめたまま涙を流していた。


壁|w・)(強制)転生。断罪はあっさり目。

あと、仲直り……?

ちなみに、残り三話で完結です。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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