表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/104

10

 さすがにそのまま説明するわけにもいかず、少しだけ修司はぼかすことにした。


「施設に新しく来た子に、何故かお父さんと懐かれまして。まあ、せっかくだし、遊園地にでも連れて行ってあげようかなと」

「ああ、なるほどね……。霧崎君は子供好きだからね」

「変な意味に聞こえるのでやめてください」


 子供が好きなのは否定しないが、別のニュアンスも感じる言い方だ。半眼で睨むと、店長は肩をすくめて微笑んだ。


「分かってるよ。ところで、その子は将来的に引き取ることになるの?」

「それは……。まあ、可能性は……」


 メルの世界から迎えが来るならまた話は変わってくるが、今のところ修司はメルを引き取るつもりでいる。ただ、そのためには彼女、というよりも嫁を見つけなくてはいけないが。


「分かった。だったら、土日、だと逆に辛いかな。日月を休みにしておくね。毎週その休みがあった方が、一緒に過ごせるでしょ」

「え……。いいんですか?」

「もちろん。子供は大切にしないとね」


 にっこりと微笑む店長。しかし月曜はいつも人手が足りなかったはずだ。ちらと壁に貼り付けられているシフト表を確認すると、店長に気づかれたのか笑いながら、


「シフトは気にしなくても大丈夫。こっちでどうにかするよ」

「大丈夫ですか?」

「うん。任せなさい」


 店長はそう言うと、自信満々といった様子で胸を叩いた。少しだけ、店長が格好良いと思ってしまった。




 帰宅後、修司は早速メルに話すことにした。

 これ以上ないほどに嬉しそうに出迎えてくれるメルに、ご褒美のプリンを渡す。メルはそれを受け取ると、早速勉強机で食べ始めた。にこにこ笑顔で幸せいっぱい。最近はこの笑顔のためだけに一日があると言っても過言ではない。

 食べ終わった後は甘えてくるメルを膝に乗せる。部屋の椅子は修司にとっては少々小さいものだが、修司としてはそれほど気にはならない。


「なあ、メル。遊園地って分かる?」


 メルを撫でながら聞いてみると、メルはうんと頷いて、


「テレビでやってたよ。遠くにある遊ぶための場所!」


 一応は分かるようだ。遠い、というのは職員たちがそう言ったのかもしれない。行きたい、と言われても職員の人では連れて行くことは難しいためだ。一人だけ連れて行くと不公平になるし、かといって全員を連れて行くとなると職員だけでは手が回らない。定期的に、グループを作って順番に行くこともあるにはあるが、頻度はそう多くない。

 実際のところは、電車に乗れば三十分足らずで遊園地にたどり着く。メル一人だけなら、連れて行くことは容易だ。


「連休を取れたからさ。行ってみないか?」

「遊園地に? いいの!?」

「ああ」

「行く! 行きたい!」

「うん。じゃあ、行こうか」


 修司がそう告げると、にぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべてくれる。いつものことだが、やはりかわいい。

 約束だ、とメルと指切りをしておいた。今から楽しみだ。


   ・・・・・


 通学路を歩きながら、メルは鼻歌を歌っていました。この曲はテレビで見たアニメというものの主題歌です。始めてアニメを見た時はそれはもう大騒ぎでしたが、今では慣れたものです。


「ご機嫌ね、メルちゃん」


 そう声をかけてきたのは、六年生の彩花お姉ちゃんです。お姉ちゃんが言います。


「遊園地、楽しみ?」

「うん!」


 メルがおとうさんと遊園地に行くことは、もうみんなが知っています。院長先生が朝食の席で言ったためです。みんな羨ましがっていましたが、メルが遊園地に初めて行くことを知るとなんとも不思議な表情をしていました。

 その後はみんなが遊園地のことを教えてくれました。


 ジェットコースターはすごく速くて楽しいとか。

 お化け屋敷は幽霊がたくさんいて怖いとか。

 観覧車は遠くの方まで景色が見えてすごいとか。

 あと、レストランの料理が美味しいとか。

 全部回りたいです。全部全部やってみたいです。おとうさんにそう言うと、笑いながらいくらでも付き合うよと約束してくれました。さすがはおとうさんです。


「シュウ兄さんはお金を貯め込んでるらしいからね。たくさん甘えるのよ。きっと何でも買ってくれるから」

「んー……。おとうさんと一緒に遊べたらいい!」

「ああもうメルちゃんかわいいなでなでしちゃう!」

「きゃー!」


 お姉ちゃんがぎゅっと抱きしめてくるので、メルも抱きしめ返しておきます。するとそれを見ていた他の子供たちも集まってきたので、みんなで手を繋いで学校に向かいました。


   ・・・・・


 あっという間に遊園地に行く日になった。メルは遊園地に行くと決まった日から楽しみにしていたので、それはもう本当に楽しみにしてカレンダーを見てまだかなまだかなと瞳を輝かせていたほどなので、修司としてはなかなかに緊張している。

 もちろん、修司としても楽しみだ。かわいい娘と一緒に行く遊園地。楽しみでないはずがない。だがそれと同じ程度には、ちゃんとメルが楽しめるのか不安だ。


 メルの期待値がとても高くなっていることもそうだが、メル自身が異世界の住人だったということもある。アトラクションの種類によっては、メルでは楽しめないかもしれない。

 もっとも、今更考えても仕方ないことではある。落胆させてしまった時は、改めて何か埋め合わせを考えればいいだろう。

 月曜日の午前九時、メルを連れて施設を出発。学校は休ませてもらっている。日曜日に行けるように調整してもらおうかとも思ったが、初めての遊園地なのだから混雑は避けてあげたい。平日なら休日よりもすいていることだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ