四話 徹夜テンション
「トラップマスター降臨!」
最後の魔法陣を描き終わり叫んだ、徹夜で作成し続けたおかげでテンションが上がって上がってしょうがないーーーーー、
「あ、終わりました?」
作業中ずっとゴロゴロしていたフランが起き上がる眠そうに目を擦っているフランを見ながら、
「やっと終わった、ちょー終わったはっやく起動しっちゃおうぜー」
「うわ、テンション高くて鬱陶しいですね、フィリアさん呼んできますので先に朝ご飯にしましょうか。」
「へいへいへーい、フランちゃーんトラップは鮮度が命ですぜー」
「‥‥‥‥‥‥」
え、無視!? フランはテントに歩いて行った、
「‥‥…………罠の点検でもすっかぁ」
少し冷静になれたので朝食まで罠の確認をして過ごすことにした。
「コーヒーおいしー」
普段紅茶派の俺だが朝食はコーヒーをきめる、もう眠くてしょうがないのだ。
「大丈夫ですの?」
今にも倒れそうな俺に対してフィリアが心配そうに声をかけてくるので、
「だーいじょーぶー、うぇーい」
「‥‥コーヒーのおかわり作りますわ」
ピースサインで返したら彼女はお湯を沸かし始めたのだった。
場所は変わって、
朝食を終えた俺達は再び洞窟の前に陣取っていた。
「じゃあ、炙り出すぞー」
杖を片手に持って突き刺し洞窟の入り口でふたつの魔法陣を発動させる、片方が明滅すると黒い粉が噴き出、もう片方の魔法陣が明滅すると風を出して黒い粉を洞窟の奥まで運んでいく、
「これ何してるんですの?」
皆で洞窟から離れるとフィリアが聞いてきた。
「最初に魔法で中の蜘蛛を外に誘き寄せる、洞窟の中に入っていった黒い粉はどんどん熱を帯びて体内や皮膚に張り付いて焼いていくんだよ、んで逃げ場はこの入り口しかないから出てきた蜘蛛を昨日作った罠で殺っちまう」
蜘蛛が出てくるであろう入り口を見ながら答える、外に配備してある魔法も完璧でこの作戦には一切の隙は無い、コーヒーをキメて仮眠を取ったおかげで冴えきった俺の頭は臨機応変に何事にも対応できるので今回は完璧に遂行できるだろう。
するとフランが聞いてくる、
「あれで洞窟の中を焼き尽くすんですよね?」
「そだよ」
火は出ないので焼き尽くすまではいかないが、だいたいあってる。
「洞窟全体に広がってるみたいですけど奥の人も大丈夫なんですか?」
「‥‥‥‥‥‥‥………………………………………………‥‥‥‥やっべ、どうしよう?」
「完全に忘れてましたわね」
あきれ顔の二人に振り向くと言い訳を開始する、
「違うんだよ夜中に作ってたからしょうがないんだよ、眠かったからしょうがないんだよ、ほら、クリスタルに封印されているって言ってたじゃん? ならワンチャンあるって」
この魔法は人間を焼き尽くせる程度にしか温度は上がらないのだ、密閉されたクリスタルなら人体に影響は与えないだろう…………たぶん、あとクリスタル自体もめっちゃ熱くなるんだろうな…………
殺しちゃったかなぁと思いながら隣を見るとフランが千里眼の魔法を使っていた。
「中暗くて見えませんね、あっ、移動してます、もうすぐ出てきそうです」
フランの声に反応して足元の魔法陣を杖で突き発動させる、魔法陣は一面に広がるように連動し明滅するとあたり一面に数えきれない量の炎を生み出す。
「『プロミネンス・ノヴァ』」
俺の掛け声と共に炎は重なり合い火炎となり一面を火の海で埋め尽くすと上空へ火柱を打ち上げてく、
「こんな魔法ありましたっけ?」
「説明しよう、『プロミネンス・ノヴァ』とは火炎を吐き出す魔法『プロミネンス』を改良した物だ、魔力を循環させて半永久的に燃やし尽くす事を可能にする、俺の編み出したカッコいい魔法シリーズの新作なのだ」
洞窟から飛び出してくる蜘蛛が数十匹、数百匹と焼かれていく、片や体が炎で溶けて死んでいき、酸素を奪われ途中で力尽きる者達の死ぬ直前の悲鳴がこの光景の悲惨さを彩っている。
内側から焼かれて死んでいく。
「‥‥」
仲間を守ろうと蜘蛛の糸で炎を消そうとするが全て焼かれて死んでいく。
「‥‥‥‥」
一直線に外側まで走るが届くことなく死んでいく。
「‥‥‥‥‥‥」
二匹の蜘蛛が寄り添いながら最後の鳴き声を上げて死んでいく。
「‥‥‥‥‥‥‥‥……どうして一思いに殺さないんですか?」
「違うんだ、この魔法はまだ実験段階で使ったのは初めてだったんだよ、今度から使うのやめるからその目でみないで!」
フランとフィリアがドン引きした視線を送ってくる、苦しみながら力尽きていく蜘蛛が罪悪感が沸くほど酷い光景になっているのだ、
この魔法を改良するか封印するか迷っているとフィリアが反射的に洞窟の方を向く、
「でかいの来ますわ!」
デッドスパイダーが炎を破って出てきた、開かれた炎の隙間から何十匹も蜘蛛の成虫が飛び出してくる。
「『グラビティ・レイン』」
杖で魔法陣を突くと連動して空中に展開する、明滅すると薄暗い空間が広がり空間に入り込んだすべての蜘蛛が押しつぶされて倒れこむ、
「説明しよう、魔法グラビティを改良した『グラビティ・レイン』、従来の魔法は一つの対象に数倍の重力をかける魔法だがこのオリジナル魔法は広い空間に点在させることで消費魔力を少なく広い範囲に展開できる、俺の編み出したカッコいい魔法シリーズ第三弾の魔法だ、さらに…………『スレイブ・オフ』」
魔法陣を突くと一つの魔法陣が目の前に展開し薄い光の刃を作製すると消えたその瞬間蜘蛛の足や胴体が見えない速さで切り飛ばされていく、
「説明しよう、『スレイブ・オフ』、カッコいい魔法」
「…………え、説明終わりですか?」
「いやな、最初はライトセイバーみたいな熱エネルギーで何でも切れる剣を作ろうとしたんだけどさぁ、暴発するわ魔力は食うわ熱くて持てないわで完全に失敗作だったわけ、何とか使えないかなぁと思って挑戦してみた魔法があれ」
指を指した場所では光の刃が落ちていた、蜘蛛を切断していた刃だったが、発動してから八割は何もない空間や地面を切り裂いていたので完全に失敗だろう、魔法剣とかカッコいいから作りたかったんだけどなぁ、やっぱり失敗作だった。
次の魔法を展開させようと準備すると、デッドスパイダーが左に大跳躍し、木々を薙ぎ払いながら着地をする、からだ中がスス焼け、足も切断され残り五本となっていた。
「うっわ、うそだろ跳んだよあいつ何であの巨体で飛べるんだよ、しかも罠の範囲から外れちゃってるんですけど」
「頭良いんでしょうね、無理に突っ込まずに回り込んで来るなんて…………」
他の蜘蛛が来ないように全ての魔法陣を展開しとく、水、稲妻、爆発と様々な魔法によって蜘蛛たちは死んでいった、試作品が多いので一つずつ展開して効果を確認したかったがしょうがない、
「どうしてこちらに来ないんでしょうね?」
デッドスパイダーは死んでいった蜘蛛たちを見ながら動かないままだ、どこか悲しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「あれ?そういえばフィリアは、さっきからいねーんだけど?」
「先ほど向こうに行きましたよ、トイレですかね?」
「えっ、ちょっとまてよ流石に厳しいってか無理なんだけど俺もう魔力ないし」
「僕も一応幻術は展開していますがこのままだとジリ貧ですしね、あっ、デッドスパイダーこっち来そうですよ?」
ゆっくりとこちらを向きながら五本の足を器用に使い突進の構えをとっていく、
「やっばこっち見た、フィリアー! フィリアー!」
叫んで呼ぶが返事が来ない、フランに幻術を展開させて二人で逃げようと決意した瞬間、
「ルーク、フランお待たせしましたわ」
フィリアが森の中から姿を現した。