二話 ストーカー
「はいこれ仕事です、それじゃあ頑張ってきてください」
「いや説明不足にも程があんだろ!」
リビングで椅子に座ると書類の束を渡され説明も無しに行ってこいと言われた、しかたなく書類をぺらぺらとめくっているとフランがキッチンの方から覗き込み声をかけてくる、
「皆さん飲み物何にしますか?」
「紅茶で」
「紅茶をお願いしますわ」
「すみませんがコーヒーをお願いできますか?」
わかりましたーの声と共にキッチンに戻るフラン、フィリアが話を切り出す、
「それで私たちは何をすればよろしいんですの?」
まじめな話こいつが持ってくる仕事はろくなのが無い、危険な仕事が多すぎるのだ神様はどこから話そうかと考えていて沈黙の時間が続く……時々キッチンで「あっ、こぼしちゃった」や「あっ、塩とお砂糖間違えちゃった」と聞こえてくるけど何やってんだあいつ?見ていると神様が話し始める、
「私がこの世界を創り直した事はこの前話しましたよね?」
俺は頷く、昔人類は科学によって成長していった、しかし地球が成長に追い付けず全滅を回避するためにリセットし危険な物質を取り除く、そして文明の知識とアニメや漫画の物語を適用させて剣と魔法のファンタジー世界を創った、だっけ? 初めは信じてなかったが、奇跡としか言えない意味不明な力を使うこいつを見たら話し半分信じてみる気持ちになってくる、
「いや聞いたけど、なんでこんな世界にしたの?もっとましな世界、平和にすることもできただろ?なんでこんな殺伐としてんの?」
この世界ではモンスターと人間たちの争いが毎日起こっている、モンスターの上位に魔族なんて者もいて人間を滅ぼすことを目的として動いていて、人間側も冒険ギルドなんて作り、各地のモンスターや魔族、魔王城を滅ぼすために行動していた。
「それは仕方ないんですよ、争いこそが生物を成長させる一番の近道だからです。平和な世界になりますと考える事を止めてしまいますから適度な刺激が必要なんですよ、……ですので、決して前の文明の娯楽にハマっていた訳ではありませんからね」
ここで俺達に与えられる仕事とは、この世界の調整である。この神様が創り直した世界は何を参考にしたのか、とにかくガバガバで何回世界を滅ぼしかけたことか、
「要は今回の仕事も神様の尻ぬぐいですのよね…………」
「いや自分でやれよって言う感じだよな…………」
「仕方ないんですよ、世界の創造なんて初めてでこれでもかなり頑張ってきたんですよ! これ以上の調整になりますと細かすぎて私がしてしまうとかなり歪んでしまうんです。そのために君達を雇い入れたではありませんか」
俺とフィリアの言うことに珍しく必死な神様、何故かこのことを話すとムキになる気がするが…………
コホンと咳を一つして落ち着きを取り戻し話を戻す、
「そこで仕事なんですけれど」
「むーりー、はたらきたくなーいー」
俺は机に突っ伏すが無視して話を続ける
「魔王城を制圧してきてください」
「こいつバカじゃねーの!」
俺は叫んだ! この世界の最大戦力に喧嘩売りに行くなんて自殺行為にも程があんだろ! 途中でフランがメイド服を着て飲み物を配っていたが何も突っ込まずに続ける、
「なんなの?こんなの勇者とかにでもやらせとけよ、俺らがやれる範囲内じゃねーだろ!」
この世界には特殊な人間がいるのだ、魔族に対抗できるよう通常ではありえない力や能力を神様の加護として持つ生物がうじゃうじゃいるのだ、そして神様がコーヒーを口につけ、首を振りながら答える、
「残念ながら、ここ最近で魔王軍の戦力が大幅に上がってきています。残念ながら今の人間側の戦力になりますと一方的な蹂躙が始まってしまうんですよ、ですので何としても戦力を落として拮抗させて頂かないといけません。………………ちなみに人数はここにいる三人だけです」
「こいつバカじゃねーの!」
再び叫ぶ! 人数が少ないにも程があんだろ!
「俺ら以外も連れて来いよ!ロリやナルシストとか居るだろーがよ!」
この家に住んで神様の仕事を請け負ってるのはまだ他にも居るはず、どこの勇者パーティーでも数人で行く奴なんて居るわけがないだろ、再びコーヒーを口にしていた神様は、
「残念ながら君達以外には別の仕事を頼んであります。西の山に古代龍が現れてそれの調査と討伐をしてもらっているので今動けるのは君達だけなんですよ。…………なにも正面から魔王城に攻めてもらおうとは考えていません、妹から伝言を預かってきましたのでまずはこれを見てください」
懐から水晶を取り出し机に置くと、光が放たれ壁にザザッと音と共に映像が写し出される、黒髪黒目に巫女服を着ている人形のような可愛らしさを持つ少女が机を挟んで座っており数秒の沈黙の後小さな口を開いた、
「あげぽよ~、みんな元気~?みんなのアイドルの巫女ちゃんだよ~ん!」
清楚ななりとは裏腹に痛々しい言葉を続けていく、このテンションの割に表情に変化がなく、口元しか動いてないのだ、
「さ、い、き、ん~この世界のバランスが崩れてきちゃったのは聞いたかな~?もう危機的状況でマジさげぽよ~なのね、このままじゃ滅亡しちゃうのぉ~、だから~巫女ちゃん占っちゃったの、みんなの為にあげぽよしたのぉ~、詳しいことはあの人に渡しておくけどその中の出会いだけは間違えずにやるぽよ? それじゃ頑張ってくるぽよよ~」
ブツッと音と共に映像が切られた、終始無表情だったのはある種の恐怖を覚える。
「……………………あの子、アヘンでもやってますの?」
「気持ちは分かるがやってねーだろ、…………やってねーよな?」
どうしよう自信ない、
「最後の方、何かのゆるキャラみたいになっていましたね」
「毎回キャラ変わってけどあいつどんな生活してんだ?前ってどんな感じだったっけ?」
「中二病シリーズでしたよね? 僕は好きでしたよ、『大地より眠りし幾多の眷属』がまさか地底人の襲来を現していたのは流石に笑えました」
巫女様のキャラについて議論していると神様が横から、
「私の妹の予言の命中率は十割です、君達も実感しているでしょう? 今のままだと滅亡は確定してしまいます。その書類にも書いてありますが魔王城に行く前の出会いを完遂させてください。考えるのはそこからでも遅くないでしょう?」
巫女様の占いの怖さは俺が一番良く知っている、なぜなら内容が抽象的すぎで、何回かミスって予言通りに動かないでみたら急速にバッドエンドに近づき、それを修正するのに何回死にかけた事か…………いや、そんなことよりもさっきから気になっていたのだが、
「お前何で巫女様の事妹って呼んでんの? 聞いてみたら自分に兄は居ないって言ってたけど?」
「それは…………恥ずかしかったのでしょう、お兄様と甘えている自分を見せたくなかった所でしょうか」
最後は軌道修正をしてきたがこいつ最初言い淀んだ、俺が疑惑の視線を送っているとフィリアが、
「そういえばお付きの人に聞いたのですけど巫女様は親兄弟はおらず何処で生まれたかも分かっていないと言っておりましたわ」
「そういえば先程の映像でもお兄様ではなくてあの人に渡したと言ってましたね?」
三人が神様を見ていると目線を逸らし優しく微笑むと、
「そろそろ仕事の時間ですよ、最初の場所までは送りますので準備をお願いします」
急激に話を逸らしたので確定した、
「……お前マジか?自称神様を明言していて、巫女様を自分の妹と思い込みながらストーカーしてるとか傍からみてもかなりヤバい奴だぞ」
「まぁ、知らない男に『お兄ちゃんだよ』と言われ続けるのはかなりの恐怖ですよね…………」
「ほ、ほら、早く着替えて準備してください、あと五分したら強制的に転移してしまいますよ」
「これ本気ですね、この服装動きづらいので先いきますね」
メイド姿のフランは階段を上がり自室に駆けていく、それに続くようにナース服のフィリアも走って行っく、
「あぁ、くっそ、五分て短すぎだろ! 後でこの件について追及してやるからな!」
捨て台詞を吐き捨てながらルークも出ていくとリビングは神様が一人で静かにコーヒーを飲む光景だけが残る二階の方から聞こえてくるのは、
「ルークさん、私の上着赤と黒どっちが似合うと思います?」
「知らねえよ!こちとら三人分の荷物詰めるのに忙しいんだよ!ちなみにこの前着ていた白が似合うと思う!」
「ルーク、すみませんが私のビキニアーマー知りません?」
「それこそ知るかああああああああぁぁぁぁぁ! お前んなもん着た事ねえだろうがあああああああぁぁぁぁぁぁ!」
喧騒を聞きながら優雅にコーヒーを飲む神様は上を見ながら呟く、
「十分だと思いますよ…………上位天使にして堕天使の烙印を押されてしまったフィリア、間違いから生まれてしまった精霊のフラン、そして……………私の片割れの存在となるルーク、君達だから今回の仕事をまかせたんです」
神様は微笑むと上に聞こえるように言った。
「残り二分ですよー」
その言葉に一人の叫び声が返ってきた…………