一話 ツンデレヒロイン症候群
近くで声が聞こえる。
「先生、この患者は助かるのでしょうか?」
「‥‥残念ですがもってあと1日でしょう」
「そんな‥‥まだ子供なのに‥‥」
俺は閉じていた目を開ける、隣を見ると白衣を着た子供とナース服の女性が真剣な表情で話し合っている、それを半目で見ているとナース服の女性が気づいたのか
「フラン先生、患者が目を覚ましました。」
「『覚ましました』じゃなくて人の部屋で何してんのお前ら?」
「フラン先生、この患者が助かる方法は無いのでしょうか?」
「‥‥残念ですが」
え、無視ですか? 俺の問いかけに対して話を進めていく二人、肩まで伸びた白銀の髪に中性的な顔で男か女かわからない見た目子供のフラン。
サイズが合ってないのか豊満な胸がナース服を持ち上げるスタイル抜群な金髪碧眼の美女フィリアだ、今は役作りなのか普段よりもまともなしゃべり方をしている。
「ルークさん、貴方はとても危険な病気にかかっています。なのでこちらの病室に隔離させていただきました」
「あぁ、この小芝居やめる気ないのね、あとここ病室じゃなくて俺の部屋だし」
「意識がはっきりしていないようですね、現実と妄想の区別がつかないなんて…………」
フランが可哀そうな人を見るように首を振る、
「痛い子発言してんじゃねえよ、‥‥はぁ、まあいいやちなみに俺はなんの病気にかかってい‥‥」
「釘宮病です」
「は?」
言われた言葉に一瞬考えながらももう一度、
「何の病気だっ‥‥」
「釘宮病です」
なんで食い気味に言ってくるんだよ!
「ほんとに興味は無いんだけど終わらなそうだから聞いとくわ、どんな症状の病気?」
フランは一呼吸置いた後、
「病名は釘宮ウィルス過敏性大脳皮膚炎と呼ばれ、興奮、発汗、発熱を引き起こし症状が進むと男性は鈍感系主人公症候群、女性はツンデレヒロイン症候群と男女によって差が出ます」
「‥‥色々ツッコミ所があるけど、ツンデレヒロイン症候群てなに?」
「それは今考えたので掘り下げないで頂けると助かります。」
こいつ……
フランと話しているとフィリアが胸を押さえて苦しみだす。
「くっ、あぁん」
「フィリアさん、フィリアさん大丈夫ですか?」
この茶番まだ続けるのかよ…………長くね?
「服のサイズが合って無いからじゃね?胸の部分ぱっつぱつじゃんAV女優みたいになってっけど」
「ルークさんそれセクハラですよ、まぁでもこのナース服結構ゆとりを持って作ったんですがここまでの大きさでもキツイなんて思いませんでしたよ」
この衣装お前が作ってたのかよ、少しすると赤面しているフィリアが小さな声で、
「べっ‥‥‥‥‥‥」
「べ?」
「べ、べつにあんたの事なんて好きじゃないんだからねっ!」
何言ってんだこいつ?
「まずいです、彼女も釘宮病に感染してしまいました」
この病気感染するんだ‥‥
「このままですとツンデレヒロイン症候群の症状が進んでいき最後には『くぎゅうううう』と言いながら死にます」
「死ぬの? 釘宮病怖すぎじゃね?」
するとフィリアがこっちに来て、
「ルークのバカ! アホ! 変態! あなたの性癖皆に言ってやるんだから」
「やめてくださいっ、ルークさんが社会的に死んでしまいます」
「いやそんな性癖俺持ってないけど」
「バカアアアァァァァァァ」
フィリアはグーで顔面に殴りかかってきた、受け止めようと両手をあげるが寸前でピタリと止まり逆の手が振り下ろされる。
「ってフェイントとか‥‥ごっぷああぁ!」
思いっきり腹を殴られたベットの上でうずくまっている俺の姿を見て、
「もう知らない!」
フィリアは逃げるように部屋から出て行った。
「ルークさんすごい音しましたけど大丈夫ですか? 死んでいませんか?」
「‥‥めっちゃ痛い、‥‥涙が止まんないし意味もわかんない、説明して」
「目を覚ますと俺の部屋でナースにボディーブローされた件」
なんでスレタイ風なんだよ! と思いながら前のめりに倒れこんだ俺を横目にフランは辺りを見渡しその辺にあった本をパラパラとめくっている。
「この部屋に入るのは久しぶりですけどずいぶんと本が増えましたよね、これ全部魔導書ですか? 生活にゆとりが無いと心壊しますよ? 只でさえ周りからオタク部屋なんてよばれているんですから」
俺の部屋には本棚、机、ベットと残りは本に埋め尽くされている、自分は気に入っているのだが同居人からはあまり好評でなくたまに花やぬいぐるみを部屋に投げ込まれている事もあった。
「そんな呼ばれ方してたのかよ、俺的にはかなり過ごしやすい空間なんだけど結構ショックだわ、ちなみにお前が読んでんのは魔導書じゃなくて呪術書だからな」
「え? 魔導書と呪術書って違いとかあるんですか?」
ごく最近呪術にハマりだした俺はフランの質問にちょっと機嫌を良くしながら、
「魔法は大抵空間や物に影響を与えるんだけど呪術は特定の生物に対して効果があるんだよ、簡単な魔法で火は出せるけど人間に火をいきなり点けることは出来ないだろ、生体反応に干渉してんのか知らんけど目標に魔法で火を点けるには火をその場所に飛ばさなきゃならんわけだ、それが呪術だと生物限定に限るが目標自体にそのまま火を点ける事が可能になるんだよ、まぁそのために生贄やら儀式やらで面倒くさい手続きがあるけども目標を限定するなら呪術の方が使い勝手がいいんだよ、しかも呪いを主にしているから生贄に使用する物によっては……」
「あの、ちょっといいですか?」
説明の途中でフランが聞いてくる、
「うん? どした?」
「自分の得意分野になると長く話す人って気持ち悪くないですか?」
「お前が聞いてきたんだろうがあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
叫んだ! こいつには毎回おちょくられている気がする。
「いやほんと何しに来たのお前ら? さっきの茶番劇を見せるためですとか言ったら流石に切れるよ、俺」
フランを見ると笑顔を見せながら下に指を指す、
「神様が来ています」
「え~、あいつ来てんのかよ、どうせ仕事の話だろ?」
俺たちの上司に当たる、自称神様を名乗り、行く当ての無い奴らをこの大きな家に住まわせ仕事を与えているのだが、
「たぶんそうでしょうね、ルークさんを呼んで来いと言いましたから」
「行かなきゃダメ? お前とフィリアだけでも大丈夫だよ、俺腹が痛いから今日は休むわ」
すっっっっっっごく働きたくないです、しかもさっき殴られたからマジで腹が痛いし、
「そんな子供みたいな言い訳で逃げられると思ってんですか? ちなみにルークさんが行かないのなら僕達もいきませんよ」
フランが顔を近くまで持ってくる、こうなると本気で逃げるのも悪くないんじゃないか? 三人で逃げればあの神様なら許してくれるかもしれないし、
「よしフラン、フィリアを呼んで来い!」
「ま、まさかルークさん…………やるつもりですか?」
フランの言葉に緊張感が走る、互いに見つめながら俺は作戦名を名付けた、
「只今からコード、ビューティフルエスケープを行う! 神から逃げ、自由を勝ち取るための作戦だ、背反とされる行為を行った者は即時処分させてもらう、さぁ始めるぞ」
隣を向くとフランは部屋の入り口を見ていた、つられて向くとフィリアと一緒にスーツを着た男が立っている、短く整えられた黒髪に眼鏡をかけていてもイケメンを感じるその容姿、微かに笑いながら言葉を発する、
「私から逃げるんですか?」
「ルークさんは反逆するそうです」
「こいつ裏切りやがった! あぁそうだ今から俺とは敵同士だ、さあフィリアお前はどっちにつくんだ?」
「神様に付きますわ」
即決、
「くっそ俺の味方は居ねーのかよ、だが俺一人でも戦ってみせる、さあこい俺は絶対に労働なんてし………………………ごっぷあああぁぁぁぁぁ!」
本日フィリアから二発目のボディーブローが入ります。
「ほら、遊んでないで早く行きますよ、仕事を持ってきましたので」
神様は微笑みながら部屋から出る、後からフィリアとフランが続いて出ていき部屋には腹を押さえてうずくまっていた俺が一人取り残されていた、
「……………………………行くか」
呟くとゆっくりと立ち上がり一階に歩き始めた。