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薬害調査官 飛騨亜礼  作者: 坂崎文明
第一章 子宮頸がんワクチン薬害

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古事記

「あらら、すいません。スマホ忘れちゃって」


 薬師御言(やくしみこと)が<作家でたまごごはん>の事務所に戻って来た。

 散々、事務所メンバーと家捜しして、スマホはトイレから発見された。


「飛騨さん、無難な報告書は出来そうですか?」


 薬師御言(やくしみこと)は魅惑的な流し目で飛騨の様子をうかがう。


「ちょっと議論してみたんですが、なかなか難しいですね」


 プロとしては恥ずかしい限りだが、そこは案外素直な飛騨亜礼であった。


「こういう考え方はどうでしょうか。古事記ってご存知ですよね?」


「まあ、一応、知ってます。歴史は好きなので。持統天皇が孫に皇位を継がせるために、女神<天照>の神話を創作したという説があります。元々、天照は男の王だったという説もありますね」


「なら、話が早い。古事記の内容は明らかに当時の権力者である持統天皇によって歪められています。それは古事記の記述の不自然さの中から読み取れます。あるいは万葉集もそうです。有名な柿本人麻呂も史実の中では実在が疑わしい人物です。あれほどの教養があり、身分が高かったであろう人物でありながら正史に記録が見当たらない。その正体さえ謎です。だけど、確かに彼はその歌によって実在したことは確かです。あるいは竹取物語。あの物語にも非常に不自然な点があります。かぐや姫に求婚した車持皇子(くるまもちのみこ)は右大臣藤原不比等がモデルでないかと言われている。不比等の母は車持氏ですから。そういうことを現代の人が知ることができているのは何故でしょうか? それはその文章、記述に不自然な点があるからです。当時の権力によって真実は歪められたとしても、その不自然さによって、人は真実に必ず辿り着きます」


 薬師御言はそこで一息いれた。


「……ならば、子宮頸がんワクチンの報告書にも不自然な点を残せばいいのです。人は必ずそこから真実に辿り着きます」


「確かに。私のご先祖様と言われている稗田阿礼(ひえだのあれい)も古事記の真実を知っていたひとりでしょうね。そして、明らかに不自然な記述を残した」


 飛騨亜礼は少し笑顔になった。


「実は、うちのご先祖様も古事記の編纂に加わっていたという言い伝えがあります。稗田阿礼からそんな話を聞いたと言われています」


 薬師御言は嘘とも冗談とも取れるような言い方をした。


「いい話ですね。では、お互いのご先祖様を見習って不自然な報告書を残します」


 飛騨の言葉に薬師御言は魅惑的な微笑で返した。


「では、また」


 いつもの凛とした後姿を見せて<作家でたまごごはん>の事務所を後にした。


「なかなか(したた)かな人ですね」


 メガネ君がつぶやく。


「ということで、報告書の編集方針は決まったな」


 飛騨亜礼は珍しく清々しい気持ちになっていた。

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