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98.閑話~『水那』の始まり 3(ティアマトの宝珠)

 英雄は時代、地域によって姿を変える。その中でギリシャ神話の英雄たちにはある共通項があります。

 それは〈兜〉を外されていること。星座・神話を重視した絵画、彫刻では〈兜〉を装備していますが、創作物のギリシャ英雄たちは〈マスク〉を外されている。もしくはギリシャ・ローマでは存在するはずのない、創作の〈兜〉を装備していることが多々あります。

 それによりキャラクターの表情、髪型が露わになり魅力的になっている。ヘルメット、トサカ?や翼付き?の3種類が基本の兜に固執するより、創作兜ほうがずっと良いです。


 ただしペルセウスから『ハデスの兜』を外す。兜を装備していても、『冥界を統べる神』のメイン神具であることが〈大昔から〉事実上、忘れ去られている。それによってペルセウスの『装備』は別物と化していると愚考します。

 「これが『ティアマトの宝珠』ですか?」


 「そっ。ボクの伝手で入手したカオスヴァルキリーの秘宝。『海竜女神の卵』とか別名はあるけど。

  端的に言えば【魔竜鬼】の卵だよ」


 「卵ですか・・・」


 人間の腰までの高さがある青色の球体。卵のようであり、宝玉のようでもある。それは鈍い輝きと魔力を放っていた。


 イリスとその配下が拠点として利用している迷宮の一画。他とは隔離されたその場所にはC.V.イリスと侍女シャドウの二人。アヤメとユリネの三人が集まっていた。

 カヤノとミヤホ二人の姿はない。『ティアマトの宝珠』は重要アイテムであり。情報戦に疎く、戦闘面でアヤメたちに大きく劣る二人が知るべきではない。・・・という『宝珠』の持ち主(クララ)の意向に従っている。


 「厳密には卵と言うより〈めしべ〉かな。水属性魔竜鬼(ドゥーガ)という制限はあるけれど。

  魔力を込めた者の意向に沿った【ドゥーガ】が産まれる。魔力量は少ないけど、イメージに優れた者たちが【ドゥーガ】を創造・使役するための補助アイテムと考えていいよ」


 「これを・・・私に・・・」


 「聞いたことのない秘宝ですね…」


 魅せられたようにつぶやき『ティアマトの宝珠』へと歩み寄るユリネ。そんな彼女とは対照的にアヤメは『宝珠』に不審の視線を投げかけていた。

 『クリーチャー創造』の魔術が込められた魔道具はただでさえ稀少なのに加え。〈一個〉のマジックアイテムに対し、創造されるクリーチャーも〈一種類〉が原則だ。

 それが水属性【魔竜鬼】なら術者の〈意向〉に沿ったものが創造できるなど、シャドウどころかC.V.でも知らない者のほうが多いだろう。


 〔まあそれも当然のことだけど〕


 『ティアマトの宝珠』は上級C.V.クララ様が従える超巨大【魔竜鬼】の細胞だ。しかも本体のどの部位になるか定まっていない未発達『コア』であり。クララ様の魔術範囲内でなければその効果を発揮しない(ただの怪物と化す)


 「まあ無理にとは言わないよ。ユリネちゃんなら再修行で才覚にあった【ドゥーガ】を使役できるようになると思うし。不審を抱いたなら、適性がないということで。

  『ティアマトの宝珠』とは縁がなかったと言うことでいいよ」


 それはイリスの偽らざる本音だ。ウァーテル攻略を行なう司令官として彼女にも思惑がある。

 しかしユリネを使い潰す意思、予定など一切なく。


 計画の一部は変更しなければならないが、戦場では珍しくもない茶飯事だ。

 それに対応できずして勝利をもたらす采配などできるはずもない。

 

 「ありがとうございます、聖賢の御方様。必ずやこの機会を活かし、汚名返上をなしてご覧に入れます」


 「ユリネ・・・」


 「もしも~しユリネちゃん。先日のあれはボクが必要性(ニーズ)危険(リスク)を周知しなかったのが原因だから。君は別に失敗したわけでは・・・」


 フォローのセリフを無視してユリネは『ティアマトの宝珠』へと【力】を注入していく。その後ろ姿からは不穏な影が見え隠れしていた。







 「・・・・・」


 「術式干渉(アルゴスゴールド)・・・駄目ッ、解析光術(アルゴスアイズ)!!」


 「鎮まりなさいユリネとやらっ!私の『宝珠』を借りて暴走など許さない!!


  ・・・・・クッ。駄目だわ。経路パスを遮断している。もう独立した【魔竜鬼ドゥーガ】が構築されるなんて。早すぎるっ!」


 お館様である聖賢のイリス・レーベロア様。魔導師団長のクララ・レイシアード様。


 侍女シャドウのアヤメにとって主君のC.V.であり、それと同レベルであろう実力者が二人とも動揺を露わにしている。

 侍女シャドウのユリネが『宝珠』に魔力を注ぎ。『魔竜鬼の創造』を始めて間もなく、異様な魔力が渦をまき始める。その後、クララ様が姿を現したものの、C.V.お二人が術式をレジストされるなどアヤメにとって想像の埒外らちがいな光景であった。


 シャドウ一族を壊滅の危機に陥らせた邪神。それを瞬殺したのに加え、シャドウたちに【戦う術】【未来】の両方をもたらした絶対者が不様をさらしている。世の理不尽は自分の想像力を超えていると、アヤメは改めて思った。



 「いい加減にしなさいユリネ!貴女の行いが一族、親族に何をもたらすかわからないの?」


 「天才の貴女に私の心などわからないわ。私は命を賭けてこの機会をものにして見せる!」


 だからと言ってアヤメがイリス様たちを“侮る”ことは無い。“邪神”を圧倒する次元の能力者が、アヤメたち程度の実力に後れを取ることなどあり得ないからだ。

 おそらく何らかの『誓約』で強硬手段が“今は”取れないだけだろう。アヤメとしてはその制限時間内に同僚(ユリネ)の暴走を止めねばならない。


 「愚か者・・・。覚悟はできているのかしら」


 半眼でつぶやくアヤメにお館様(イリス)光術会話(フォトンワード)で話しかけてきた。


 『アヤメちゃん。ユリネちゃんが欲しがりそうな物に何か心当たりはない?』


 『欲しい物でございますか?』


 名誉、魔力やそれらの入手を可能とするマジックアイテム。すぐに思いつくのはこんなところか。


 『うん。それをエサにして、手を伸ばしてきたところ。意識を取られ防壁に隙間ができたところに魔術経路パスをつなぐ。そのためにユリネちゃんのニーズを知りたいんだけど』


 『アルゴスゴールド』は神の力では無い。マジックユーザーが求める万能魔力マナ、情報を与えることを代償に、経路を構築(しんしょく)して術式干渉を行なう。イリス様たちにとっては魔導の力とのこと。


 それ故、自らの『力』のみを『ティアマトの宝珠』に注いでいるユリネには干渉できない。クララを介して『宝珠』の情報・魔力をエサにしているが、暴走に近い『魔竜鬼の創造』を鎮めることができないでいるとのこと。


 「・・・・・できればハズれて欲しい予想なのですが。ユリネ、これを見なさい!」


 そう告げてアヤメは懐から糸束を取り出す。そうしてこれ見よがしにユリネの眼前で振り回して見せた。


 「ッ!?それはっ・・・」


 「そう、貴女が探している糸。シャドウの『装束』よっ!」


 身体強化の術『旋風閃』で高速移動した場合。通常は問題無い〈水滴〉〈砂粒〉が加速した刃と化し、シャドウの体表面を切り裂く。それを風の結界でしのいでも、敵の迎撃魔術に無防備のままでは敗北の未来が確定するだろう。

 よってアヤメとしては『旋風閃』の修練と同時に、迎撃魔術の対策として『装束』を作成するのは必須であり。加速した手指の技により『装束』を製作するのは手柄と誇れるものではなかった。


 「どうしてっ・・・どうして『旋風閃』の指導をしている貴女アヤメがソレを作れるの。私が『霊糸』の開発にどれだけ苦労しているとっ!」


 ユリネの嫉妬と慟哭が入り交じった叫びが響く。シャドウはクラフトマスター(製造チート)や技術者C.V.ではない。そんな自分たちが『身体強化』と『繊維』の研究を両立させることなど、本来できるはずも無く。

 実際、ユリネが『魔竜鬼』の創造と『繊維』の開発に行き詰まっているのを、アヤメは何となく察していた。


 「別に私は一から『装束』の糸を織ったわけでは無いわ。ただ『旋風閃』の加速によって開発に要する刻を縮めた。

 味方陣営(イリス様の配下)に『旋風閃』の秘匿を行なうのは不可能で、不毛だから。『旋風閃』の情報開示を対価に、『装束』を完成させるのに必要な物を入手しただけよ」


 「・・・・・“だけ”ねぇ」


 「ん~、藤次君も同じようなことをやっていたからおそろ・・・コホン」



 「*%、。`#~~~。貴女は、いつもそうやってっ・・・」


 本来、胸の奥に隠しておくはずの劣等感・嫉妬心をユリネは抑えられずにいた。それは『ドゥーガ』に詳しくないアヤメでも察することができる。『魔竜鬼』の創造、『ティアマトの宝珠』に注ぐ魔力に感情(たましい)までをもない交ぜにしているのは、容易に推測できた。


 「それで?この『装束』を織るのに使った糸を『求める』の?欲しがらないの?」


 「くっ、私はっ、私ワァッ!」


 「わかった、『求める』のね。ならば『私は代償を払う。今後、私個人が糸の開発を一切放棄することを代価に。より強く、さらに魔性を帯びた【霊糸】を求める』」


 「・・・今っ」


 「経路の接続を確認。『アルゴスゴールド』を全開で発動(オーバーリミット)!!」


 アヤメの目の前で上級C.V.二人の魔力がユリネと『宝珠』に殺到する。それがどのような魔術、超常の力なのかは彼女の知るところではない。


 だが必ず勝利をもたらすと、アヤメは確信していた。





 【お父様】


 そんなつぶやきが、どこかで響いた。


 

 

『ハデスの隠れ兜』それはペルセウスの装備している神具の中で、最も格の高いキーアイテムです。

 女神アテナ、伝令神ヘルメスの加護を受けるペルセウスは成功を収めた英雄であり。神の加護チートをふるい、プラネタリウムで輝くヒーローと言えるでしょう。

 しかし『ハデスの隠れ兜』を装備したペルセウスはチートな王子様と言えないと思うのです。まず天空神ゼウスの息子であるペルセウスにとって、『冥界』の装備は呪われた防具ではないでしょうか?

 さらに『ハデスの隠れ兜』の格によってアテナ、ヘルメスの神具も冥界武装へと変わっていきます。ヘルメス神は冥界との交渉を担う外交官として『羽根靴』で黄泉路を移動しており。フクロウを眷族に従えるアテナも冥界に携わる。『夜目』が重要な『夜間戦闘』、過酷な『奇襲』を司る戦争女神の面が強まり。

 二柱の神が与えた神具も冥界に属する『ハデスの兜』と同様の色を帯びてきます。


 その結果、ペルセウスは『冥界のフル装備』という呪われているに等しい武装でメドゥーサに挑んだ。都合の良い神の加護(チート)などなく、かなりハイリスクハイリターンの冒険をした英雄だと思うのです。

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