97.閑話~『水那』の始まり 2(C.V.の事情)
ギリシャ神話の英雄ペルセウス。某英雄大戦でメドゥーサ英雄の活躍に伴い、抹消同然の扱い。余所で出番があっても『石化』能力は喪失しているという有様です。
私にとって〈プラネタリウム〉に登場するペルセウスは最強候補の英雄だと考えていました。アンドロメダ姫と結ばれ、「めでたしめでたし」で終わった人生の勝利者ペルセウス。そんな勇士が“神の加護・装備に頼る男”になるとは夢にも思いませんでした。
【魔竜鬼】という魔術がある。端的に言えば『魔力によって怪物を創造する』魔術という認識でいいだろう。ただし100%魔力で構成された守護霊の類であるとは限らず。ドール、ゴーレムやキメラを製造する技術・資材を流用するのは当たり前とされ。
そのため術者の事情・ニーズにより、様々な【ルール】で創造され活動するドゥーガが存在するのだ。
「だから術者は集団であってもいい。創造する必要はなく、過去のドゥーガを復活させるイメージもあり。
狂信者にしてはカシコいと褒めればいいのかな」
「いいと思うわ。カシコいすごいガンバッタわね」
パチパチと空しい拍手がたたかれる。それはこの場にふさわしくない響きであり。
「き、貴様等っ…この魔女が、このバケモノがぁっ!!!」
「・・・っ・・・!?・・・ア…ァァァ」
C.V.二人を除く。この場にいる者すべてを嘲笑するドラムである。
ある邪神の祭壇。そこでは二人のC.V.による殲滅・蹂躙が完了していた。邪神の信者たちはほぼ壊滅し、生き残りは虫の息で絶望にさいなまれている。
もっともイリスからすれば邪教徒たちは他者を蹂躙する妖魔に等しい存在であり。
ゴブリン同然に数が増えないよう、定期的に壊滅すべき亜人モンスターでしかない。
そしてイリスに同行しているC.V.クララ・レイシアード。七級『水属性』の彼女に至ってはヒト型モンスターなど害虫以下の存在だ。
「我等が神よ、その現し身よっ!どうか今一度、御力を示し魔女どもに神罰を下したまえっ!!」
「御力を。どうか再びの御力をっ!そのためならばこの命をも捧げます!」
そんなC.V.二人へ呪詛の視線を送りつつ、狂信者たちは『邪神像』に祈り魔力を送る。
だが先刻まで脈動していた邪神の『魔竜鬼』はかろうじて邪気を発するのみで、動き出す様子はない。
「だから無駄だって。もういい加減にあきらめたら?」
「成長すれば物理攻撃を無効にして、ヒトの魔術に強い耐性を持つ『悪魔像』。もともと邪教徒には過ぎた『魔竜鬼』だけど、ここまで圧倒するなんてあいかわらずね」
「もともと〈物理無効〉なんてゴリ押し能力なのに。〈地面に立つ〉〈眼球で光学情報〉を得るなんて〈物理的な恩恵〉だけは受けたいだなんて。
そんな破綻した法則のドゥーガですから、ボクの魔力を侵入させるのは容易ですよ」
「そうかしら?貴女ならそれなりの手順で行なわれた儀式にも『アルゴスアイズ』で干渉できるでしょう」
イリスとクララ。C.V.二人で穏やかに交わされるやり取りは、邪教徒たちの精神に絶望の文字を刻んでいく。
現状『邪神像』は邪教徒たちが長年崇拝してきた『動かぬ像』の意識で固定され、封じられていた。これでは魔力をため込む『悪魔像』にも劣るだろう。
“止った復活の儀式”“醜態をさらす像”として信仰・神秘を揺らがせるのに一役買っている。〈勇者の妨害を紙一重でさばき、再臨する邪神〉の神話が三流喜劇に堕とされているとなれば、無理もない話だが。
「そんなことはナイですよ。ボクにできることと言ったら“邪神の力は何でも食べる”という儀式に消化しにくいボクの魔力を混ぜる。イケニエに細工したり、自己中な生臭神官に罠ちらつかせただけですよ」
「貴女、その手で光陣営の教団も壊滅させていたわよね」
「さあ?狂信者の集団なんてたくさんありますから。いちいち覚えてられないですよ」
「それもそうね」
「貴様等っ…キサマ等ーーー!!!」
激昂する邪神官の戦士をカウンターの拳でイリスは吹き飛ばす。そうして血生臭い教団にとどめを刺すべく、“邪神”の【魔竜鬼】を構成する魔力に干渉していった。
「普段から崇拝している“悪魔像”の形態固定を解除っと」
「ああっ!」「これで復活がっ!」「喜ぶのは早いぞ。このまま魔女の呪縛から…・・・??」
「そうして急に流入してきた祈り・魔力を加速・高速化してゲンキよくーーー!」
「「「「「なぁぁぁーーーーー!!!!!」」」」」
封印が解かれ?たことにより動き出した“悪魔像”だが、イリスの魔導『アルゴスアイズ』の干渉によって加速を強いられる。信者の意思を反映すべき“悪徳神像”が光属性C.Vによって弄ばれ、貶められ。
「バカなっ!ワシの野望がァァ!!」
“悪魔像”から“邪神の分身”へと成長して災厄をばらまく。勇者勢力、秩序陣営との果てなき闘争が伝説を作る。
それらの『神話』がコミカルに震え踊る“邪神像”によって短縮され。【魔竜鬼】が邪神へと進化していく『イメージ』が三文芝居の『資料』へと墜ちていく。
「こうして“自称神様”を騙ったガーゴイルは自滅しました。残念、無念。
もう少しぐらい強かったら、ボクが討伐の勇者役を務めたのにな~」
「そんなわけないでしょう。こんなザコ、貴女の相手になるわけがないわ」
C.V.二人の侮蔑の言葉に対し、反論の声が上がることはない。狂信者たちの祭壇は恥辱によって穢され。『邪神復活』の儀式を失敗したペナルティに伴い。連中は今まで捧げたイケニエたちの地獄を、逆流した魔力によって生きたまま共有するはめになっていた。
邪教の祭壇だったところの後片付けをC.V.二人が行なう。それからしばらくして。
「それで?貴女サマはどんな内緒話がしたいの?」
「察しが良くて助かります」
「この程度のザコに貴女が直接戦うなんて、過剰戦力もいいところでしょう。
まあ感覚の鋭い配下を持つと密談場所を工面するのも一苦労なのでしょうね」
不遜な口調、挑発するような物言い。二人だけの時にそれらがクララに許されるのは、C.V.世界においてイリスと彼女は近しい身分に属するから。
「まずはクララ様の【結婚生活】中に、このような場を作ったことをお詫び申し上げます」
「まったく迷惑な話ね。今の私は貴女サマに仕える魔導師団長クララ・レイシアードに過ぎないというのに」
C.V.世界ではクララのほうが立場が強い。不届きなヒトの国を滅ぼす実力・権限をを併せ持つ上位のC.V.であり。イリスにとって師匠、上司を兼ねるレイファラ、ルイリナたちの同僚という身分がクララ本来の位置だ。
「ですが“悪徳都市ウァーテル”を陥落させねば、クララ〈夫人〉としての生活もままならないでしょう」
「・・・・私の旦那様は冒険者共のように、地下迷宮で色事に走る性癖はないというだけよ。夜の営みは悪徳の都を滅ぼしてからでもいい」
そんな彼女が何故、イリスの配下になっているのか?理由は結婚・出産のためである。
人間の男性と夫婦になり、子供を育むカオスヴァルキリーの生態。とはいえドラゴンとトカゲが子供をなすのは不可能に近い。
そのため人間を育成・強化することで勇者に昇格させ。上位C.V.は能力・記憶の大半を封印する。そうすることで下位竜と亜種リザードぐらいに、C.V.と人間カップルの力を均衡?させて、【結婚生活】を成功させようというわけだ。
事実上、能力・記憶が欠落した状態で不安定になったりストレスがたまったりすることも珍しくなく。その人間らしさが超常の戦争種族より、人間男性に親しまれることも少なくない。
「それならよろしいのですが。しかし現状ではいつまでたっても、ウァーテル攻略を始められません」
「ふうん。戦力的には貴女のシャドウたちだけでも充分のはずだけど」
実際には陸戦師団やC.V.数名も参戦するわけで。戦力的に攻略の準備は完了しているが。
「都市ウァーテルを武力で陥落させても。間を置かず、周辺の人間勢力に利益を供給できなければ。外道なギルドより、C.V.がウァーテルを治めたほうが得だと思わせられなければ・・・」
「いつまでたっても戦乱、暗闘は終わらない。私の平穏も脅かされ続ける…と」
「はい。それで策を弄してみました。まず私たちで【どぶ川のお掃除】を始めて・・・・・・・」
「面白い計画ね。古文書の“飯テロ”を起こす感じかしら?」
「いえ、可能な限りソレは避けたいです」
「貴女の意思に関わらず、起きる時は起きると思うけど・・・まあいいわ。
つまり『ティアマトの宝珠』を提供しろと」
「はい。この計画にはどうしても水属性の【魔竜鬼】が必要であり。
それもわかりやすく強力な中級魔獣型でにらみをきかせたいのです」
「そうかしら?シャドウたちの戦力で何とかなると思うけど」
「彼らは商人ではありませんから。いずれはともかく、即効で利権をばらまくために水の番人が有用だと考察します」
「それだけかしら?駄目出しした配下のフォローに『ティアマトの宝珠』を利用したいだけではないの?」
「・・・・・」
わずかな沈黙が漂い。
「まあいいでしょう。水属性C.V.として【どぶ川のお掃除】計画は魅力的すぎる。
先払いと言うことで『宝珠』を贈るわ」
[ただし失敗は許さない]
暗にそう告げて、クララとイリス。C.V.二人は偽りの主従関係へと戻っていった。
時代、地域によって英雄たちの評価が変わるのは世のならい。その変化を知るのも楽しみの一つ。
とはいえ英雄ペルセウスの評価は下がりすぎです。特に“ペルセウスの力は装備に依存している”という酷評はいかがなものでしょう?
試しに〈片手で持つ鏡に映る物体を、片手剣の一撃で両断〉してみてください。はっきり言って剣術を修めたかたでも困難です。ましてそれをゴルゴーン姉妹の棲む魔境で、大怪物の首に対して行なう。
そんな技量を持つ英雄が世界中にどれほど存在するでしょう?そもそもチンピラやカカシの類ならともかく、大怪物を一撃で倒すのは不可能に近く。さらにペルセウスにとって〈はじめてのおつかい〉ならぬ、〈はじめての冒険〉です。
よって結果が全て。神具に依存、大いにけっこうだと考えます。




