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96.閑話~『水那』の始まり 1

 女狩人アタランテの武勲である〈カリュドーンの猪退治〉。神獣猪にとどめを刺した勇士が、アタランテに【手柄を譲り】求愛だ、侮辱だと大騒ぎになった極めて稀な神話です。

 昨今のスポーツならともかく、無知な私では〈類似〉した神話、伝説を耳にしたことがありません。首級をあげるラストアタックは戦士たちの誉れであり、最高の大手柄。それが譲られる“異常事態”が起こった原因は何故でしょうか?

[水蛇の検問]よりさらに過去の話です。未熟な筆者で申し訳ございません。 




魔竜鬼(ドゥーガ)】という魔術系統がある。端的に言えば『術者の魔力によって創造される怪物』が魔竜鬼だ。


 ただし【魔竜鬼】は召喚獣では無く。守護霊、術者の分身体になるとは限らない。【魔竜鬼】の製造技術、固有法則により。どの程度、術者と共感しコストがかかるかは混沌としている。


 例えば『ゴーレム』の【魔竜鬼】を作った(・・・)場合。全身を術者の魔力で構成するか。

 あるいは『(コア)』のみ術者の魔力で作り。骨格、装甲は通常のゴーレム製造技術を流用するのか?

 これにより『ゴーレム』の【魔竜鬼】でも性能、コストや製造技術の難易度が全く違ってくる。


 そして【魔竜鬼】はキメラ、亜種モンスターにホムンクルスまで様々な種類があり。既存の技術をどのくらいの【比率】、流用するかは術者によって異なる。千差万別の表現が最も適切なのか、ぬるいのかもわかっていない。

 何故ならC.V.軍属【魔竜鬼】の場合、規格を統一して個性を廃したタイプも存在するのだから。




 「まあ、私たちシャドウには関係ないお話ですわ。幹部の方たちが【魔竜鬼】を使役しないなら、肩を並べることもございませんでしょう」


 「そうよねぇ、カヤノ。そもそも【魔竜鬼】を使役する魔力があるのなら。火力や結界術に使用すべきだし」


 「・・・・・・・・・・・そうだといいわね」


 かつて侍女シャドウが四人(・・)だったときのやり取りである。






 「残念だけど。この『変わり身』『ダミー人形』のドゥーガを認めるわけにはいかない」


 「そんなっ…」


 「獣の感覚、魔術による鑑定能力。それらを欺く『惑わし』を行なうのは極めて困難だし、コストもかかる。

  そして何より一度だけ『惑わし』を成功させても。その後、二回目以降は『惑わし』を警戒する外道たちが遺体を損壊させたり。捜索の手を緩め無い…などということになればリスクが大きすぎるよ」


 「「「・・・・・・・・・・」」」


 シャドウたちに与えられた迷宮拠点の鍛錬の間。そこには重苦しい空気が漂っていた。


 理由は侍女シャドウのユリネが創造した【魔竜鬼】『水那』が聖賢の御方イリス様に認められなかったから。偉大なる主君(イリス様)の予測が水属性ドゥーガの持つデメリットを看過できなかったと言うべきか。


 「魔力糸を核として水の『人形』を作るという発想は秀逸だ。ボクはもちろん大勢のC.V.にとって盲点だった【糸】の可能性を教えてくれた功績は大きい」


 「でしたら・・・」


 「だけどそれを『変わり身』の術として使うこと。ご先祖シャドウが使っていたという『身代わりの術』復活を行なうことは認められない。

  『身代わりの術』が通用するのはせいぜい『人間の五感』しか感知能力がない世界だけだよ」


 モンスターの感覚、未知の魔術による探知には『身代わりの術』は通用しない。いくら努力の結晶でも〈それ〉に命を預けることを許可できない、と聖賢の御方様は言う。


 「わかりました。私ので『身代わりの術』を復活させることはあきらめ…」


 「ッ!?…ごめん。言葉が足りなかったね。

  ユリネちゃんだけで無く、シャドウ全体で永久的・・・に『身代わり人形』は封印してとボクは命令・・しているの」


 「なっ・・・」


 「理由をおうかがいてもよろしいでしょうか?」


 後世の礎となる努力まで否定されたユリネが絶句する。

 そんな動揺を露わにする彼女に代わってアヤメがお館様に質問した。


 「世界はシャドウのみんなが思っているより悪意に満ちているというコトだよ


 『身代わり人形』が有用な技だと邪法使いが認識した場合。奴等が水の人型ひとがたを猿マネする保証がない。

  アンデットの類を使うならまだマシ。カシコく“生きた人間”を材料に“身代わり”を作る地獄が始まるとボクは予測(確信)している」


 「「「「・・・・・」」」」


 おぞましい予測演算シミュレーションをして自己嫌悪に陥る聖賢の御方イリス様。

 そんな主君を目の当たりにして侍女シャドウたちは三人・・とも沈黙するしかない。


 しかし彼女だけは違った。


 「私の浅慮のため、ご不快な気分にさせてしまい申し訳ございません。この失態は…」


 謝罪を続けようとするユリネに対し、イリス様は片手を上げてそれを遮る。


 「仕方が無いよ。術技の使用目的から秘匿は当然だし、サプライズを狙ったのでしょう?

  (ボクの本業に役立つと思って)」


 イリス様の本音は言の葉に成ることなく、その胸中に飲み込まれる。


 「だから今回の失態は【糸】の開発によって償ってもらう。【糸】から織られた装束はきっとシャドウ(みんな)の能力を飛躍的に向上させるだろうし。ボクの鎧を強化するのにも期待できる。


 それと現状シャドウ(みんな)の魔力量では【魔竜鬼】を使役するのは困難だろうけど。次の世代で魔力が増せば、ドゥーガを操る者がさらに現れるわけで。そのための備えは必要だよ」


 「聖賢様の仰るとおりですわ」

 「御心のままに」

 「侍女として協力は惜しみません」


 アヤメたち侍女シャドウ三人がイリス様に追従を述べる。

 こうして【魔竜鬼】人形による『身代わりの術』お披露目は終了した。










 ただしそれでユリネの野望が止まることは無かった。


 「負けない。これであきらめるわけにはいかない!」


 糸に魔力を込め、術式を編み、繊維を作り上げるたびに。ユリネの心には【糸】の嘆きが聞こえてきた。奇術師に使われる糸はともかく。

 脳筋どもが着衣を破り捨て、自らの筋肉を誇示するのですら我慢ならないのに。暴行魔が獣欲を満たす前座に衣服を破り捨てるたびに、衣服の尊厳は汚泥にまみれてきた。


 そんな【糸】を愚弄する“風潮”に対し、ユリネは憎悪を抱いている。愚弄には愚弄をもって応え、【糸】を侮る世間を見返す。


 「身代わり人形の【魔竜鬼】は認められなかった。だけどシャドウ装束の開発は許可されている」


 まずはそれを成功させる。そのために埋もれている『宝の糸』に脚光をあてて装束を織り染める(・・・)のだ。


 そもそも〈幻想世界〉において【衣】は発展どころか“退化”しているとユリネは考えている。[ドラゴンリドル2]において[アクアの羽根衣]が織られてから幾星霜を経て。


 ミスリル他の魔法金属が見出され、鍛冶師が復権を果たしたのに比べると。魔術の糸、織物職人は低迷を続けている。

 虫系モンスターの『吐く糸』が出ればマシなほう。それすら魔法金属の数に比べれば微々たるものだ。[ドラゴンリドル2]にあった織機は失われて久しく。染め物職人が登場しないなど、ユリネから言わせれば“退化”でしか無い。


 「何としても【糸】を金属の領域に。装束を織り染める職人たちを、鍛冶師のくらいへと押し上げてみせる」


 そう決意したユリネの瞳には狂気のふちが見え隠れしていた。


 

 猪退治は勇士パーティーによって行なわれ、メンバーの中で最強はアタランテだったから配慮して。退治した猪が女神アルテミスの眷族なため、報復を恐れてアタランテに戦功を押しつけた。


 いくつか理由は考えられますが、私は〈カリュドーンの猪退治〉が【野外】で行なわれたからという理由を推します。

 剣術世界の場合、【迷宮】のボスモンスターはライフが減るほど凶悪になる。ラストアタックを行なう剣士が危険にさらされ、かなめであるため。お宝ボーナスを得られる戦功一番であることに、異論は無いでしょう。


 しかし〈カリュドーンの猪〉は野生を司る女神の眷族であり、戦場は【野外】です。つまり獣のように隠れ逃走する神獣を捕捉する。傷を負わせ、出血を強いて、捕捉するためのファーストアタックが最重要だった。

 とどめを刺した勇士より、初撃のアタランテが討伐の成否を左右した。ボス部屋に怪物がいる【迷宮】ではなく。【野外】で移動する神獣だったから、状況を鑑みて女狩人(アタランテ)の功績を狩猟ルールで評価した。そういう判断をしたのが〈カリュドーンの猪退治〉ではないでしょうか。

 

 それに本当に求愛の贈り物として手柄を譲ったりしたら。求婚者たちを射殺す神話を持つアタランテの気性から推測すると。求愛した勇士と“口論”にはならず、“弓で射殺した”と思うのです。

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