92.魔竜鬼の水
某スナイパーは言いました。[二度の偶然はない]…と。
R15?なギリシャ神話。その中で「これは偶然?」と首をかしげるお話を上げるとしたら何になるでしょう。
私は〈メドゥーサ〉と〈アタランテ〉の神話で共通している件をあげます。両者とも“神殿で男と交わり、女神に制裁され”ました。
普通、こんな破滅フラグは立てないでしょう。あげくそれが同じギリシャ神話で二度も起こる。そんな偶然があり得るでしょうか?
幻想世界には様々な魔法があり、法則が存在する。
カオスヴァルキリーという種族が生きる世界『ケイジアス』
この世界の法則は【魔術は絶対ではない】というものだ。
魔力を帯びたからと言って、物理法則を超越して“無敵”になどなれない。魔術で『絶対領域』を作るには相応のコストがかかる。
聖賢の御方様は『アルゴスゴールド』という魔導により、魔術の〈照準〉を操作し。
元同僚のアヤメは敵が使う身体強化に干渉し、バランスを崩す術理を会得している。
よって戦闘用の使い魔を『支配』するのに魔術を絶対視するのは愚行でしかなく。
『使い魔?』のコントロールを奪われないよう、相応の代償を払う秘術が編み出されたのは当然の流れだろう。
『魔竜鬼』それが秘術によって創られた幻魔獣の名前だ。
「来るなっ、来るなぁ!!」
「ひるむんじゃねぇ!たかがヘビのモンスター。この毒刃を突き立てれば…ギャァァ!!!」
盗賊ギルドのアジトである倉庫。そこでは『水那』の操る水蛇たちが賊の集団を挟撃していた。
粘液大蛇が天井近くまでかま首を持ち上げ、威圧を行い。床では魔力の水が流れ、そこを無数の蛇が泳いでいる。
上下から獲物をうかがう長虫の存在に、シーフ連中のメンタルが削られる音が聞こえる。
それはけっして『水那』の幻聴では無いだろう。
「どうしたのかしら?普段、大きな口をたたいてるくせにモンスターが怖いようね」
「うるせぇ、黙りやがれっ!」
「そんな腰抜けに素敵なお知らせ。この水蛇(子)たちにご自慢の毒は効かないわよ」
「「「「「・・・・・」」」」」
ウソである。人間用の毒が効かないだけで、怪物用・呪毒の類なら普通に効く。
もっとも対人戦闘のみを想定していたシーフブレイバーたちがそんなものを用意しているはずもなく。
恐ろしい暗殺者の黒塗り短剣もあつかいが面倒な危険物にすぎない。
「なめるな、喰らえっ!」
この流れはマズイと考えたのか。一人の精鋭シーフが跳躍し、蒼い大蛇の頭を狙う。滑りやすい水辺と化している床に水飛沫がとんだ。
『アクアブレス』
「うおおおぉぉぉーーーーー!!」
迎撃すべく放たれた水流を切り裂いて、魔術の刃が閃く。そうして蛇頭を大きく切り裂いた。
「やったか!?」
「・・・・・」
まともな魔獣なら大ダメージとなり得る傷が刻まれる。だが魔竜鬼の一部である大水蛇から血が流れることはなく。その不興を買っただけだった。
「なっ!」「ひっ!?」「ガァッ!!」
盗賊たちから短く悲鳴がもれる。大蛇と蛇群に意識を傾けていた、その連中に透明な水蛇が牙を突き立てたのだ。
「このっ!」「放せ、バケモノがっ!」「アアアァァァッ!?」
その蛇体がもたらす冷たさに動揺をあらわにする連中に、精鋭シーフの面影はない。蛇を恐れる人の本能をむき出しにして、水蛇を振り払うおうとする。
その素人同然の集団に大きな影が忍び寄る。
「・・・・・、…、・ ・・」
「ひぃ、ヒィィィーーー」
大水蛇の巨体になぎ払われ、生きたまま丸呑みされるモノ。その光景を目の当たりにして、腰が引けた者たちの足に複数の蛇が巻き付く。
そうしてある者は引きずり倒され。ある者は蛇を振り払おうと、短剣をふるい自らを傷つける。
そうして足が止まったシーフたちがネズミも同然に大蛇の腹におさまっていく。
その阿鼻叫喚な捕食行為を冷ややかな目で見ながら、『水那』は大げさにため息をついて見せる。
「フゥ。仮にも奪還作戦に携わる精鋭兵と聞いていたのだけれど。野外活動もろくにできない飼いイヌだったようね。」
「魔女めがっ!妖術を使うなど恥を知れっ!」
「あら、闇ギルドは弱肉強食な実力本位の世界だと聞いていたのだけれど。どうやら都合が悪くなるとルールを書き換えるき…」
“貴族”と言いかけた『水那』のセリフが途切れる。声帯部位が破壊されて泡まじりの液体が喉から吹きこぼれた。
「なっ、ばっ!?…、・・・?」
「ブタな“貴族”呼ばわりされるたくはないな。そして貴様等はシーフを舐めすぎだ」
静かに吠えるシーフブレイバーから投じられた短剣。それがいつの間にか『水那』の急所に突き立てられていた。
警戒を怠っていたつもりはない。そもそも魔力を帯びた水・怪蛇があふれるこの場で、『姿隠し』程度の隠行術は発動するのも困難だろう。
「冥土の土産に教えてやろう。昨今は騎士サマですら『不可視』の剣をふるうご時世だ。
ならば『認識阻害』のダガーをふるう盗賊がいてもいいだろう」
物体は視界に入り、五感で捕捉していようとも。思考を司る部位が知覚・『認識』していなければ、それらの情報が活かされることはない。
武術奥義の秘伝にはそれを可能とする『歩法』がある。その知識だけは『水那』もあるが。よもや盗賊ごときがその片鱗を行使するとは。想像の埒外にもほどがある。
「ゴボッ」
「今、楽にしてやる」
そんなことを考えていた彼女にいつの間にかシーフブレイバーが接近していた。そうしてダガーをえぐりひねる。その一撃は『水那』の急所をえぐり、連鎖して水蛇たちは魔力の水へと分解されていく。
そして大水蛇の崩壊とともに、呑み込まれた連中も力なく床に投げ出されていった。
かろうじて『水那』と名乗るシャドウ?を討ち取ったシーフブレイバーたち。だがそこに勝利の喜びはなく。アジトは悲惨な野戦病院と化していた。
「おいっ、しっかりしろ!」
「ウッ、グッ…ウェ~~~」
「くっ…まずは回復だ。この・・・・・??」
傷を治す薬とスタミナを回復させる薬のどちらを飲ませればよいのだろう。あるいは解毒薬を先に飲ませるのが正解なのか。
大水蛇に呑み込まれ、その崩壊とともに解放されたギルドメンバー。彼らは命を拾ったものの、衰弱しきっており。加えてどうすれば回復させられるのかも不明だった。
一応、体表面が溶かされていることはないものの。肌は氷のように冷たく、瞳は何も映していない。そして水蛇に群れで襲われた者も疲労が激しく、動きは鈍かった。
死屍累々に等しい状態であり。次の作戦行動をとる以前に、応急手当もおぼつかない。そんな惨憺たる有様だった。
「くそっ。これでは作戦を実行できんぞ」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
『水那』との戦闘で何もしなかった、無傷のシーフロードが戯れ言をほざいている。
こんな状態で戦えると思っているのだろうか。
そもそもC.V.勢力の戦闘力は闇ギルドよりはるかに上なことはわかりきっている。ならば情報収集を徹底的に行い、弱点を突くのがシーフの戦いかただろう。
それなのに安易に物量を頼みとし。不良品の魔術薬を持ち込んで、ソレが使い物にならず右往左往している。
「こんな状態で戦えるわけがないだろう。撤退するぞ」
「なっ!?バカを言うな。手柄も立てずに帰還できるか!」
精鋭シーフなどと言っても組織全体では捨て駒に過ぎない。それを承知していても、限度というものがある。せめて刺し違えることができる戦場で死にたい。
だからなれない“交渉”を行う。
「手柄ならあるだろう。蛇使いの女シャドウを討ち取り、その死体がある。これを持ち帰って“情報を集めれば”功績になるはずだ」
「・・・・・ふむ。それで我慢するしかないか」
仮にも戦士としてはおぞましい“情報集め”の手段だ。
だがこのアジトが襲撃されている時点で、作戦続行など既に不可能だろう。『認識阻害』のダガーが使える回数も限られており、これで逆転は不可能だ。
ならば撤退して次の戦いに・・・
「無い!ない、無イ、ナイぞ!!」
「ッ!?」
叫びの主に問い掛ける前にシーフブレイバーたちは身構える。そして〈新手〉に備えて索敵を行った。
『不様なものね。賊ごときにやられるなんて。ウァーテル襲撃以降、貴女が初めてよ』
「うるさい!『認識阻害』のマジックダガーなんて初見で対抗できるはずないでしょうに」
『ハイハイ、仕方ない。シカタナイ』
「このアマ…」
『まあ戯れはこのくらいにして。水那、まだ戦える?』
「当然でしょう。『ヒュドラ』に成って狩るわ」
水びたしになったアジトに、そんなやり取りが響く。その発生源は『水那』の亡きがらがあったはずの床からで。そこでは水の塊と女シャドウの【着衣】が蠢いていた。
「まずい…総員、退避だ!!」
「『水蛇蒼泉』」
そして地獄が幕を開けた。
なお〈メドゥーサ〉のお相手は海神ポセイドンです。普通、自らの神殿で婚姻するはず。それなのに何故アテナ神殿で“行為”に及んだのでしょう。海王神は嫌がらなかったのでしょうか?
アタランテのほうは『キュベレー』の神域で“行為に及んだ”とか。私が初めて読んだのは[アルテミスの神殿で行い、抹殺される]ver.でした。アタランテに子供がいるなら矛盾するエピソードです。
とはいえ「『キュベレー』はギリシャ神話に関わるの?」と新しいver.にも首をかしげています。
〈メドゥーサ〉と〈アタランテ〉。どちらも腑に落ちない点がありますが。個人的には[結婚外交を行おうとして妨害された。貶められた]ような感じがします。
あくまで“私見”であり根拠など有りませんが。




