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91.蛇の水

 ギリシャ神話の女王神ヘラ。大神ゼウスが浮気するたびに嫉妬の炎を燃え上がらせ。その権力・神力を駆使して母子に制裁を加えるため、狭量な女神として扱われる。普段なら「浮気はダメ絶対」とか言う人まで“女神ヘラは嫉妬深い”と眉をひそめます。


 ではそんな女王神ヘラが大神の火遊びを認め、庶子を我が子のようにあつかう。そこまでいかなくとも不干渉でいたらどうなるでしょうか?

混成都市ウァーテル。その闇夜の中でシャドウによる闇ギルドメンバーの殲滅が行われていた。


 薄い空気の結界(高地トレーニング)で呼吸法・回復力の基礎を作り。機動力に優れた『旋風閃』

空に向けて放たれ、山なりに建物を飛び越えて降ってくる矢。その矢を風の魔術で標的に誘導し射抜く『旋矢』

 そして感知、かく乱などの様々なサポートを行う術者タイプのシャドウ。


 その三人隊(スリーマンセル)によって闇ギルドの兵隊たちは次々と討ち取られていく。あの悪夢な“たった一日で陥落した悪徳都市”の汚名をすすぐべく、裏組織の連合は戦力を整えたのに。

 結局、戦果は“敗者”の烙印のみ。備えたつもり(・・・)になって敵の手の平で踊らされていたに過ぎない。みじめで愚かな“敗者”として破滅の未来が待ち受けていた。


 「そんなことは認められん。許されるはずがない…」


 「しかしどうする?切り札の霊薬は何故か効力を表さず。もう打つ手はないぞ」


 今夜の作戦のため倉庫に急造したアジト。そこでシーフロード二人が劣勢の戦況に頭をかかえていた。


 「打つ手ならまだあるだろうがっ!」


 「おいおい、正気か?それはクスリで異形に変じた時のドサクサにやる手はずだったろう。霊薬に何らかの細工をされて封じられている。この惨敗している状況でやっても住民の反発を招くだけだ」


 最終手段である策。それは霊薬による魔性の力が通じなかった時に、都市ウァーテルに火を放つという計画だ。そうして放火の罪をC.V.勢力になすりつけその名声を貶める。

 いくら奴等とその配下が理不尽に強くても。常勝をほしいままににする“戦闘(・・)種族”だとしても。


 「問題ない。実行犯の我々が逃走・自害するなりして消えれば。奴等だけが生き残り、圧倒的な力で勝利すればするほど。都市の住民たちは憤りをC.V.とその犬たちにぶつけるしかない。

  そして異能の戦力を恐れる周辺諸国の権力者(ブタ共)は理由をこじつけて我々に協力する」


 C.V.と言っても千差万別だ。その中でも“どぶ川のお掃除”まで率先して行うこいつらは底抜けの甘ちゃんだろう。

 そんな奴らの隙をつく。名声、悪名の両方を有効活用できる闇ギルドの悪意に敵うはずもない。


 「やむを得んな。即日陥落に続く二度の敗北は許されない。だったら破壊工作も仕方な…」



 『水蛇蒼泉(黙りなさい)


 そこに死神が這い寄ってきた。






 都市ウァーテル。交通の要衝であり、然るべき運営を行えば巨万の富を産み出せる都。


 しかし即日、占領した聖賢の御方(イリス)様がすぐにその財を得られるわけではない。周囲は敵勢力に包囲されている状態であり。綺麗事では済まない暗闘が永久的に続くだろう。


 その中でも特に迅速な対応が必要なこと。いくつかあるが『水那』が担当したのは【流通】に関連することだった。

 食糧など生活の糧を速やかに滞ることなく、流通するよう。正規の門ではチェックを緩くし。逆に裏道・隠し通路の闇取引は手段を選ばず、残虐な異能を使って取り締まった。

 優秀な者がいたのだろう。ウァーテル陥落に対応して迅速に流通路を変えたようだが。それがかえって『水那』の異能による〈狩り〉を容易にしてしまう。要は相性の問題だ。


 加えて“薬物”など盗賊ギルドの資金源を徹底的に絶つ。彼女にはそれを可能とする能力があり。

 扇奈様の側仕えを辞してまで、連中の“クスリ”に『毒』を注ぎ続け。


 その毒が今夜、闇ギルドにかま首をもたげている。



 『水蛇蒼泉(黙りなさい)


 呪力をこめた叫びによって、魔力を帯びた水がわき出る。

 その水は渦を巻いてスライム状になり、さらなる魔力を注がれはじけ飛んだ。


 「ひっ!!」「なっ!?」


 そして人間が本能的に嫌悪する長虫へと変じる。

 同僚の陸戦師団たちからは〈スライムサーペント〉と呼ばれ、忌み嫌われるモノ。その怪物がかま首を持ち上げて盗賊たちを睥睨へいげいした。


 「何だコレはっ!何なんだコイツは!!」

 「落ち着けっ、動揺をあらわにするなっ!!」


 「二人と(アナタ)もね。大蛇のモンスターぐらい珍しくもないでしょうに。もう少し声量を低くしないと部下にまで動揺が丸わかりよ」


 そんな『水那』の忠告に対し、盗賊リーダーどもは彼女にまでバケモノを見るのと同じ怯えの交じった視線を向けてきた。

 その瞳は恐怖一色で染め上げられ。小細工の一つも見破られそうにない。


 「何をしている、貴様ら!とっととこのアマを始末せんか!!」

 「ッ・・・・・」


 その怒声でアジトの警備をしていたシーフブレイバー共が倉庫に突入してくる。ロクでもない話をするため、人払いをしていたのだろう。だが奴等が来る間に何回、幹部シーフを始末できたかわかっているのだろうか。


 『水蛇蒼泉』


 理解できていないから、“戦闘が成立する”などと思えるのだろう。そんな愚か者たちを襲うように『水那』は命じる。


 「死ねぇっ!?」「ッ!?」「…!!」


 連中を睥睨する水の大蛇・注意を引きつけている(ディレクション)サーペントにでは無い。

 弾けた水飛沫から産まれた、透明な毒水蛇の群れ。


 

 不死身殺しの蛇(ヒュドラ)に連なる【魔竜鬼】に殺戮を命じたのだ。

 

 私はヘラクレスのような(・・・)英雄が大勢、闊歩する。夜空には“天の川”がたくさん流れ、ヘラクレスがやらかした誤射・殲滅が世界中に広がると考えます。

 呪いで狂わせられたヘラクレスは最悪の凶行を行ってしまいますが。その後の戦いでケイロンを誤射したり、川の流れを変えて水害を誘発する。複数の国や軍団を滅ぼしたのはヘラクレスの選択でしょう。全ての破壊行為を神の呪い、運命のせいにするのはどうかと思います。


 そして女王神ヘラほどの神格なら予見の力は標準装備。ならば好色大神(ゼウス)の好きにさせていたら、どういう惨状になるか予測するのは難しくありません。

 オリュンポスの神々が少なかった、クロノス打倒(下剋上)を成したばかりの創世記ならまだしも。平和な世界を維持するために、女神ヘラの制裁は必要悪だったと考えます。 

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