9.異能の情報
戦いにおいて情報は重要です。不敗、無敵の英雄も武勲をあげて能力が知れ渡ると、弱点をつかれて敗北することは珍しくありません。かと言って隠れ続けていれば、まっとうな英雄どころか兵士にすらなれないでしょう。
そう考えるとギリシャ神話のペルセウスは優れた英雄だと思います。2件の怪物退治で英雄になり、戦闘後は飛翔の力で即離脱する。さらに迅速に引退の決断をしたのは賢い選択だと思います。成功したいと願うなら見習うべき英雄の一人でしょう。
ウァーテルの町。その空を飛翔する影が一つあった。
「クソッ、クソが。畜生がぁ!!」
その影の名はフランシス。先ほどまで正門の前で戦っていた槍使いにしてマジックユーザーである。彼はその武力と情報収集能力によって無敗を誇っていた。
格下の者には容赦せず。格上のものとは、勝てる状況を作るまで戦闘を避け。真の実力者に対しては、服従するか視界に入らないようにしてきた。
そのかいあって悪徳都市の中で評価を得て、それなりの地位を得ていた。奴隷狩りでは先頭をきって戦い、厄介だが高く売れるモノを捕獲してきた。
「何なんだ、何なんだあの女どもはっ!!」
そんな自分がなりふりかまわず逃走している。これ以上ない屈辱であり、大きな損失であった。
肉壁の部下はともかく、魔術師をそろえるのは一苦労である。まして敗北の責任をあげつらう強欲どもは、ここぞとばかりに足をひっぱってくるだろう。失点を挽回するだけでも容易ではない。
そんな苛立ちを飲み込んでフランシスはウァーテルの闇を取り仕切る顔役の屋敷へと到着する。そうして平静を装って門をたたいた。
「俺だっ。フランシスだ。ボスに至急会わせてくれ」
「・・・・・しばらくお待ちください」
敵の多い暗黒街の頂点。その安全を確保する儀式を最低限すませてフランシスはウァーテルの実質的な王に謁見した。
「どうしたフランシス。血相を変えて」
「一大事だボス。ヴァルキリーの魔女どもが宣戦布告してきやがった」
ウァーテルを実質的に支配する闇組織の頂点。盗賊ギルドのボスにフランシスは現在の状況を報告する。ヴァルキリーの軍団が迫っていること。そしてはねっかえりなC.V.が特攻を仕掛けてくる現状を、大仰な身振り手振りで訴えた。
それに対しボスは一言。
「で、それを伝えることを理由に、一人だけ逃げ帰ってきたと」
口にした言葉は事実上の処刑宣告だった。盗賊ギルドの性格上、逃亡はある程度認められている。騎士ではあるまいし、敵わぬ相手と最後まで戦うなどバカのすることだ。
それなのに退却したことを責められる。それは闇組織にとって『逃亡』が不利益をもたらすと、ボスが判断した場合だ。
ここで下手な言い訳をするのは処刑に同意するに等しい。
「待ってくれボス!オレはC.V.の能力に関する情報を持っている。それを伝えさせてくれ」
「ほう。言っておくが正門での醜態に関することなら言う必要はないぞ」
「・・・わかっている。だが説明するにはそのことも触れなければならない。まずは聞いてくれ」
その言葉にボスは無言で先を促してくる。まずは第一関門を突破。胸の内でそうささやきつつフランシスは必死に頭を回転させた。
「C.V.の名はイリスと扇奈。このうちイリスのほうは魔法剣士タイプだ。短剣で長柄武器をさばき、攻撃魔術の狙いに干渉してくる」
それに対し自分はいかに勇敢に戦ったか告げようとしてそのセリフをフランシスは飲み込む。時間は有限であり、それ以上にボスの許容する時間は短い。
「その異能はアルゴス・ゴールドという。百目巨人のように敵の視線を読み取りそれに干渉する専用呪文だとあのアマは言っていた」
ここまではイリスがお気楽に垂れ流していた情報だ。早耳のボスなら既に知っているはずのネタでしかない。
「だがアルゴス・ゴールドの正体はそれだけではない。『それだけでは権力の女神に仕える巨人にはなれない』」
「ほう」
ボスが興味をもってくれる。これで第二関門を突破だ。
「『アルゴス・ゴールド。それは魔眼に対抗する力。かつての神々が標準的に持っていた魔性の視線を暴きいなし、時には殺した禁断の力。その力によって女神ヘラは夫に近づく女神たちをヒトの姫に貶め呪いをかけていった』」
言の葉が胸中から湧き出てくる。小娘が得意げに能力を使う時に、魔術文字が空中に投影されていた。それは常人や脳筋バカどもには見えなかっただろうが、フランシスの瞳にははっきりと写っていた。闇の属性であるフランシスこそが、光属性を見透かす天敵である。
「魔眼の持ち主などそうはいない。だが視覚に頼っているうやつらは全て魔眼の下位互換というくくりなのだろう。ヤツは自分の光線術式を相手の目に送って解析、干渉を行っているに違いありません」
「ふむ。その言葉『キサマの最も大切なものにかけて真実と言えるか』」
ボスの問いかけは呪言となってフランシスの心に侵入してくる。これこそボスをウァーテルの頂点に立たせる力だ。虚言を弄する者にに恐怖を与え、裏切者を制裁する。とはいえフランシスはウソをついてない以上、恐れる必要のない魔術だ。
「本当のことだ、ボス。だいいち奴らについたらオレの楽しみがなくなってしまう」
「いいだろう。オマエの情報を利用してやる。手練れを用意するまで待機していろ」
その言葉にフランシスは自分の首がつながったと安堵した。
とはいえ能力が知られるイコール破滅というのも不条理です。そこでこんな異能力を考えてみました。