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88.旋天の鳴動

 「魔術にもはやり廃りがある」ある吸血鬼大王が言っていましたが、それを聞いてなるほどと思いました。

 昔、魔物退治をメインに行っていた術者は風属性が最強という感じでした。

 魔物を捕捉するための感知能力に秀で。魔物のサイズが大きくても小さくても対応できる万能に近い属性です。他にも火竜星の片翼を切り裂いた場面は忘れられません。


 それが現在は攻撃力不足により、鋼線を風の刃に紛れ込ませて投じているというありさま。ここまで廃れるとは、あのころは想像もできませんでした。

 混成都市ウァーテル。シャドウを束ねる姫長の扇奈はその闇夜を一人疾走していた。


 右肩にアヤメをかつぎ、左脇にはカヤノを抱え込む。まるで人攫いのような有様である。

 だが人間二人を抱えて、下級シャドウよりはるかに速い疾走・跳躍を繰り返す。それでいてアヤメたちに負担をかける震動を与えない。


 そうして移動する扇奈にナニかが話しかけてきた。


 『扇奈様、ご報告があります』


 「水那ミズナか。それは私が拠点に戻る間を惜しんで聞くべきことかしら」


 追っ手はもちろん、監視の目を避けてこの移動をするのは扇奈とてそれなりに神経を使う。

 不機嫌を隠さず問いかける姫長に対し、並走して飛ぶ『蒼い水蛇』がうなづきを返してきた。


 「・・・言ってみなさい」


 『現在、ウァーテルに侵入している賊たちに奇異な点がいくつか見られます


  一つ未熟者にもかかわらず高価な薬物、変身薬を所持していること。


  一つワタシが急ぎの尋問(・・・・・)を行ったところ、恍惚の表情を浮かべました』


 水属性シャドウによる急ぎの尋問(・・・・・)。それは本来なら癒しの力である水術式を悪用した外法の類だ。

 とても意思の力だけで耐えられるようなモノではなく。痛みを快楽に転化しての〈退避〉も許さない悪意ごうもんの技だ。


 そして何より評判・外聞に神経を使うこの時期に限らず、許可無く使用していいものではない。

 処罰を覚悟して水那が“ソレ”を使った理由は限られる。


 「ウァーテルを再び悪徳の都と化す企てがあると?」


 『それでしたらもう少しマシな人材が送られてくるかと。連中は何らかの術で思考をいじられた“急造”シーフロードだと推測しました。

 そんな捨て駒に高価な薬物を与えたのは占領ではなく、破壊が目的だと考えます』


 「討たれた奴等の亡骸を利用する。もしくは“高価な薬物”を秘密裏にばらまいて都市ウァーテルを破壊する計画が進行している。その前提で動けということね」


 『・・・・・』


 水那が邪法を勝手に使った理由。それはシャドウ一族の存亡に関わる危機を感じたからだろう。


 そして亡骸か薬物どちらを利用するにしても、闇ギルドがシャドウ一族だけを狙う可能性は低い。主君であるイリス様か、ウァーテル全体を巻き込んでの陰謀と考えるべきだ。


 何故ならC.V.であるマスターはイセリナ殿(いもうと)を含めたC.V.の援軍を呼べる。

 シャドウ一族に打撃を与えても、マスターが健在ならその支配が揺るぐことは無い。


 ならば敵が狙うのは聖賢イリス様(マスター)のお命。もしくはウァーテルを破壊して“都市を治める力が無い”とマスターを中傷しつつ、貶められた闇ギルドの面子を取り戻す。

 敵勢力の規模を考えれば、その両方を同時に行うことも可能と考えるべきだ。 


 「まあ、私たちにそれを卑怯、非道だと言う資格はないけど」


 ウァーテル陥落の際。闇ギルド及びそれに属する連合組織のプライドは地に堕ちた。一日で都市を落とされたのに加え。チンピラにとって最重要能力である敵戦力の査定。それを見誤るという醜態を衆目にさらしてしまい。

 そのプライドを取り戻すためなら手段は選ばないということだろう。


 『いかがなさいますか。扇奈様』


 「決まっている。連中には再び恥をさらし、地獄に落ちてもらう。


  アヤメ、カヤノ!地穿孔ちせんこうを発動するから起きて私の護衛をしなさい」


 「「かしこまりました、扇奈様!!」」


 術の反動によって疲労し扇奈に運ばれていた者とは思えない。活力に満ちた声が応じ、侍女の役目を為すべく機敏に立ち上がる。

 高地トレーニングを風の結界(薄い空気)で擬似的に行い、鍛えたシャドウたちの『旋風閃』。

 その加速は機動力だけでは無く、呼吸法による回復も高速化するのだ。


 『・・・よろしいのですか?扇奈様、御下命くだされば私が護衛役に戻りますが』


 「貴女には、貴女のお役目があって侍女役から降りたのでしょう」


 「そうですわ。囮役も飽きましたし、護衛は私たちに任せてくださいませ」


 元同僚たちを案じる『蒼い水蛇』のミズナの提案をアヤメたちは断る。

 だがセリフとは裏腹に彼女たちの視線にけわしい色はない。


 『・・・わかったわ。それでは扇奈様。報告は終わりましたので、私は継続任務に戻らせていただきます』


 「御苦労。それとマスターと妹君(イセリナ殿)にもこの懸念(破壊工作)を伝達しなさい」


 『よろしいのですか?』


 主君イリス様ならともかく、政敵になり得るイセリナ様と情報を共有する必要があるのか?

 そう問いかける水那に対し、扇奈は鷹揚おうように頷く。


 「ええ。今夜の戦いは既に詰んでいる。今さら情報を伝えても手柄に割り込むことはできない」


 そもそも手柄の横取りなどしなくても、イセリナ殿は充分に功績をあげている。彼女は間違いなくマスターの妹であり、扇奈に比肩する家臣なのだから。


 『かしこまりました扇奈様』


 そうして『蒼い水蛇』は闇夜に溶け消え。

 扇奈は再びシーフ連中を破滅させるべく。魔力を練り上げ仕掛けを発動させる準備に入った。

 昨今は開拓、野外活動のため風の刃を放つ〈主人公〉は散見しますが。それでも往時の勢いにはほど遠いと考えます。

 その理由として『ダンジョン』という狭い場所では竜巻どころか、風の刃が使えるとイメージできない。『神秘の迷宮』内部で感知ができない。

 モンスターから素材を取る場合、たくさんの風の刃で仕留めては台無しになってしまう。地水火の属性に比べ〈製造、加工業〉に関与し難い。


 現在、風属性がふるわない理由としてはこんな感じでしょうか。あるいはスティ○マによる衝撃が強烈だったからかもしれませんが。

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