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87.旋風閃歩

 政商、御用商人。権力者と結びついた大商会はファンタジーの世界ではどんな存在でしょう?

 主人公を支援してくれるパトロン。あるいは大口の依頼を出してくれる冒険者ギルドのお得意様。


 あるいは新しい商売を邪魔する経済ギャング。陰謀を企む死の商人を連想する人もいるでしょう。

 割と平和な世界なら経済のアドバイザー。あるいは国の経済維持を命じられ、物価・相場を安定させるため東奔西走している者もいるかもしれません。

 混成都市ウァーテル。聖賢の御方様が支配する領域では様々なことが行われた。


 その中の一つは【どぶ川のお掃除】だろう。


 聖賢の御方様が自ら汚泥の清掃を行い、『ライト』の魔術によって浄化まで為された。

 浮遊する『燐光』術式によって汚れを水面に浮き上がらせ。『鎧光アーマーライト』の劣化術式によって水の濁りをきっちり水底に沈める。


 それらを人海戦術によって取り除くことで、ウァーテル全体を清掃する。まさに偉業だが、善意だけで行ったわけではない。


 カオスヴァルキリーとしては穢れを取り除き、地表ばかりか地下水路にまで支配の結界を張るため。

 シャドウとしては感知を阻害する悪臭を除去し。陸戦師団は“お掃除に必要”という建前で敵アジトを破壊して回った。聖賢の御方様を始めとする上の方々に陰口をさえずっていた連中も、肝が冷えたのか口を閉ざす。


 他にも雇用ドブさらい、衛生や区画整理など色々な影響があったらしい。ともかく下級シャドウのイスケとしては一石何鳥にもなる痛快な出来事だった。




 〔後退を援護せよ〕


 しかしこの符丁によって闇ギルドの不穏分子を殲滅すればその戦果に影を落とす。ここは地獄の戦場、怪物の巣ではないのだ。

 せっかく汚れを取り除いた用水、排水路を賊の血で赤く染めれば。上は聖賢の御方様から下はスラムの臨時雇いに至るまで意気消沈するだろう。

 

 何よりまともな水を使えると喜んでいた者が汚らわしい賊の体液をすする。“策士”とやらが戦闘のどさくさに水源に毒を投じる可能性は徹底的に潰さなければならない。



 「けっしてアヤメ師範の仇討ちで動いているわけではない。これはあくまで任務だ」


 そうつぶやいてイスケは屋根上を疾走する。そうして『信号術式フォトンワード』によって指示された標的集団へと襲いかかった。


 「突風は『腕』に、オレの四肢は『指』と化し、嵐の『拳』を振るえ!『旋砲せんほう』」


 横殴りの突風を背負い、イスケは全身を丸めて歪な拳を型作り、巨人の隻腕らしきモノと成る。

 速さ×握力×体重=拳の威力という法則。それを術式と自爆覚悟の体当たりによって大きくしたモノが、シーフ集団に突撃した。


 「「「「「・・・・・ッ」」」」」  「「「ッ!?」」」


 悲鳴をあげることなく数名が吹き飛び。三人が驚愕の表情をひしゃげさせて沈黙する。

 戦果としてはまあまあと言ったところだろう。


 「なっ・・・こ、この野郎がっ!!」


 だが戦術、技の選択では二流もいいところ。巨拳を放った隙は大きく、敵シーフの動揺は小さく。

 丸めた身体を立位にしようと、全身をきしませる。身体の硬直が解けないイスケの背後に短剣ダガーが振り下ろされた。



 『旋風閃歩』


 ダガーがイスケを貫く紙一重で、準備していた身体強化が間に合う。『旋風閃』に比べ遅い術技はイスケに歩ける体勢を瞬時にとらせ。イスケはひじ打ちによる迎撃を何とか行う。


 「ッ!?」


 片側のアバラを破壊しつくした感触が腕に伝わる。その勢いのまま体を入れ替え、イスケは大技の回転蹴りを放った。

 

 「ギッ!」


 それにより音も無く接近していた二人めシーフの脇腹に蹴り足をたたき込む。それで大技後の隙を突くのは無理だと判断したのだろう。精鋭シーフは距離を取ろうと後方に跳躍する体勢をとった。



 「『旋風閃歩』トベっ!」

 「なぁっ!?」


 その跳躍動作が始まる前。刹那の間隙に〈加速〉してイスケは体勢を整え。そうして充分に力を込めた足で死に体の賊を蹴り飛ばし、〈強制的に加速〉させた。


 「ばっ!?」 「・・・ッ!!」 「ひぃっ!」


  先ほどのイスケと同様に肉の塊が飛んでいく。それは肉体的な損傷こそ与えられなかったが、シーフ集団の戦意こそぎ取った。


 「何なんだ、何なんだ貴様はっ!あり得ん。こんなことは認められん!」


 「・・・・・・」


 シーフロード(リーダー)らしき奴の怯えを含んだ罵声を無視してイスケは呼吸を整える。そうして体力を急速に回復させてから答えてやった。


 「オレの名はイスケ。貴様等を始末するシャドウだ」


 


 『旋風閃歩』という技がある。従来の身体強化と同様に〈全身強化〉を行う。身体操作・脚の力を拳に伝導させることを目指した『旋風閃』のアレンジは、その奥義に達していない。


 ただし本家の強化よりパワー、防御力は高い。だから全身を丸め巨人のパンチを模す、などという特攻まがいの無茶もできるし。大技後の硬直を【加速動作】によって縮めることも可能だ。仮にも『旋風閃』なので疑似高地(小飛龍)の鍛錬で得た呼吸法を駆使すれば回復も早い。



 「かかれっ!どうせ俺達の脚では奴等から逃げられん。死ぬ気でかかれぇ!!」


 半狂乱で叫ぶリーダー格らしき男の命令に、盗賊連中が武器を抜いて殺到してくる。

 それに対しイスケは投げ技で対抗しよう。〈組み打ち、つかんだ相手の動作〉を加速する“残虐技”で迎え討とうとする。

 初撃で半死半生となり倒れ伏している闇ギルドメンバーは“まだ”生きているのだ。その身体を生きた盾・鈍器として利用することが『旋風閃歩』の技なら可能ではある。


 ただし周囲の建物から感じる視線はそれを許さない。【どぶ川のお掃除】までしてお館様たちが維持している評判を“残虐技”で貶めるなど論外だ。


 「・・・・・さてどうする、っと?」




 「イスケ!!お待たせっ!」


 「待たせた。無事だなっ!」


 思案するイスケに同じ班の兄妹が時間切れを告げてくる。二人とも正式な【戦闘用】の装備をまとっており。ユリネの手にはイスケ本来の武具である短棍もあった。


 「なっ、な、何・・・」


 「射抜け、『旋矢群せんやぐん』」


 援軍に動揺する盗賊集団に容赦なくタクマが魔弓を射かける。魔力を帯びた矢の雨はユリネのサポートなしで山なりに飛び交い。闇夜を舞ってから標的の急所にふりそそぎ確実に射抜いていく。


 「大丈夫なの?どこかケガしていない?」


 「ああ、平気だ。早かったな」


 「ええ。扇奈様が本気の『地穿孔』をお使いになられてね。ウァーテルに侵入する(・・)ネズミたちは今晩で殲滅することになったの。だから私たちもイスケの援護に戻れたというわけ」


 「それでオレも武装を許されたのか。正直、助かる」


 【どぶ川のお掃除】それを行うにあたって、腰に武器をぶら下げておくわけにはいかない。動きづらいし、武具が汚れる。

 そして何より【お掃除】を一緒に行うまっとうな老若男女を怯えさせないため。


 イスケたち素手でも戦える前衛シャドウは主武装を外して活動している。【屋根上巡回】や通常の警備任務。

 そして今夜のような〔オトリを放って〕ウァーテルを支配していた旧勢力をおびき寄せる。そんな作戦の際には徒手空拳に近い状態でイスケたちは行動している。


 

 「バカがっ、愚か者がっ、油断しやがったな!!」


 「・・・・・・・・・」


 「ん~、誰が油断したって言うんだ?」


 「貴様等らに決まっているだろうが!どぶ川の汚泥にまみれた偽善者ども。

ウァーテルの闇を支配する力を思い知れぇっ!!」


怒声とともにシーフロードが小ぶりのナイフの柄のような(・・・)モノを取り出す。そうして自らの首筋に突き刺した。それにならって次々と生き残りの盗賊たちが同様のことを行う。




 「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・ッ・・・!?」」」」」」」」」」」


 「・・・・・それで?」


 そして何も起こらなかった


 「なっ!?」「ば、バカな・・・これは?」「そんなはずは無い、そんなはずっ!」


 おおかた何かの強化・狂戦士化する魔術薬なのだろうが。何も変化は起こらなかった。

 その理由は定かでは無いが、はっきりしていることがいくつかある。


 『旋風閃歩』


 連中は嘲笑する価値もない愚か者であり。

 同時に危ないクスリがもたらす危機を考えれば。魔術薬の出所でどころを探りつつ、徹底的な殲滅を行う必要があるということだ。


 『旋矢群』『水蛇蒼泉せんぷうせん


 以心伝心。どうやらタクマとユリネも同意見らしい。そして三人による一斉攻撃が始まった。

 

 ファンタジー世界の御用商人。それはお財布か中間管理階級です。

 一般庶民からすれば裕福な成功者でも、権力者の無茶ぶりでいつ破滅させられるかわからない。

 ハードな中間層がファンタジーの政商ではないでしょうか?


 何故なら権力者に「魅力的な新商品がある。投資するから同じものを作れ」などと言われ。その商品が金で製造・入手できない場合。主人公が異世界から持ち込んだアイテムで、再現できない場合は詰んでしまうからです。

 「商品を入手できないのはやる気がないから」貴族にこう言われれば。裕福でも平民に過ぎない商人は金が無くなるまで商品開発をするか。ヤクザな手段をとるか。あるいは貴族に許しを請うしかありません。その許しを金の力で得られなければ破滅します。


 あるいは代替わりしたボンボンが支援者の商人を優遇したい。セイギ感により改革したい。魔王軍と戦う軍資金を得たい。娘を愛妾に出せ等々。


 御用商人が破滅する・させられるフラグはいくらでもある気がします。下手をすると逃走できる中堅商人より過酷かもしれません。

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