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86.旋矢と閃歩

 本編、再開します。


 ドラキュラのモデルになったワラキア領主、ヴラド公。敵兵を串刺しにして林立させたという記録があり、それによって帝国軍の士気をくじいたとか。

 しかし敵兵串刺しを実際にやらされた兵隊の士気は下がらなかったのでしょうか?林立するほど数があるならば、処刑人だけに人体串刺しをやらせるのは難しいと思うのですが。

 悪徳の都だったウァーテル。かつて周辺勢力からよってたかって食い物にされた。あるいは陰謀、病毒の中継地点として災厄をばらまいた悪鬼の巣窟である。


 聖賢の御方様によって解放されたとはいえ。過日の栄華を夢想して反乱を続ける組織は多く。火の四凶刃である藤次様。そのC.V.遙和様たちによって地下水路が封鎖されているのに、侵入を繰り返す。

 

 盗賊組織の根は今だ深く都市にはびこっていると認めざるをえないだろう。

 もっともその戦闘力は低く、隠行は未熟もいいところ。足音たてて歩いても一般人に擬態できる者は少なく。少し殺気をぶつければ化けの皮がはがれる。


 そして暴力にいたっては雁首そろえてもイスケたち下級シャドウにすら及ばない。



 「どうした?お仲間を助けに来ないのか?」


 「「・・・ッ」」「あ、か・・・ガハッ!」


 盗賊たちにとって“実戦の舞台”である路地裏。シーフ一人をその壁に叩きつけながらイスケは残り二人を挑発する。背中を見せて隙をさらして。

 にもかかわらず連中が誘いに乗らない理由。それは既に地面に転がっているお仲間の安否を気にしている。あるいは風属性の感知能力により、シャドウの背中に目があるも同然ということを骨身にしみているのだろうか。


 「来ないならこっちから行くぞ」


 その一言でシーフ共はあっさりと倒れた仲間を見限り。イスケの挙動に集中しつつ、挟み撃ちができる位置を取るべく移動する。

 それに対しイスケは振り向きざま数本のナイフを包囲の片割れに投擲した。


 「へっ」


 その投擲をシーフは危なげなくかわしさばく。そうして挟撃の成功を確信し笑みをうかべ。


 「ッ!?」


 笑みを顔面に貼り付けたまま、肩口から矢をはやして絶命した。

 路地裏の暗い空から降るように飛来した矢。曲射によって放たれた矢が盗賊の身体を縦に貫く。


 「な、なっ・・・」


 「ほらほら、気をつけろ。貴様の頭にも矢が降ってくるぞ」


 イスケの忠告に従い残りのシーフが頭上に注意を向ける。その瞬間にイスケは間合いを詰め、隙だらけな喉笛に小剣シャドウソードを一閃させた。


 「ぐっ!こ、この化け物がっ」


 「へえ、すごい、すごい。コレに反応するなんて、仮にも精鋭といったところか」


 「なめるなっ!!暗殺者のちかっ!?」


 闘志を奮い立たせようとした暗殺者?らしい盗賊。その頭骨にも一本の矢が真上から飛来して即死させる。


 「だから言っただろう。頭上に矢が降ってくると」


 『風の魔術』には飛び道具を防御する術が存在する。だが魔力の低い下級シャドウが命運をたくす。魔弓から放たれる矢が飛び交う戦場で、『矢避け』の魔術に頼るのは無謀と同義だろう。

 

 そこで考案されたのが、【援護射撃】の増強だ。後衛が放つ矢【限定】で防ぐ風の護りを前衛シャドウがまとい。遠距離弓矢と近接戦の同時攻撃を行う。

 高レベルの弓術を会得していても、前衛の背中を誤射してしまいかねない。本来ならリスクの高い援護弓射を【味方の飛び道具だけをそらす】風の結界によって誤射する危険を激減させたのだ。


 

 「“言っただろう”じゃないわ。鍔ぜり合いの接近した状態で『旋矢せんや』の術式を使わせるなんて危険すぎる。誤射が怖くないの?」


 ただしあくまでリスク〈低下〉であり〈無くした〉わけではない。ユリネたち班の仲間からすれば誤射のリスクは無視できないだろう。


 「そうか?イスケの腕ならどうということはないと思うが」


 「タクマ兄さんっ!それでこのバカが調子に乗ったらどうする気?」


 「わかっている。ちょっと近接戦闘の間隙に矢が当たるか試してみたかっただけだ。もうしない」


 ウソである。全滅するくらいなら、前衛一人の犠牲で済ませるべきであり。部隊を壊滅させるような脅威を仕留めるためなら。イスケはもちろんタクマも覚悟を決めている。


 このチームで一番替えが効かないのは気流の術式を担当するユリネなのだ。

 前衛のイスケ、射手のタクマ。そして術式を担当するユリネの三人で連携しないとこの弓術は成立しない。とはいえユリネさえ無事ならすぐにチームは再建できる。


 タクマが闇夜に射かけて放物線を描き、地面に降ってくる矢。命中率が皆無のそれを『旋矢』の風術でまとに誘導しているのはユリネだからだ。

 イスケからユリネへと戦場の情報を伝達すれば、暗中の狙撃もできる。曲射で建物・障害物を飛び越えて、あり得ない角度・射角から標的を射抜くことも可能だ。


 「だけど実戦では緊急回避をしたり、重心をずらされることなど珍しくもない。

  この感じだと『旋矢』と前衛の同時攻撃は格下チンピラにしか通用しそうもないな」


 「だから『旋風閃』を使っての高速戦闘力を伸ばしたほうがいいと?」


 「ああ」


 「・・・そうかしら?対人戦闘だけならともかく。

  返り血が毒になっている怪樹、自爆する妖蟲モンスターを相手にする場合。矢を射かけて探りをいれるのは必要なことよ」


 「それはそうだがな」


 付け加えるなら対人戦闘でも仕掛け鎧、自爆兵の類は存在する。だがそれらを恐れて器用貧乏になっては任務を果たせない。


 「まあ、ここでオレたちが話を続けても仕方ないだろう。考察は報告書に記入して。


  ここからは効率重視で標的を襲撃するぞ」


 タクマの言葉にイスケたちはうなづき。次の標的を求めてこの場を後にした。






 闇組織の連合が支配していた都市ウァーテル。そこには無数の抜け道が存在しており。

 正規の門で検問を厳しく行い、地下水路を禍々しい結界で封鎖しても。奴等が諦める事は無く、侵入が絶えることはない。


 「グッ!」「ガハッ!?」


 とはいえ安全に忍び込めるルートは限定されつつあり。聖賢の御方様が支配する領域で勝手が許されることもありえない。


 「どうした!お前らお得意の投げナイフだ。かわし、さばき、反撃してみろ!!」


 イスケの挑発にシーフ連中が歯ぎしりする。だがようやく合流したばかりの集団はろくな連携もとれず。屋根上を【馬】のように駆けつつ跳躍し、ナイフの雨を降らせる児戯に対応できずにいた。


 「落ち着け、頭さえかばえっ!?」「ガッ!」「弓兵だっ、狙撃されデェ!!」


 何故ならナイフの投擲に重複して『旋矢』が盗賊集団の要を狙撃するから。

 種がわかればどうということもない、術式補助が必須で三人連携により放たれるとはいえ。山なりに飛来する『旋矢』の狙撃などゴロツキ連中にとって想像の埒外なのだろう。


 『次っ、どいつを狙う?』


 『いくら何でも、そろそろ反撃があるはず。気を抜かないで』


 『了解だ・・・来るぞっ!』


 〈最〉下級シャドウと同じくらいの身体能力はあるらしい。霊糸による魔術で会話するイスケたちに応じるように、連中が屋根上に跳躍してくる。

 それを迎え討とうとイスケは小剣シャドウソードを構え。


 「なっ!?」


 信じられないものを目の当たりにして凍り付いた。

 師匠であり、命の恩人でもある。美しく憧れの存在であるアヤメ様。

 そのお方が姫長の扇奈様に抱きかかえられて後退しているのだ。


 「ちょ!イスケっ!?」「おい、戦闘中に余計なことを考えるなっ!!」


 仲間たちの声が真っ白になった頭に響く。そんな茫然自失のイスケに隙があると考えたのだろう。   

 精鋭シーフたちが殺到してきた。


 「ったぞ!!」


 イスケの眼前で刃が閃く。それは喉を狙って突き出され。


 「・・・・・」

 「・・・!?」


 かろうじて殺気に反応したイスケの足が持ち主ごと蹴り飛ばす。【馬】のような脚力の蹴りは大の男を吹き飛ばし。続けて追い討ちをかけるべく足場の屋根にそえられる。


 だが追撃の跳躍が行われることはなかった。


 『姫長、扇奈・セティエールの名においてシャドウに告げる』


 イスケたちにとっての大将が魔力を帯びた響く声で話し始めたから。訓練された兵士シャドウとしてそれを無視することはできない。


 『アヤメ、カヤノの両名が見事、任務を成し遂げた。これより後退して休養をとる。

  よって今夜、活動しているシャドウは作戦行動を停止。私達の〔後退を援護せよ〕!!』


 姫長様のお言葉によってウァーテルの夜にざわめきが走る。おそらく秘匿の甘い“響く声”は賊どもの耳にも入ったのだろう。きっと攻勢のチャンスとでも考えているに違いない。


 『『旋風閃』』


 実際、タクマとユリネの気配が急速に遠ざかっていく。二人は姫長様たちに合流するのだ。

 それを察し、闇ギルド連中の表情が喜色に歪んだ。彼らは一人残されたイスケを仕留めようと殺到するのだろう。その後はお楽しみの追撃が始まる。


 『旋風閃歩』


 ただしそれはイスケを難なく“仕留められれば”の話だ。


 「遅いぞっ!」      「邪まっ!?」            「・・ッ」

         「どけっ!!」             「え?」


 動作の〈起こり〉を最小限にして身体強化・加速を開始する。

 蹴り飛ばされた衝撃で動けない奴を小剣で切り裂き、流れるように突きを放って二人目を屠る。

 それらの身体がくずれ落ちる前にナイフをかまえ、連中を遮蔽物にして投擲を行う。

 ナイフが狙った賊どもの足に刺さったのか、確認することなく跳躍し。

 ユリネが残していった『旋矢』の気流操作を利用して空中で加速する。


 「・・・・・」


 「「・・・ッ!」」


 空中で加速した勢いを下方へと向けて降下する。そうしてイスケは賊二人を巻き込み、屋根ごとその身体を砕き壊した。猛禽と比べるのもおこがましい強襲は、下手くそな釘打ちのようである。


 「・・・・・・?・・・っ!?」


 「反撃はまだか?」


 イスケの問い掛けに対し、生き残ったシーフブレイバーから反応・反撃はない。

 仕方なくイスケは準備していたカウンターを止め。間合いを詰めてから右手一本で賊の喉笛をつかみ持ち上げた。


 「ば・・・・・そっ!?」


 「あいにく貴様の質問に答える気はない。そしてオレから(・・・・)尋問することもないんでな」 


 そう告げてイスケは容赦なく腕の力を強める。喉笛をつかんだ時点で手指は急所を圧迫しており。

 血流、気道の機能を停止させてから、首の骨を強化した握力で握り潰す。そうして屋根上から路地の地面へと死体を投げ落とす。


 「・・・しまった。さすがにやり過ぎた(オーバーキル)か」


 身体強化『旋風閃歩』の影響で凶暴性が増しているのかもしれない。

 否、能力のせいにするのはやめよう。単にイスケの獣性が現れただけだ。



 そう考えつつもイスケが闇ギルドの連中に慈悲を掛けることは一切ない。

 脳裏に尊敬してやまないアヤメ様の姿がよぎる。


 そしてシャドウの狂戦士は闇夜へと跳んだ。





 ネタバレ*『旋風閃歩』の説明です。




 高速戦闘に特化した身体強化『旋風閃』の派生術式。従来の身体強化の魔術と同様に〔全身強化〕を行う。そのため下級シャドウの中ではかなりの怪力を行使することが可能だ。

 自他ともにバーサーカーと認識されている。


 しかし〈急所を突く〉技量を身体強化とともに併せ持つ。本来バーサーカーでは無いし、【師範アヤメ】は“狂戦士”にする気も、育てる予定も無い。


 『旋風閃歩』これは高速化で疎かになっている〈様々な動作〉を丁寧に行うのが発想の骨子(コンセプト)だ。

 シーフ連中の身体加速と比べれば数段マシとはいえ。やはり高速機動により先制を取れる有利・美酒は〈精密動作〉を疎かにする。スピードに依存したワンパターン(ザコ)作ってしまう危険が高い。


 そこで速さは【そこそこ】でもバランスよく身体強化を行う『旋風閃歩(派生術式)』を開発しよう。全身強化によって、足の踏み込む力を腕へと連動する【身体操作】を使えるようにしよう。


 これが『旋風閃歩』のコンセプトである。本来の『旋風閃』と比べ歩む(・・)ように遅い。

 ただしカウンターなどの技や防御では優れる・・・かもしれない。 

 さらに魔術で串刺しにしたのでは無いわけで。敵軍を撤退させた後は後片付けが待っていると考えると。専業兵士、農民兵のどちらだろうと普通にトラウマになると考えます。

 他にも悪臭、○肉の味を覚えたカラス、獣の被害。さらに疫病が同時期にはやったとなれば、原因はどうだろうと串刺し凶行のせいにされるでしょう。あるいは屍毒、遺体に群がった虫のせいで本当に病が広まった可能性もあります。


 寡兵が敵大軍との戦争に勝つためなりふりかまっていられなかったと推測はしますが。

 民心、派閥貴族の心が離れるのも当然だと思います。

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