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85.閑話~微風のオモい

 忍者にとって格闘技とはどんなものだったのでしょう?寸鉄帯びずに敵を制圧、捕縛しうる徒手の武術は有用なはずですが。

 拳ダコができた手、拳士の鍛えた身体というのは下手な変装より目立つそうです。せっかく老人に化けたのに○ーメン拳士に数秒で見破られたエピソードを忘れられません。


 足軽、凡人武将の目を欺けても。同業の忍者や勘の鋭い者にはかえって目立つリスクのある格闘術を修めた忍者。有用性はコスト次第でしょうか(わかりません)

下級シャドウの一員であるイスケ。彼にとって姫長様の側近を務めるミヤホ様、カヤノ様にアヤメ様たち三連花は高嶺の存在だ。

 一軍に匹敵する四凶刃の面々。その上に君臨する扇奈様はイスケたち雑兵にとって天上の存在に等しい。よって下級シャドウたちにとってアヤメ様たちは憧れを抱くのにちょうど良い位置におられるのだ。 


 

 「これより『旋風閃』の加速訓練を行う!総員、集中せよ!!」


 「「「「「かしこまりました、アヤメ様!!」」」」」



 そんなイスケの淡い恋はその日、終わった。


 修練を行う時間。アヤメ様が下級シャドウたちの先頭を疾走する。


 『跳躍』       『右片足のみで移動』

      『降下』                   『逆立ち移動』

                      

 矢継ぎ早に灯光術式の信号で指示が出され。それに従ってイスケたち下級シャドウは機動を行う。

 氷炎、射撃術が飛び交い、足場が定まらぬする悪意の戦場。それら魔境、迷宮で機動力を保つ訓練は初歩からきつい。にもかかわらず不満、弱音をこぼす者は一人としていない。


 何故なら雑兵である自分たちの先頭を走るアヤメ様は過酷という表現すらぬるい指導を敢行しているのだから。


 「・・・・・『風星かざほし』・・・『突風』」


 イスケたちの身体に吹きつける風が変化する。それは空気抵抗の増減の時もあれば。風の刃、身体部位に吹きつける突風の時もあった。

 ある程度、それらに馴れると幻惑術『風星』を交えて虚実入り乱れた旋風が放たれる。実戦さながらの機動訓練にたまらず仲間の一人が足をもつれさせた。


 「ッ!?」「ちょっ・・・」「まっ」

 『旋風閃』


 動揺のつぶやきを断ち切って、アヤメ様が加速なされる。その身は転倒→再起不能の連鎖を裁ち切り。先頭から瞬時に下級シャドウの側面に回って身体を支えつつ併走する。


 「ありがとうございます」

 「気を引き締めなさい」


 礼を言う下級シャドウに短く返し、アヤメ様は再び先頭を駆けて行く。

 その背中に憧憬を抱きつつも。イスケたちは激しい劣等感に苛まれた。


 【私たちシャドウの人数は少なく。戦場は多岐に渡り広大過ぎる。武運つたない(転倒した)者を切り捨てる余裕はない。】


 そんな考えのもと。上級シャドウは下級シャドウが加速中に転倒しないようフォローして下さる。

 それは光栄である以上に。

“立ったばかりの乳飲み子が大人に手を引かれているのも同然の実力差がある”そんな事実くつじょくを下級シャドウたちに突きつけた。


 この劣等感は容易に晴らされることはない。決意を新たにイスケたちは疾走を続けた。






 「【合同訓練】を行います」


 三侍女のカヤノ様が宣言した時。「ついに来るべきものが来たか」と下級シャドウの誰もが思った。

 訓練と銘打っているが、実際のところは権力闘争である。


 姫長の扇奈様が率いるシャドウ/お館様の妹君であるイセリナ様が率いる陸戦師団


 どちらが聖賢の御方様・お館様のつるぎとしてふさわしいのか。決着をつけて権勢を握る。

 その戦いの火ぶたが切って落とされたのだ。


 「承知しました。死力を尽くします!」

 「「「「「「「「「「・・・!」」」」」」」」」」


 イスケの決意表明にその場の下級シャドウたち全員が静かに頷く。その気炎はうねりと化し。


 一瞬、火蛇のカヤノ様を圧して視線をそらさせた。


 


 「・・・・・・・・・・今日の【合同訓練】はどのようにすればいいのでございましょうか」


 「もちろん説明する。よく聞きなさい」


 先刻固めた決意のままに。シャドウたちが勇んで赴いた場にあったのは【合同訓練】にふさわしくない道具だった。

 相手の陸戦師団も同様の意見なのだろう。彼らからも困惑の気配が伝わってくる。


 

 何故ならそこにあったのは様々な「遊戯盤」だからだ。そんな合同訓練に選抜された兵たちにミヤホ様が語りかけてくる。


 「これより貴様たちには遊戯盤でゲーム勝負をしてもらう。各員、好きなボードを選べ!」


 〈もしかしたらマジックアイテムかもしれない〉そんな一縷の望みを抱きながらイスケたちは何となくでゲーム道具を手に取った。


 「全員、自分の命運を託す戦場盤を決めたわね。ではシャドウとウォリアー。それぞれ右手にゲームボードを持ち、勝負を仕掛けなさい」


 「「「「「「「「「「・・・・・?」」」」」」」」」」


 「わからない?つまり右手で自分の選択した遊戯盤によるゲーム勝負を訓練相手に挑む。

  挑まれた者はそのままゲームを続けてもいいし。自分の持つ遊戯盤で対抗・挑み返してもいい。


  つまり両の手で二つの「遊戯盤」を同時に指すこともあり得る。

  並列で思考を行えるよう鍛える【合同訓練】を執り行う!!」


 「「「「「「「「「「「………!?」」」」」」」」」」


 シャドウとウォリアーナイト。兵種、役割こそ違えど両者に共通していることが二つある。

 一つは聖賢の御方様をお館様として仰いでいること。


 そしてもう一つが異能者、怪物と相対する戦闘集団であるということだ。当然、その実戦は理不尽なものとなり。普通の精鋭戦士とはとは異なる様々な技能が求められる。


 多角的視野、並列の思考などもそんな技能の一つだ。よって同時に二つのゲームを行うぐらいできて当然だろう。





 そんな風に考えた時もありました。


 「はい、タイムオーバー。両者とも戦死とする!」


 「「なぁっ!?」」


  魔術、異能にそれら両方を操る怪物との戦い。それは敵の能力を観察・分析する強行偵察の連続でもある。

 さらに時間経過によってハメ技と化したり、戦場環境を操作する。敵援軍を呼び寄せるなど味方部隊まで巻き込む能力と相対した際に。偵察に時間制限が課され、能力の詳細が判明しなくても動かなくてはならないことが珍しくない。

 イスケたちシャドウやウォリアーナイトが立つ戦場はそういう魔境なのだ。


 「まあ今日の訓練では(・・)そこまで厳しい内容にはしない」


 「そのとおり。せいぜい私たちと戦うゲーム相手を選抜する。そのために理不尽なゲームの時間制限を設けているだけよ」

  

 「「「・・・・・」」」


 「ちなみに成績優秀者には姫長様たちでもめったに召し上がれないお食事。至上の美味を口にする権利が与えられる」


 「だから貴様たちには察して欲しい。側近のC.V.と言えど得難い至福を味わえる機会なのだ。

  ならば美食のテーブルにつける人数は極力少ないほうがいいと考えるのは当然のことだろう」


 「「「「「「「「「………」」」」」」」」」


 厳かに賢そうに言っているが。要はミヤホ、マイアの側近たちで美味を独占したい。

 だから“オマエたちは理不尽ルールに屈して自炊でもしていろ”とイスケたちは告げられている。


 こんな横暴が許されていいのだろうか?否、ここまで露骨に“忖度しろ”と宣告しているのだ。

 誇りある人間として、シャドウとして。敵わぬまでも反逆の意地を見せる時だ。


 「おい、おまえら。今回だけでいい。手を組むぞ」


 そしてそれはウォリアーたちも同じ意見らしい。かくしてシャドウ、ウォリアーのによる急造同盟が結成され。横暴なる悪女たちに敢然と挑む戦いの火ぶたが切って落とされた。










 『旋風閃・丙』


 高速動作を可能とする身体強化をアヤメは発動させる。それは本来の『旋風閃』による加速と比べれば亀の歩みに等しい。

 だが臨時で台所を預かることになったアヤメが料理技能を発揮するため。それに最適な速度を得るためにはこの弱い強化こそが正解なのだ。


 「何だか家事をするのも久しぶりな気がするわね」


 鼻唄を口ずさみながら食材を刃物で解体していく。透けるくらい薄く野菜の皮をむき、歯ごたえと甘みを楽しめる形に切り。苦みを含む野菜の皮は肉の味を調える出汁、スープの材料にする。


 「楽しそうね。アヤメ」


 「カヤノ?貴女も手伝ってくれるのかしら」


 「ええ、まあ・・・火加減と香りのことは任せなさい」


 「助かるわ。生で食べられる菜や珍味にくなら私の刃物だけで料理できるけど。

  やっぱり料理は味付けこそが肝よね」


 口を動かしながらアヤメは両の手で調理を行う。右手ですじや汚れを取り除き、左手でその肉をきざみ挽肉を作る。ミンチメーカーがあれば楽なのだろうがアヤメの好みではない。

 それに強化魔術というズルを行っているのだ。肉の細断ぐらいはその手で行わなければましな料理にならないだろう。


 そんなアヤメに対して歯切れ悪くカヤノが話しかけてくる。


 「ねえ、アヤメ。今日の【合同訓練】のことは聞いているのかしら?」


 「無論よ。速さのシャドウと剛力のウォリアー。模擬戦、部隊戦闘を最初から行うのはリスクが高い。だから文化的な分野で競うと聞いているわ」


 「文化的・・・まあ机上で争っているのは間違いないかしら?」


 一時的に調理に集中して、食材の音以外を聴覚に無視させる。新鮮な細胞の音を感じ、余計な空気を手指で除き。それに連動して手の平で肉を加熱する形に成形していく。

 アヤメの未熟な味付けで美食を作ることは不可能。料理勝負に勝つことなど論外だ。

 だから風魔術の感知で料理の工程を解析し。その工程を迅速にこなしつつ、拙速のデメリットを封じる気流操作を調理台で行う。


 「悪いカヤノ。調理中で聞いてなかったわ」


 「ええ、聞く価値のないぼやきだから別にいいわよ。

  そんなことよりまた料理の腕が上がったかしら」


 「お世辞ならけっこうよ。伝承の料理魔導師は五人分以上の食事を一人に食べさせても美味をもたらしたとか。

  私たちの素人料理ではとてもその領域には到達できない。お膳の五皿、実質三皿を召し上がってもらうのがせいぜい。三人分を一人に食べさせれば満腹で腹痛にしてしまう」


 「・・・・・・・・・・まあ貴女がそう信じこんでいるならそれで良いけど」


 “食材を活かしている料理”と扇奈様たちにお褒めいただくこともある。だがそれは“あくまで素人料理としては”という注釈がつき。

 “食材におんぶだっこしているだけ”ということを忘れてはならない。だからこそフードハントなどという冒険依頼が存在するのだ。


 「それよりカヤノ。焼きに入るから手伝って」


 「承知したわ。食事場所の結界はどうすればいいかしら」


 「今回は大人数(・・・)に出すから魔力量が足りないし。お盆の付与だけにしましょう」


 「了解よ。香り粒子と熱を滞留・保全。『火蛇の巣穴はからに成れ』」


 カヤノの協力を得たことにより、調理の工程がさらに迅速になる。やはり料理は火の技だ。

 料理の香りはもちろんのこと。味付けは炎熱なくして成立しない。アヤメが苦労して混ぜていた調味素材が劇的に変化するのを嗅覚が伝える。


 「あとは料理が最も美味しくなる瞬間を逃さないように。出すタイミングが重要ね」


 花が最も美しくなる刻があるように。食材の香り、歯ごたえに味が最も膨らみ弾ける寸前がある。

 強化の術という反則に依存したのだ。外道な料理だからこそ、その瞬間を逃したくない。


 「………ねえアヤメ。もう少し料理を出す時間を遅らせられないかしら?」


 「何を言ってるの。これ以上、手間をかけてもしかたないわよ」


 「それはそうだけど。貴女の想い(料理)を「重い」と感じる人もいるのよ」


 「ええ。今回は重装備で戦うウォリアーも喜ぶようにボリュームも考慮したわ」


 その返答に料理の相棒(カヤノ)は一瞬だけ昏い影を表情によぎらせた。だがすぐに冷静な表情になり、何かを切り捨てる決意を固める。

 きっと軽い料理が好みのシャドウたちの満足感を完璧にするのを断念したのだろう。




 「さあ、私の料理(楽しみ)を味わいなさい」


 真の美味を知っている(とC.V.マイアから聞いている)ウォリアーたちの舌を満足させられるなどとアヤメは自惚れていない。侍女シャドウが二人だけで片手間に作ったのだ。仕入れから調理修行までこなして、美食の門を垣間見れると料理仙人も言っている。


 だからアヤメが願うのは【食材への感謝】だけだ。気息を整え、心を平静に保ち。五感と食道が料理を受け入れる支度をする。それだけでアヤメは幸せになれるのだ。




 間違っても心をすさませ、獣臭を吐いている。泥仕合に心を溺れさせ、味覚が鈍い状態になっているなど。断じて許せることではない。


 そして宴席会場の扉は開かれた。




 その後のコトはあらゆる記録、大勢の記憶から抹消されている。


 ただ聖賢イリス様配下の身体強化は怒れる狂戦士の系譜であり。普段は理性的な侍女シャドウたちも激情を秘めている。

 そんなとても大事なことをシャドウ、ウォリアーとC.V.に至るまで知らしめたとか。



 「それではみんなで料理を作り直しましょうか」


 「「「「「サー、イエッサー!!!」」」」」

 「走れっ、全員、駆け足っ!!」「待ってくれ!置いて行かないでくれっ!」


 アヤメ様の指揮に総員速やかに従う。そこに所属、種族の垣根は一切ない。


 「そう言えばマイア殿」


 「ッ!?」


 「貴女のチャクラムアームですが。調理に使う粉砕器、糸繰りの動力にとっても有用だと思うのですけど。よろしければ後日、相談の場を設けてもよろしいですか?」


 「ハイ、喜んで!その時には頼りになる知恵袋を同行させよう!!」

 「「「ッ!?」」」


 マイアの言葉にウォリアーたちが一斉に目をそらす。腰が引けたその姿に戦場での勇姿は欠片もなく。にもかかわらずシャドウでそれを嘲笑する気配はない。


 「能力に関する相談ですから、そんなに人数は要らないでしょう。

  まあ二人だけというのも何ですし。ミヤホ、予定は空いてるわね?」


 「ええっ!?そんな急にい・・・もちろん大丈夫よ!急いだほうが良いわねっ!」




 「あっ、これ良いお味」


 そんなやり取りから距離を取り。カヤノは一人美味と幸運をかみしめる。


 「とりあえず内紛の件は延期(永久中止)にしましょう。私たちで制御は絶対に無理だわ」


 一人つぶやきつつ助け船を求める同僚ミヤホを見捨てた。

 この件は自分の身に余る。せめて四凶刃クラスの幹部を巻き込まないとダメだろう。


 「いい、香りね。美味しいものは心が癒やされるわ」


 悲鳴が響いた気がしたが空耳だろう。カヤノはそう自分に言い聞かせて食事することのみに没頭し続けた。

 

 とはいえ「忍者装束は雇い主にアピールするのに必要な忍具」「諜報だけでなく、荒事担当の忍者も必要」と考えている私としては。

 忍者の拳士もある程度はいたと推測します。知識を蓄えている忍者が〈仕掛けを施した器物〉を雇い主の前で破壊して見せる。忍びを侮っている迷信深い武将に対し、徒手格闘の秘技を披露する。


 種がバレなければ良いアピールに。あるいは畏れさせ忍術の力を示したと考えます。 

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