82.閑話~闇C.V. vs 微風シャドウ
忍者の使っていた『水蜘蛛の術』ずっと架空の忍術だと思っていました。木片パーツを輪のようにしても水上歩行はできないというアレです。
しかし湿地、泥沼を城塞の堀として利用しているのを知って。今では無くなった悪名高き泥田のことも思い出しました。そこではミニスキーもどきの板をはいていたとか。
水上をアメンボのように移動するのは無理でも。そういう泥の上を移動するのに『水蜘蛛』と呼ばれている道具はかなり有効ではないでしょうか。
カオスヴァルキリーという種族がいる。彼女たちは武術と魔術の両方をふるう戦乙女でありながら。
北海の神に仕えず、ヴァイキングを守護することも無い。むしろ遭遇したら高確率で戦争になる。
人間と同様かそれ以上の種類の異文化を持ち。それらが混成した戦力・軍団を持つ戦姫の種族だ。
よってアヤメが相対しているようなC.V.がいても何らおかしなことはないだろう。
明かりを落とした闘技場に複数の風切り音が響く。それは飛び道具の軌道を知らせる情報であり、獲物の神経をすり減らす旋律でもある。
それらは変幻自在に飛び交い、微風のシャドウを確実に追い詰めてゆく。
「くっ、このっ!?」
【模擬戦】の舞台である暗い戦場でアヤメは必死に回避行動をとる。
だが格上のC.V.を相手に『旋風閃』の加速を多用したところで戦況は覆らない。
「どうした?扇奈殿の側近衆ともあろう者が逃げ続けるだけか!」
「安い挑発ね。思ってもいない言霊は軽いぞ!」
何故ならアヤメが目の前のC.V.に勝ることなどせいぜい言の刃のやり取りぐらい。
マイアと名乗った軽装のC.V.は魔力、身体能力などあらゆる面でアヤメの上をゆき。あげくにシャドウと同様に密偵・偵察兵タイプの戦姫だった。
それはアヤメの戦法を周知しているということであり。シャドウがシーフを蹂躙するのと同様に。格上の同系統なマイアはアヤメを圧倒できると言うことだ。
戦況を覆すためには回避に徹してマイアの能力を見極めなければならない。
『チャクラムアーム!!』
訂正。現状のまま隙をうかがってもアヤメは惨めに敗れる。
円盾ほどもある巨大な戦輪二対。それら双刃が手の平サイズの戦輪を超える変幻自在の軌道で飛び交う。
通常ありえない飛び道具の攻撃に回避するだけで体力が削られていく。短刀で受けるなど論外で、アヤメの技量では探りを入れるのも困難という体たらくだった。地力どころか異能・武装でも劣る実力差に平静を取り繕うのがやっと。
そんな戦況でアヤメができることは少ない。
「それがうわさの念動手?話には聞いていたけどなかなかのものね!」
言の葉という少しでも有利な戦場に引きずり込むことだ。
「フッ、C.V.にとって基本の一系統にすぎないアーム(ねんどう)能力がうわさになるはずもない。探りを入れるなら基礎知識ぐらい仕入れておくことだ」
そうして無知を露呈してしまう。
『念動手』無属性の魔力塊を怪腕・長手と化して愛用武器を操る能力とは聞いている。だがシャドウの同僚はもちろん主のイリス様もそんな能力は使用しない。
アヤメにとっては未知でありながら、基礎の武術として確率している。
《欲しい!この力は私たち(シャドウ)の戦力増強に必ず役に立つ》
となればアヤメがやるべきことは一つ。
「だったらこの場で基礎知識とやらを得させてもらう。私が勝ったらその能力について教えてもらおうか!」
いまだ未完成の『旋風閃影』は使えない。切り札を出して勝負に出るときではない。
ならば得難いこの【模擬戦】でアーム能力の情報を得る。『チャクラムアーム』の手札・引き出しを開けさせる。
それが扇奈様に仕える側近の役目というものだ。
マイア・セレスター。8級闇属性のC.V.は不測の事態に見舞われていた。
《なんだ、この人間は》
当初、マイアは密偵の立場を賭けて【模擬戦】をシャドウの代表と行うという話だった。
マイアの属するパーティーの司令塔であるイセリナ・ルベイリー。彼女は長姉の私兵集団すら汚れ仕事に携わることに我慢がならないらしい。
“情報収集ぐらい私のソロモンゴールド(まどう)で何とかなる!”
そう言う仮初め主君の強い意向により密偵の地位を賭ける勝負に巻き込まれたマイア。彼女の装備は確かに密偵を彷彿させるものではある。
しかし情報収集は本業ではなく。侵入してくる密偵を殲滅する掃除屋がマイアの役目だ。
よって戦闘力のある密偵に対して有利に戦闘をすすめる武術・魔術を修得しており。
よほど戦闘に特化したシャドウでないかぎり、圧倒するなど造作もないはずだった。
実際、対戦相手のアヤメは人間レベルでは上位の実力者でも。C.V.の兵としては下級もいいところだ。加えて特筆すべき武装、作戦の気配も感じられない。
《甘かった。この女は新手の狂戦士だ》
命の代わりに命数を左右する情報の重要性を判断できる。現在・未来を左右すると判断した情報を狂気の執着心で奪いにくる。C.V.マイアの【複数ある異能】の魔力視はそのことを看破しており。
おかげで【模擬戦】は不穏な暗闘の場と化していた。
「それが貴女の本気なの?だったらどうということもない!」
挑発の言葉と共にナイフが投擲される。そのナイフを戦輪で迎撃しつつ、マイアは手札を切ることにした。
『回れ!円盤の車輪』
その合い言葉により飛び交う戦輪の一つから『魔術円』が展開される。『魔術陣』の外周部分のみを切り取った『魔術円』が扱える術式は弱く種類も少ない。本来、魔術陣の複雑な術式を外界から隔離・保護するのが魔術円の役目だからだ。
「くっ!このっ!?」
だがその効果は絶大だった。今までチャクラムに翻弄される“ふり”をしていたアヤメの偽装がはがれ。動きに余裕が無くなり、戦輪がその身をかすめる。
『魔術円』によってチャクラムの動きを察知していた感覚の触手が遮断された。音波、拡張触覚のどれによってかは不明だが。回避に必要な情報を得られなくなったのだろう。
「どうした!どうということも・・・」
『・・・鐘!』
言の葉でもやり返そうとしたマイアを無視してアヤメが小さくつぶやく。それによって地面の砂粒が震え突風が吹いた。
「!!!ッ?」
「シッ!」
物理攻撃力など皆無の響き。だがそれは舌を動かしていたマイアの感覚に警鐘を鳴らさせた。
その警鐘は『魔術円』という増設を行ったチャクラムの操作にゆらぎをもたらし。
「そこっ!」「・・・!」
アヤメの肌をうすく切り裂く。だが女シャドウはその傷をものともせず直進して。
素速く落ちているナイフを回収して跳躍した。
「貴女は・・・」
「おあいにく様。逆襲のチャンスと襲いかかってくるとでも思ったの?」
挑発するようなアヤメの態度。図星を突かれたマイアだが、その胸中を賞賛が満たす。
魔術、異能力やモンスターとの戦闘において。初見殺しに手こずっている者に上位への道はない。
実戦では敵地で時間制限がつき要人を護る必要がある等々。それら不利な条件がいくらでも連鎖するのだ。
安全な後方に控える学者、軍師ならともかく。“楽しく”謎解きをして能力を解明している間に味方の死体が積み上がっていく。
それが異能の最前線であり。それに我慢できず魔性の力に手を伸ばしたのがマイアというC.V.だ。その瞳は落ちていたナイフが記録媒体のマジックアイテムであると鑑定し。
さらにアヤメがマイアの魔力視を察知していることを教える。もはやシェイドアイの使用は敗北と同義だ。
「ああ、思っていた。貴女を軽んじ、目先のチカラに増長していた愚劣を謝罪する」
「・・・へぇ~」
「私の名はマイア・セレスター。八級闇属性のカオスヴァルキリーだ」
「・・・アヤメ・ヴィダールよ。属性は風で姫長様の側仕えにして刃の一振り」
人間の騎士と似ている決闘前の名乗り。お互い対戦相手に敬意を払い、【模擬戦】だから命のやり取りをすることもない。先ほどまでの威圧するような魔力と隙をうかがう感覚の触手が薄れていった。
同時にマイアは気配を研ぎ澄まし、奇襲の魔術円を消去して両手にそれぞれ戦輪を構える。
一方のアヤメは音響、芳香に地面の震動等々。能動的に情報収集を行うためばらまいていた布石・仕掛けを放棄して。マイアが仕掛ける刹那を捕らえるべく、一見無防備に脱力してきた。
「回れ、チャクラム・・・」
「旋風・・・」
己の全てを賭けた切り札を放つ。血族・同胞の未来を左右する【智恵】をもぎ取るべく戦場を駆ける決断を行い。
「そこまでっ!この勝負ボクが預かる!!」
聖賢の光芒によって切り裂かれた。
とはいえ底なし沼のような危ない防御設備を現存の城で再現できるはずもありません。どんな沼でも歩けるわけではなく。雨天や場所によって専用の『水蜘蛛』を作らなければならない。
そんな条件も必要となれば『水蜘蛛の術』が存在した証明を行うのはさらに困難となるでしょう。
それでも架空のレッテルがはられた忍術が実在したかもしれない。忍者ファンとしては嬉しいお話です。




