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81.閑話~側近シャドウの内紛

 神話、伝説に優れた装備や兵器は数あれど。凶器の中で最も恐ろしいもの。怖すぎて余所での流用禁止が不文律?となっているモノは何でしょう。私はヘラクレスの死因となった《下着》だと考えます。


 大英雄ヘラクレス。その死因は下着・着衣に塗られたヒュドラの毒が原因とされる。もしくはヒュドラの毒矢で殺されたケンタウロスの執念・謀略か。神の悪意うんめいという意見もあるでしょう。

 それはウァーテルを攻略する数ヶ月前。シャドウたちが修行・訓練の仕上げを行っていたころ。



 

 「いったい何の用事なの?二人とも」


 訓練場も兼ねる迷宮の一画。そこでミヤホは同僚二人に呼び出されていた。


 「私は立会人よ。用があるのは…」


 苦笑しつつ言葉を続けようとするカヤノを押しのけて、アヤメが出てくる。その表情は話が楽しい内容ではないと雄弁に語っていた。


 「ミヤホ。いったいいつまでお遊戯を続ける気?」


 「“お遊戯”とはひどい例えね。いったい何をもってお遊戯と言うの?」


 「『八曜燐舞』のことに決まっている。あんな集団連携が実戦で通用するはずないでしょう」


 

 『八曜燐舞』それはミヤホ一人を七人ものシャドウがサポートする。魔術・射撃に幻惑など様々な援護を行うという術技だ。


 葉・踊・謡・鷹・陽・揺・妖・八の『八よう』によってミヤホを支援し仮初めの戦乙女カオスとする。魔力に劣るシャドウの欠点を分業・人数によって補おうという陣形だ。


 「その趣旨は説明したはずだけど」


 「一方的な書面でね。」


 「カヤノだって同じでしょうに」


 「あんな呪術式を実演できるか!」

 「・・・・・・」


 建設的ではない言い合いがカヤノを巻き込んで交わされる。

 だがアヤメがミヤホの『八曜燐舞』に不満をぶつけるのは当たり前のことだろう。

 アヤメ、カヤノにミヤホたちは姫長の扇奈・セティエール様に仕える側近侍女だ。姫長の護衛としてその連携に不備があってはならない。


 『八曜燐舞』を形成するメンバー七人はその不協和音あしでまといになりかねないのだ。


 

 「今からでも遅くはない。支援要員の七人には慰労金を渡してお引き取り願う。

  そうして貴女一人の技を修めるべきよ」


 その慰労金は当然、自分たちも出す。ミヤホ一人の不手際になどしない。

 そんな意思をこめたアヤメの視線をミヤホは気付かないふりをする。それは中立であるべき立会人カヤノにも不審を抱かせる沈黙だった。


 「・・・ちょっと、ミヤホ。私たちに何か隠していることがないかしら」


 「・・・・・」


 「隠していることなんて無いわ。ただ言ってないだけ」


 「まさか・・・。その七人は当然、下級シャドウの試しをくぐり抜けて・・・」




 「将来的には下級シャドウに成るわよ」

 「「・・・・・・・・・ッ」」


 七人もいれば三人一組スリーマンセルを二組も編成できる。当然、そのための資金、装備に訓練のサポートは行う。

 そんな交渉による妥協点はこの瞬間に崩壊した。






 数時間後


 「それで?」


 「質問したいなら内容を言ってくれるかしら」


 あの後、ミヤホの浅はかさに激昂したアヤメは決闘を申し込んできた。

 内容はアヤメ一人 対 ミヤホと見習い(みじゅく)シャドウ七人によるもの。事実上、旋風閃と八曜燐舞による競い合いだ。

 死人は出ないよう努力する。ただし人生のかかった誇り・術式を賭けてもらう。


 「…………」


 そんな決闘の審判を押しつけられた侍女シャドウから沈黙と殺気の熱がミヤホに吹きつける。


 「ッコホン。あのねカヤノ。今のシャドウの状況をどう思う?」


 「状況・・・。聖賢の御方様にお仕えしている現状のことかしら」


 「そちらではないわ。〈速さ〉に傾倒している評価基準についてよ」

 


 シャドウ一族にとって誇りとも言える『旋風閃』という加速重視の身体強化魔術。

 下級シャドウになる試験もそれを修得しているかどうかが評価の骨子だ。


 昇格を望む者が『旋風閃』への適正に欠けるなら。それを上回る技量を求められる。

 魔力、語学力や光属性しゅくんの魔術を修得できるかなど。それらは数こそ多いが狭き門だ。



 「だけど一族の傾向として『旋風閃』に適合する者は多い。ならばそれの会得に集中することこそが戦闘力の向上につながるのではないかしら」


 『緋水晶』という呪術を編み出した。ほとんど異能者に近いカヤノが自らを省みず告げる。

 だがそれは正論でもあった。シャドウは冒険者パーティーではない。

 特務兵として安定した戦力を求め維持するならば。よほど有用な異能という例外でも無い限り。雑兵・下級シャドウの戦力は一定の枠を設けるべきだろう。


 それに対しミヤホは反論する。


 「別に私は情だけで速さに劣る者を『八曜燐舞』に加えたわけではないわ。

  実戦では魔術が飛び交い、怪物が跋扈する。『旋風閃』は確かに先手を取れる優れた術だけど。必勝をもたらせる無敵の技ではないわ」


 先手必勝などというものが安易に成立するならば迎撃・防御側の有利などない。〈備えをしておらず戦闘力の拮抗したものが不意に遭遇した条件で先手を取ったら~〉

 こんな諸々の条件を満たさないと得られない先手の勝利を必勝とは呼ばないだろう。


 「それはそうだけど。私たち中の下レベルが無敵の術など使えるはずないでしょう」


 勝率の高い戦法、汎用性のわりと高い装備というものならあるだろう。だが無敵に近い兵などというものは存在しない。だからこそ兵を率い勝利をもたらす武将・指揮官は英雄と称えられるのだ。


「勇者、上位者でも無敵の術などないわ。だけど勝ち続ける努力はするべきよ。

  『八曜燐舞』の手札は必ず『旋風閃』の戦力増強に役立つわ」


 先手と回避を行いやすい加速能力は極めて有用な戦闘術だ。とはいえデメリットが皆無という反則的な魔法ではない。


 加速中は視界が狭まるなど、すべての感覚に制限デバフがかかる

 安直な身体強化ドーピングにより挙動・動作の起こりまで大きくなり。敵に動きを読まれる

 加速した身体に思考・器用さが追いつかず。速さに依存し、反撃・不測の事態に対応できない


 《最低限》知っておくべき欠点でもこれだけある。怪物、魔術と戦い続け、対策を立てられれば弱点はもっと増えるだろう。


 「………確かに加速能力には欠点も多いけど。見習いたちにはステータスアップを重視して鍛えさせる。巧みな技はある程度の地力がついてから会得するのが常道ではないかしら」


 「個人の武術修行ならそれでいいでしょう。だけどシャドウは戦闘【集団】よ。あらかじめ準備そなえをしていないと手遅れになるわ。

  例えば疾風の速さでシャドウが『どこかの都市うぁーてるを陥落させる』大手柄を立てたら。高速戦闘への傾倒は決定的になりかねない」


 その後に『八曜燐舞』の多機能・有用性をアピールしても『旋風閃』の後塵を帰するならマシだ。

 『旋風閃』によって得た勝利の美酒に酔いしれて。“小手先の技”という烙印を押されれば、予算はともかく『八曜燐舞』会得する人員がいなくなる。


 「・・・話はわかったわ。できれば扇奈様たちに話は通しておきたいけど…」


 「上からの圧力で術の開発をするという流れは避けたいわ『扇奈様の次元ひじょうしきで汎用術式の開発とかあり得ないから』」


 「…………仕方ないわね。事後承諾にはつきあってあげる」


 内緒話の光術会話フォトンワードも交えてミヤホとカヤノ二人のやり取りは続く。

 それは帰り道に勝利・戦果が必須となる。危険な橋を渡る行為であった。

 しかし私が恐ろしいと考えるのは《下着》です。

 何故ならヘラクレスに殺された敗者の怨みで勝者を殺せるならば。歴戦の英雄たちは千万回殺されても足りないでしょう。

 そしてヒュドラの毒は本来、大英雄ヘラクレスにしか扱えないはずの○具。毒矢に射抜かれた者たちの血潮に英雄ふじみ殺しの効果があるならば。ヘラクレスの戦場は猛毒の地と化し。遺体にふれた人・獣まで毒に犯されます。


 ヒュドラの猛毒を隠して運び、標的ヘラクレスのみを殺した《下着》。魔術ナイフよりはるかに恐ろしい凶器ではないでしょうか。

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