80.八の燐舞~ミヤホ
ギリシャ神話には様々な英雄たちが登場します。高い能力を持ち、最期は破滅しても綺羅星のごとく輝いた英雄たち。
しかしそんな神話の住人に[現代日本のファンタジー]で評価されず貶められているキャラクターが存在します。ゴルゴン姉妹ですら美しいアナザー英雄となっているのに。
さてそれはいったい誰でしょう?某、英雄大戦ならそのうち登場すると信じています。
「アヤメ、カヤノ!!」
「扇奈様っ!?」
牽制のために放った光輪の術式。それと同時に侍女シャドウたちのもとにたどり着いた扇奈は驚愕とともに迎えられた。
《作戦は?護衛は?どうしてここに?》
それら疑問と驚愕が混じり合った瞬間。カヤノを護り続けたシャドウの臨戦態勢に綻びが生じる。
「・・・ッ」
とたんに彼女たちを包囲していた闇ギルドのメンバーたちから飛び道具が放たれた。
既に数人の前衛らしき賊が地面に倒れ伏しているものの。後衛や監視の目は健在であり、包囲網は崩れていない。
本来なら射程に劣るはずの飛刃・鎖分銅は魔術武器なのだろう。殺到してくる凶器は実に多彩であり安直な回避は死につながる。
『魔鏡鐘』
それらの第一陣を扇奈は一言で無力化する。
壁を透過する音・震動を操る『魔鏡鐘』の術理は透過できない障害を展開することと表裏一体だ。
飛び道具の空気抵抗に干渉して失速させる。魔力の音波で迎撃するなど初歩にすぎない。
「撃ち続けろ!足手まといを抱えて動きが制限されている今が好機だ!!」
よって消耗しているカヤノを鞭打つ言霊をも無表情で遮断し。扇奈は彼女の手綱を解き放った。
「ミヤホ、忍ぶ時間は終わりだ。殺れっ!」
「かしこまりました扇奈様」
姫長の扇奈・セティエール様が発した号令によって空気がゆらぐ。鈴の音が響き、アヤメたちを取り囲むように人型の影がうごめく。
「刺し穿て、『燐舞爪』」
“それら”が完全に人型を形作る前に。ミヤホは複数のナイフと幻惑の燐光を投じる。
「惑いのウィプス…散開しろっ!!」「落ち着けっ、距離を保てばどうということはない!」
それに対しシーフブレイバーたちは冷静に対処してきた。放たれる淡い魔力を察知し、射程も強制力も低いと分析したのだろう。
そうして仮面を装着していく。『燐舞爪』の情報をかき集め対抗策を用意したのだろう。さすがは闇ギルドの精鋭だ。情報が武器であることを理解している。
『八葉燐舞』
それに対しミヤホは八色の燐を放射しつつ七体の影を舞わせた。
仮面による視角防御がどのような仕組みによるのか?いかに侍女シャドウといえど瞬時に解析することはできない。
だが通常視界から魔術による視覚への切り替えは相応の負荷がかかる。〈実験〉ならともかく《実戦》を行うならその負荷が重くなることをシャドウたちは既に知っており。
さらなる負荷・光学情報を与えれば付け焼き刃の眼力など破綻する。そのことをよく知っているミヤホにとって仮面による『燐舞爪』への対策など想定の範囲内だ。
「なっ!?闇だとっ!?」「バカな、光属性ではないのかっ!」「どこだ!何処にぃ…」
複数の塗料・絵の具を混ぜ合わていけば黒色と化す。同様にそれらに似せた自然ではない魔力も混合すれば闇色と成る。
ミヤホはその闇を対『燐舞爪』のために作られた視力保持のアイテムに付与することで、暗闇の呪縛をかけたのだ。
「ちぃっ、距離をとりつつアイズマスクを捨てろ!!」
「それはっ!?」
「奴等の首を取るのが最優先だ。手柄を立てれば帳消しになる!」
戦闘シーフたちのやり取り。そこには“駒”の悲哀が透けて見えた。
‘幻惑光への対抗策として鳴り物入りで作られたアイテムは役に立ちませんでした’そんな報告を持って帰ったらどうなるか。最低でも前線に理解のある指揮官の失点になるだろう。
そんなことを考えつつ、ミヤホはその隙につけこみえぐる。
『八踊燐舞』
多めの魔力を消費する『燐舞』のアレンジはミヤホの身体を覆いその力を一時的に高める。
「なっ!?」「バケモノがっ!」「そんなものに今さら驚くわけっないだろう!!!」
そうして盗賊連中は怪光暗影を帯びて舞うミヤホの姿に驚愕した。
ミヤホは別に怪奇の幻影をまとっているわけではない。そもそもお強い精鋭たちが異形程度に驚くはずがないだろう。
彼女が行っていること。それは敵が動作を読むのに重要でない身体部位を怪光によって目立たせ。逆に動作を読むのに重要な身体部位を影の術で覆う。
それら怪光暗影を変化させ続けるトリックアート〈のっぺらぼう〉を展開しつつ。特殊な歩法、リズムの舞踊でさらに幻惑の相乗効果を狙ったのだ。
一応、視覚に頼らず聴覚・勘で獲物を捕捉する。広範囲の攻撃を行うなどの対応策はあるのだが。
闇の住人とやらは催眠やさらなる変幻自在を恐れているらしい。見当違いの精神集中やのんきな観察に余念がない。
「その愚かさを抱えたまま死になさい」
「なっ!?」「ガッ、ギッ!」「馬鹿な、こいつはアークイリージ……」
防御という殻にこもる。観察のため要所を見ることに集中する。
そうして視界が狭まり、死角が広がった軽装兵などミヤホ〈たち〉にとって敵ではない。
『八謡燐舞』 「ハッ!!」
『八陽燐舞』
「ッ・・・」 『八鷹燐舞』
四方八方から包囲・飽和攻撃が戦闘シーフたちに放たれる。物理的なダメージを与える攻撃にとどまらない。情報戦を行う連中の感覚・理解を押し潰す膨大な燐舞の濁流が殺到する。
彼女たちの鬱憤を晴らすために。
私は【アラクネ】が不遇な扱いを受けていると考えます。
女神アテナに織物の勝負を挑んだアラクネ。【神と勝負を成立させた】神業職人にもかかわらず、現代日本ではクモ怪物として扱われている[コメディは除く]。人間の女性が忘却の彼方に追いやられたアラクネの扱いはどうなのでしょう。
たいてい神への不敬罪は即神罰・破滅と決まっています。それなのに女神アテナは警告し、勝負までした。警告しただけでも破格の扱いですが、競うのはその価値があったからではないでしょうか。
ただし昨今のwebに記載された“アラクネが女神に勝り、アテナが切れて織機を破壊したパターン”は大反対です。古代の地中海を席巻した星鎧の女神を愚弄しているとしか思えません。
昔、初めて読んだ[神々の宴を織物にしてアテナが勝利した]ver.を推したいです。




