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79.魔鏡鐘のセンリツ

 功績に対して地位、名誉に報酬が正統に支払われていない不遇職は何か?と尋ねられたら皆さんは何を思い浮かべるでしょう。私は狩人・猟師です。

 かつて狩人は獣を倒す勇者でした。そして忍者が活躍するまで、狩人こそ軍勢の五感であり道標でした。

 天候を読み取り。獣の気配や足跡から敵軍の情報を得る。

 たまに[猟師を道案内にして移動]という表現がありますが。未知の山で遭難しないように。迷子大将の烙印を押されないよう、狩人を雇うのは必須です。

 それなのに時代劇、戦記のどちらも狩人の出番は少ないどころか皆無に近い。これを不遇と言わず何と言うのでしょう。

 聖賢の担い手であるマスターによって支配されつつある都市ウァーテル。


 かつて悪徳の都だったその闇は深く。邪教の力を借り、街を火の海に変えて反抗する企てが行われようとしていた。

 どぶ川、水路に触媒となる薬液を流し。それを長距離からの魔術球で反応させ地獄を作り上げる。

 『予知』の神力が作戦進行に取り込まれたソレはシャドウたちの予測を超えてはいた。


 “大事な資産である住民を焼くような真似はしまい”というフツウの考えを。


 「まあ私の能力など外れるにこしたことはない。だけどそれに備えるのが参謀の役目よ」

 「・・・イセリナがそう言うなら万が一がありそうだね」


 トップ二人の判断により闇ギルドへの対策はとられた。結果は今夜のとおり。


 よってこの魔術攻撃は扇奈にとって大事な側近シャドウを救出するためのものではない。

 シャドウを束ねる姫長として汚名をすすぐ機会だ。扇奈はそう念じて冷静さを保つ。


 

 そして憤りを鋭く研ぎすませた。




 旋風閃の高機動力によって扇奈は建物の屋根上、時には壁を蹴り障害物をすり抜けて移動する。

 その理由は半分がカヤノたち侍女シャドウのもとに急行するためであり。


 「なっ?」「これはっ・・」「落ち着けっ、まずは防御を!」


 理由の半分は蹴った屋根、壁の建物に『魔鏡鐘』をかけるためである。 


 「旋律/戦慄よ響け!『魔鏡鐘』」


 

 『魔鏡鐘』それは浸透する打撃によって術式抵抗・障害を突破する術だ。

 外から建物、船の壁を透過して内部の空気に干渉する。それにより檻と化したも同然の部屋にいる者は一方的に蹂躙される。

 犠牲者が自らの魔力抵抗を高めても、扇奈が干渉している空気を吸ったら抵抗=徒労となるのだ。



 「耳がっ、頭がっ」「痛い!頭が割れるっ」「落ち着けっ、ひるむなっ!!ひるむなぁ!?」



 その魔鐘が闇ギルドのアジトに容赦なくたたき込まれる。建物内部の空気を震動させて、大音響も同然の衝撃波が密室で荒れ狂う。


 「「「^~ッ!?!!!-:*~~」」」


 不運な雑兵たちが脳震とうを起こして倒れ。“生”兵法者たちが聴覚から魔鐘の音を呼び込んで昏倒していく。状況を探ろうと感覚を鋭くするのは音響攻撃に対して悪手でしかない。その愚行を犯した闇ギルドの兵力八割が無力化された。


 「チィッ!」「邪な風かっ、だがっ!」

 「役立たずは放っておけ!こうなれば我らだけでさっ!?:*^--」


 そして次の瞬間、残った戦闘要員の九割が壊滅する。風属性に対抗する護符やら結界をはっていた連中の敗因は“窒息”だ。おおかたウァーテル陥落時の情報をかき集めて“素人の対抗策”をガンバッタのだろうが。


 風属性のイロハすら知らない連中の対抗策など、デメリットのあふれた墓穴でしかない。



 そんな中でとっさにアジトの壁、窓を破って脱出したシーフブレイバーが憎悪の視線を扇奈に向けてくる。


 「何をしたっ!いったい何をしやがったっ!!」


 怯えの感情が見え隠れする眼球・叫びを置き去りにして扇奈は同様のことを繰り返し。

 それによりアヤメたちがシャドウの拠点へと戻るルートの障害排除が完了した。


 そうしてようやく扇奈はアヤメたち側近を迎えに行くべく跳躍する。


 「待てっ、ま!?ガッ」


 足下で命を拾いかけた盗賊が背中から貫かれる。それを一顧だにせず扇奈は大事なものたちの元へと加速した。




  

 

 


 


「待てっ、ま!?ガッ」


 無防備な背後から戦闘シーフの急所を貫く。そうして憐れな盗賊が絶命したのを確認してから。

 下級シャドウのライゾウは姫長の扇奈・セティエール様が【下した命】に従って闇ギルドの拠点をあさった。


 『魔鏡鐘』


 武術の浸透打撃、音響の透過を応用して魔術の障害を通り抜ける姫長様の魔導秘術。その力には攻撃、探査以外にいくつかの使用法が存在し。

 見習いから下級シャドウに昇格したライゾウはその一端を活かす栄誉と【義務】が与えられた。


 それは『魔鏡鐘』による暗号通信を受けること。[音波、音響]を操る『魔鏡鐘』によって信号化された姫長様の指揮に従い、兵卒として任務をこなすことだ。

 これにより『魔鏡鐘』を単なる攻撃魔術と考えて防御している三流術者が硬直している間に。

 下級シャドウたちは次に備え・露払いに従事できるというわけだ。


 「っ、これはっ・・・」



 敵アジトの床に転がっている賊たちは大半が身体中の穴から色んな体液を垂れ流して悶絶している。死んではいないが、まともに話せるようになるまで幾日かかるだろう。



 しかし問題は彼らではない。


 「「「…………」」」


 アジトの中心。そこでは幹部、腕の立ちそうな連中が真に呼吸を封じられていた。

 身の程をわきまえず姫長様に敵対したとも言う。


 「おい。生きているか?降伏するか?」


 ライゾウの問いに答えられる者はいない。だがそれも無理はない。


 『魔鏡鐘』に限らず風の魔術は空気に自らの魔力を混入することで[操作できる風]を発生させる。

 そして人間は肺呼吸だけでなく[皮膚呼吸]を行い。血液、体内に“空気の一部”を循環させることでようやく呼吸が成立する。


 「返答は無しと。つまり降伏する気もないと」

 「………」


 わずかに身じろぎした気配を感知したが気のせいだろう。

 何故なら姫長様の秘術である『魔鏡鐘』は上位の風魔導だ。その支配下にあるくうきは敵対者の皮膚・肺のどちらにも吸われることはなく。

 [魔術抵抗力を利用して、支配下の風を拒否させる。

 その拒否反応を利用して皮膚呼吸を封じてショックを与えたところで肺に侵にゅ・・・]




 [扇奈様!!見習いを脱したばかりの者に危険な知識を与えないでください]

 [そうです。これから成長する者の心に傷がついたらいかがなさいます!]

 [まあその時は運がなかっ・・・コホン。そう!雑兵が増えないと中級シャドウも・・・]


 [そんなことないわよ。下手な抵抗をあきらめる。風の支配を切り裂く。結界の生命維持を十全に整える。他にも『魔鏡鐘』に対抗する手段はいくらでも……]



 姫長様と側近シャドウの方々による会話がフラッシュバックする。

 上を目指す者の心をへし折るソレを記憶の彼方に封じライゾウは忠実に任務をこなす。


 「バカめがっ!この魔力けぇっ!?」


 『旋風閃』


 どんなザコでも異能の力、職人の秘術を得られれば事故きせきを起こせる。その異常が発生するのを防ぐべく。ライゾウは黙々と清掃部隊が来るまでの見張りを続けた。

 

 

 

 

 とはいえ山の神から恵みをもらう猟師にとって、世俗の争い、富など迷惑なだけかもしれません。


 では幻想世界ファンタジーの狩人はどうでしょう?遠距離攻撃は魔術師のほうが優れ。弓矢が剣の投擲に取って代わられているように感じるのは私だけでしょうか。

 特にひどいと思うのがギリシャ神話です。戦士の英雄に比べると【アタランテ】【オリオン】など狩人たちは武勇がぱっとしない。アタランテは手柄を男に譲られ、求婚者たちを殺害し。オリオンは怪物退治どころか半神なのにサソリに殺されるというありさま。

 そして大英雄ヘラクレスは強弓を放つ狩人の面もあるはずですが。怪鳥の群れを殲滅した逸話は例外的で。獅子に矢は通らず、ヒュドラの毒矢で師匠を死に追いやり自らも破滅しており。怪力戦士レスラーとしては大英雄なのですが、狩人・弓矢のイメージダウンに一役買っている気がするのです。

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