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78.風属性の二歩

 冒険者ギルド。それはヤクザな組織です。何故なら冒険者ギルドは依頼の【前金】を冒険者に払わない。安全な〈お使い〉ならともかく、高ランクの怪物討伐でそれはどうなのでしょう。


 傭兵、殺し屋ですら前金をもらっている。それらを統括するギルド・組織が前金を払って、所属している人員の依頼遂行や生活を支援しています。

 しかも最初に依頼を受けたものが失敗した場合。殺し屋を仲介した組織は赤字になりかねない。

 組織の利益になるはずの依頼料・仲介料をくずして二人目、三人目の殺し屋を頼む必要がある。というか組織の面子にかけて自腹を切って腕ききを雇い、依頼を達成しなければなりません。

 『アルゴスゴールド』という固有魔術がある。


 〈視覚に依存し、誰もが魔力を持つ人型種族は誰もが魔眼を持っている〉

 その根拠として魔眼は移植・簒奪件数が最も多い魔術器官だ。


 そんな法則に基づき、視線の魔力に干渉して他者の魔術を操作する。視線の魔力を無意識下で放ち自覚のない魔術師も。魔眼を所持する者も全て同様に翻弄し蹂躙する。


 それがシャドウたちの主君である聖賢イリス・レーベロアの偉大なる御力の一端だ。凡夫にとっては反則的な異能力に感じるだろう。


 しかしそれは誤りというものだ。




 「これはっ!?マズッ!」


 口調とは裏腹にイリスには余裕があった。敵勢力による超遠距離からの魔術攻撃の兆候を感じ。

 いつも通り術式干渉の『アルゴスゴールド』で《照準》をいじれば。破壊の魔力が放出される地点を操作し事実上、無効化できる。


 「この街はもうボクたちの支配領域だよ。そこで狼藉をはたらくなら・・・ツブしてあげる」


 もはやウァーテルの町はイリスの勢力下に置かれ。悪徳の都を征圧したあの日とは術式の強制力がけた違いだ。《攻撃魔術の使用禁止》の誓約によりアルゴスゴールドの射程、範囲に発動速度はヒトのレベルを超えており。


 儀式魔術だろうが魔導秘宝アーティファクトだろうがヒトに操れる程度なら対処できる。


 傲慢にもそう考えていたイリスは次の瞬間、背筋が凍った。


 「なっ!?」


 『アルゴスゴールド』が干渉している魔術式に火属性の魔力が介入しようとしている。

 その魔力はいびつであり、同時に記憶しているものでもあった。


 「カヤノちゃん?・・・せんっ」


 侍女シャドウの一員。扇奈の側近である三人シャドウの一人が自分と同じことを試みて・・・。


 違う!!自らを犠牲にして住民を護ろうとしている。その行為は尊ばれるべきこと。


 しかし今、この瞬間だけはマズイ。増長したイリスの魔術に巻き込まれれば、魔力の反転・反動で壊れかねない。イリスは初めて自らの魔術を呪った。アルゴスゴールドとて万能ではない。




 刹那より短い一瞬だけ


 「『アルゴスアイズ』!閉じてっ!!!!」


 後悔する暇があれば考えて動け。装備を活かし、仲間に頼るのがイリスの誓いであり望みだ。


 切り札の一つを発動して、間を置かずそれをキャンセルする。そのあおりで『アルゴスゴールド』も強制的に停止した。


 「マスター!!」


 「ボクは大丈夫。『それよりカヤノちゃんをっ!』」


 「ッ、かしこまりました。『お前たち。全員マスターの護衛につきなさい』」


 『そんなっ!お一人では危のうございます』


 軽率な主と心配する部下たちのやり取りが信号光術フォトンワードによって行われる。だが今は勝負に出るべき時だ。

 そもそも今の戦況は分の悪い賭けではない。勝って然るべき防衛戦であり、戦力差がある。


 『少々、お待ちくださいマスター。必ずやお望みをかなえてご覧に入れます』


 そう伝えてイリスの副官は凄絶な笑みを浮かべる。その瞳はアルゴスゴールドをもってしても干渉するのを避けたい類いのもので。忠実なシャドウたちの意見を一瞬で断ち切った。





 風属性の魔術。伝説の星光をのぞけば、四大陰陽の中で最も速い魔術だろう。

 しかし他を圧倒する神速ほどの速さはなく。他属性による加速も珍しくない。


 「大地を穿つ雷石よ。集いて四大を受け止めるさかづきと化し。饗宴に勝利をもたらせ『雷石花ライセキカ』」


 そんなとりとめの無いことを考えながら、扇奈は囮となる魔術の円盤を組み立てる。手慰みに会得した術式は発動も遅く、【編んだ】魔力と比べ構成もゆるい。

 できの悪い花火のように、夜の眠りを妨げながら空を飛んでいった。


 「さ・て・と。『旋風閃』翔!」


 瞬きの速さで扇奈は身体強化を発動させる。シャドウの誇りである魔性の法。彼らを束ねる姫長が振るうそれは一種の完成形であり。


 軽視されている【風属性の二歩目】でもある。風属性の一歩目を風を感じることだとすれば。

 その次は〈音響エコー〉〈風刃〉に〈気体成分の解析〉のいずれかだとシャドウたちは考えてしまう。


 しかしそれは《適切》ではない。魔術師ならともかく加速するシャドウにはふさわしくない。


 「ふふっ。見事よアヤメ」


 意図的に残されたアヤメの痕跡。『旋風閃影』で回転機動をとる際にできた魔力の残滓を見出し、扇奈の口元に笑みが浮かぶ。敵勢力の待ち伏せを突破しつつ、味方の救援を誘導する。

 見事な技に扇奈は心からの喜びにつつまれた。


 「この夜が終わったら私自ら奥義を伝授しよう。だからカヤノと一緒に生き残りなさい」


 〈奥技〉ではなく【奥義】。シャドウにふさわしい風属性の二歩目とは【風の法則】である。

 気体の流動である風は軽い。固体を吹き飛ばす強風と化す前の風は【壁にそって向きを変える(びるかぜ)】のだ。

 『旋風閃』という高速機動を行うシャドウにとって、この現象の持つ意味は大きい。

 何故なら転倒防止ちぞくせいにかかわるはある程度の意識を割いて防ぐ必要がある。


 しかし加速に伴う空気との【摩擦】対策、地形、建物との【衝突】はこの法則を参考にした術式で処理したい。

 人外の壁を超えようという次元ならともかく。中の下レベルに成長したばかりでチリ、水分や敵の散布したモノにいちいち意識を割いていたら。それらの対処に終始して何もできないからだ。



 [・・・中の下レベルの速さで摩擦対策は必要ありません]

 [・・・もう少し鍛えないと下級シャドウの身体ではもたないでしょう]

 [・・・姫長にはもっとやるべき仕事がありますから。修練は担当の者にお任せください]

 

 

 姫長の自分に遠慮なく意見を言う侍女三人。アヤメ、カヤノにミヤホたちは扇奈にとって得がたい友人たちだ。こんなところで失うわけにはいかない。


 「まずは報奨を出して。それからサプライズで奥義を教えればあの娘たちもきっと・・・」


 邪教に魂を売り渡した闇ギルドによる今夜の騒乱。その全貌はいまだ判明してない。

 

 だが二つだけ確定していることがある。


 一つはマスターであるイリス様が出陣している以上、勝利は確定しているということ。

 闇ギルドは悪徳都市を攻め落とされたあの日の戦闘に関する情報を集め。小細工を弄し、兵をかき集めているのを扇奈たちシャドウ上層は既に把握している。

 何より“陥落したあの日の情報”を収集している時点で、攻め手の闇ギルドは詰んでいるのだ。

 イリス様の【本業】を調べる動きがない。攻略と防衛に使う魔術が同程度と考えている時点で勝敗は決している。


 「そして防衛戦だから戦果も無しと」


 姫長である扇奈がこの戦いで得るものは少ない。むしろ損害が出ればそれを補償し、部下には恩賞を出す必要がある。

 しかもウァーテルは占領したばかりで利権もない状態なのだ。扇奈の私財を切り崩すしかない。


 【いつもの○○○○もウァーテル攻略前に行ってしまい、時期的に不可能】


 「だけどフトコロが寂しくなる代わりにできることがある」 


 その呟きを節目にして扇奈は加速させた思考による雑念を戦闘へと切り替える。

 そうして憐れな闇ギルドの戦闘要員たちに襲いかかった。



 『魔鏡鐘まきょうしょう


 それは無策で突撃してくる寡兵を城壁から狙い撃ちするよりも一方的な蹂躙のはじまりであった。

 

世の中、綺麗事だけではすみません。

 殺し屋を斡旋あっせんする闇の組織に傭兵ギルド。どちらも戦力を維持し、依頼から逃げられないようにする。そういう一石二鳥の打算で前金を払っているのでしょう。


 しかし命がけの仕事に対する仁義として、報酬の前払いをしている面も少なくありません。


 冒険者ギルドにそういう配慮があるのでしょうか?怪物に生きたまま喰われる。モンスターによってはそれより悲惨な終わりを迎える危険のある冒険者稼業。下手をすると刺客と比べても中の下くらいの待遇に感じます。

 傭兵・盗賊ギルドより薄情で、冒険者の市場独占をいいことに好き放題している。

 そういう強欲な商会に等しい冒険者ギルドは少なくないと思うのです。 

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