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71.アルゴスプリズムの正体~カヤノ

 鉱山。それは莫大な富をもたらす利権の山です。その財貨は勢力図すら書き換えかねません。

 山は時に怒り人の命を奪うこともあります。ですが鉱山のもたらす富は大勢の命ばかりか尊厳すら踏みにじりかねません。


 さてそんな鉱山にまつわる妖魔モンスター。最も闇が深いのは何でしょう。

「フッ、一斉蜂起ですって?自棄になって暴走するの間違いではないかしら」


 「「「ッ!?」」」  


 「我が名は『カヤノ・リフレイア』姫長、扇奈様の侍女を務める側近三人衆が一人」


 名乗りをあげつつカヤノは灯火の術式を二連発動する。それによって暗く澱んだ隠れ家の内部と、カヤノの姿が露わになった。

 のんきにお話していた幹部シーフたちを始末するだけならこんな演出は必要ない。だが捕獲するとなれば派手な火術シャドウとして振る舞う。護衛たちに火力重視の魔術師と思わせて、切り札は伏せておきたい。


 そのためわざわざ姿を現し、名乗りにかこつけて言霊を放ったのだが。


 「ッ!?オンナ一人か?」

 「ケッ、驚かせやがって」

 「ちょうどいい。憂さ晴らしに相手をしてやる」


 「・・・・・」


 連中の護衛たちがため息を吐き出したのはカヤノの幻聴ではないはずだ。

 下級シャドウにすら敵わないチンピラ三匹が、中級シャドウでも上に位置するカヤノに対して妄言を垂れ流している。


 この戦況でそんな思考ができるお気楽三名にあきれつつ。カヤノは突拍子もないと思っていた、《ウワサ》のことが脳裏をよぎる。


 とはいえ今はこのアジトを壊滅させることが最優先だ。カヤノは腕の立つ護衛ごと連中を無力化すべく、火属性の《呪術》式を発動させる。


 「闇の中で私たちシャドウに勝てると思っているのかしら?その愚かさを煉獄で後悔しなさい。


  『緋水晶』」


 邪法によって魔術儀式を圧縮・簡略化して放つ《呪術式》。

 『緋水晶』の場合は〈夜間限定〉の条件に加え、術者であるカヤノを灼いて放たれる。そんな魔性の術は貪欲に犠牲者を呪縛していった。

 本来ならそれなりに善戦して、捕獲が困難であろう護衛チームもカヤノが操る呪術に飲み込まれていく。


 「見えないっ!何も見えないっ!」「落ち着け!こんな目くらましが長続きするはずがっ!?」

 

 『緋水晶』その効果は複数人の視覚を封じるものだ。ただし煙、閃光や灼光線ビームの類ではないし、闇魔術など論外である。


 「チィッ!夜目が回復するまで気配をさぐるしかっ!?」

 「魔力を目に集中させろっ!そうすれば呪縛も解け・・・ッ!?」

 「オイ、誰かっ!誰か魔術に抵抗できた奴はいないのかっ!!」


 護衛対象であるシーフロード三人の動揺が、護衛たちにまで伝播していく。戦場、夜間戦闘をこなし、ウァーテルの闇を生き抜いてきた腕利きたちが視覚を封じられる。

 その事実にカヤノが抱える闇の深さを予想した者たちは心底、戦慄しただろう。



 「抵抗は虚しいわよ。この場で『緋水晶』から逃れられる者はいない」


 「なあっ!?」「バ、バカな!!」「そんなこと、あるはずがっ!」


 かしましい連中を無視してカヤノはアレンジした『旋風閃』を発動する。そうして毒蛇の嗅覚を得たカヤノは長虫の閃手で急所を突いていった。

 当分の間、盲目の不自由に束縛された集団にそれを防ぐ手立てはない。


 「ハッタリだ!全員が目つぶしの類にかかるはずがない!!」


 探りのセリフを吐く護衛の言葉をカヤノは胸中で肯定してやる。確かにカヤノ程度の技量では敵の領域で視覚を封じる呪術式に依存する危険は大きい。



 しかし呪術の対象者より大きなリスクという対価を払い。敵の力を利用できれば。


 カヤノというシャドウの魔力でも『緋水晶』の効力を十全に発揮できる。


 「アナタで最後と。まともに戦えばそれなりな腕なのでしょうけど。


  盗賊ギルドの飼いイヌとなった己の不明を悔いなさい」


 「なっ!?ばっ!!」


 閃手が伸びるその時まで視覚の回復に努めた護衛も倒れ伏す。


 彼らには理解できないだろう。自らの瞳を封じる代償によって、自爆に近い概念の呪術式を発動させた。カヤノという側近シャドウの覚悟と狂気を。



 そして同時に絶望することもない。

 完全に意識を狩り取られた闇の住人たち。連中は《夜目がきく》という本来なら長所となるスキルを逆利用されたという事実を知ることもない。


 《夜目がきく》というのは暗闇の僅かな光に過敏になり光学情報を集める。肉食獣の瞳と同じように明るい昼に視力低下することを代償に、暗闇を見通す《目》を得るということだ。


 《暗視》の技、魔術を修めた者にはネコ瞳のように入る光量を調節できる者も存在する。だが先人の技を継承するどころか、意識して夜間戦闘の修練をしていない。

 “何となく”の我流、“暗がりで闇討ち”を繰り返して《夜目がきく》ようになった連中の暗視には限界がある。


 「そんなことだから私の呪術式『緋水晶』を防ぐこともできない」


 未熟な暗視能力は無防備に光を求め。そして得た光を増幅することで夜に視界を得る。


 それはカヤノが放ち呪力が込められた燐光を安易に眼球に取り込んでしまう。

 カヤノの呪力を《被術者本人が望んで取り込んでしまう》ということだ。


 そこまで無防備な相手の眼球に盲目の呪縛をかけることは二流魔女のカヤノでも可能だろう。



 「まあ、それ以前に聖賢の御方様から下賜された力を振るっているだけなのだけど」


 いつか【自らだけの力】と誇れる技を行使して見せたい。大恩を返し、自らの有用性を証明して、華のごとく輝きたい。


 そんな野望を抱きつつ。カヤノは課された任務を果たすべく、部下たちを呼んで指示を下した。






アルゴスという魔導がある。他の魔術に干渉、もしくは教導する重要な魔術式。


 《どぶ川のお掃除》にその『プリズム』をイリスが使った。そんな話が広まって半狂乱になるのはおそらく忠臣や血族ばかりではない。神秘を尊ぶ者たちなら少なからず動揺するだろう。


 よってその“正体”はどぶ川の汚れを分離する。軽目の汚れをライトのように浮遊させて水面にアクのように漂わせる。比重のある汚れは光装甲の重さを付与して水底に沈澱・固着させる。


 そうしてアルゴスプリズムは《どぶ川のお掃除》に有用な魔術ということにしよう。

 【浄水装置】の製造・整備も今の状勢では困難だ。当分の間は飲み水作りを補助する魔術ということにしよう。


 


 そんな偽装シナリオが完成してから休む間もなく。

 イリス様に呼ばれ扇奈、イセリナ腹心二人は魔導に関する書類を速読・精査していた。


 書類の内容は【真】なる『アルゴスプリズム』の使い方・応用方法に関する意見をまとめたもの。

 既に《どぶ川のお掃除》を行った偽装シナリオの術式ではなく。


 『通常観ている視界を封じることを代償に。

  特定の物質や魔力を視るための【眼鏡】を一時的得る』


 魔術プリズムを観ることで視界は遮られるが。その魔術プリズムには不思議なものが映り、術者はそれを見ることが可能となる。


 単発の『発光』術式では水に溶けた汚れに魔術をかけることはできない。何故なら術をかける対象・汚れが〈見えて〉いないから。

 イリス様は『アルゴスプリズム』でどぶ川の〈汚れのみ〉を視認できたから。『発光』を〈汚れ〉にかけて水面に浮かせ、沈澱させるという干渉ができたのだ。


 「だけど〈汚れ〉以外にも見るべきものはあるはず」


 「ボクやイセリナたちC.V.には思いもよらない。知恵の閃きを人間のみんなから得たい」


 「それで書類による意見徴収アンケートでございますか」


 それは珍しい試みだった。シャドウの技に限らず魔術、戦闘術はとにかく秘匿するもの。そうして心理戦の手札に使ったり、実戦で切り札となる瞬間を待つのが常道だ。


 「そんなことをしたらみんなにまで不審を与えてしまうよ。


  ボクみたいな偽英雄にとってそれはデメリットが大きい」


 「敵からの能力対策など三手先、五手先を読めばいいだけのこと。それより連携による手札を増やすことが重要だわ。

  まあ参謀としては普通だと〈誤認〉させるための、手札隠蔽はしてもらいたいけど」


 「・・・まあシャドウの長としては光栄でありがたいお話です」



 この世界には未知の怪物が闊歩している。さらにそれらより強い暴力があり、両方を操る理不尽が潜んでいる。


 そんな中で偵察、戦闘の両方をこなすシャドウたちが【幸せ】を得ようとすればどうなるか?


 四六時中、理不尽によって付け狙われるか。

 あるいは「世のため」と言われ最前線で使い潰されるか。


 どちらになるか扇奈は知りたくもない。だからこそシャドウの姫長としてイリス様に賭けて忠誠を誓ったのだ。

 そしてその決断はうまくいっている。


 「確かにシャドウにこそ『アルゴスプリズム』は有用でしょうね。


  『プリズム』の下位互換を貴方たち会得できれば。限定的とはいえ《解析・分析》の術式が使えるようになる。そうなれば・・・」


 闇討ち目的の諜報活動とは距離を置くことができる。

 そんな汚れ仕事をしなくても、《解析》で他人の気づいていない富・情報源を見出せれば。

 ささやかな名誉、やりがいと生活の糧を得られるだろう。


 イセリナの言葉に扇奈はほおが緩むのを必死にこらえる。そうしてよりいっそうの忠誠を誓う視線をイリス様に投げかけたのだが。


 「マスター?」


 敬愛するマスターは一枚の書類を凝視していた。正確にはまばたきの静音詠唱で思考加速を行い。


 書類の内容に伴うメリット、リスクに可能性を予測演算していた。


 それに対し扇奈、イセリナの二人は書類を読む手を止め。主君の決断が下るその時を待つ。


 「現状の書類精査を停止!及び今夜、行われている盗賊狩りも中止する。


  『扇奈、大至急カヤノたちを呼び戻して!!』」


 「はい、姉上」


 「っ!?」


 短く返答してイセリナが読みかけの書類を片付ける。


 それとは対照的に扇奈は一瞬、動揺した。そうして部下に連絡する術式を放ちかけて。


 『マスター、私の侍女が何かしでかしたのでしょうか?』


 イリス様と同じ暗号強度のフォトンワードで主君に事実の確認を行う。

 この件の重要性を確認して。術式ではなく適切な人員で〈カヤノ〉を呼びつける必要があるか判断するため。


 そうして珍しく興奮しているマスターを落ち着かせる必要性を感じ。

 扇奈はこの場にいる三人専用の光信号魔術を使って話かけた。


 それに対してイリスは興奮どころか喜色満面で答えを返す。


 「っ!?コホン。

 『緋水晶だよ!カヤノちゃんのこの呪術式を改良して魔神を倒す。

  そんな奇跡の聖女になるんだよ!!』


  ボクたち三人で迎えに行こうか」


 「「・・・・・かしこまりました(マスター)」」


 

 どうやら事態は扇奈たちの予想をはるかに超えている。そう確信して扇奈はシャドウたちに号令をかけることにした。





 


 

 私は“小人”だと愚考します。

 

 鉱山、鉱床に関わる小人。それは最悪に近い児童労働が行われていた可能性があるのではないでしょうか?

 地中を大きく掘るのは大変です。そのため小人コドモが入れる細い坑道から採掘を行う。


 ドワーフのような腕力がなく。ノーム?の魔術もなければ、北欧小人の神器製作もできない。

 素速いのが取り柄で、人間から代価を得ていないのに鉱床の在処を知らせてくれる。


 そんな都合のいい“小人”が利権渦巻く鉱山に果たしているのでしょうか?

 “おとぎ話”はともかく私でも知っている幻想【世界】にはいないようです。妖精の名前はあっても鉱山からは切り離された別物になっていると思うのですが。


 とりあえずSFはともかく幻想世界でリアル鉱山は勘弁して欲しいです。

 御大のドワーフ、昨今のブラウニー。どちらも素晴らしい“亜人”だと考えます。

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