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68.路地裏の狂騒曲

 西方~東方に限らず。異なる文化がそれぞれ伝播する際に、誤認・誤訳されて伝わる時があります。


 例えばインドの武器〈ジャマダハル〉はかなりの年月〈カタール〉の名で呼ばれていました。

 まあ誰の迷惑になるでもない笑い話。もしくは私たちが同じ落とし穴にはまらないよう、教えてくれたエピソードだと思います。

 唯一に近い情報源で誤訳があったら、私はそれを鵜呑みにしてしまうでしょう。

 

 悪徳の都と言われていたウァーテル。

 そこでは新たな支配勢力であるシャドウたちが、敗者のシーフたちを掃討する作戦が続いていた。


 「どうした、どうした!ここはキサマ等のホーム。お得意の実戦とやらを教えてみろ!!」


 「ぐっ、このっ」


 「いい気になるなよ、若僧ごときが。盗賊の強さというものを思い知らせてやる!」



 もっともそれを《掃討》作戦と言えるかは極めて疑問だ。


 『旋風閃』という切り札に近い魔術を封じたレッサーシャドウ。【彼】が単独に近い状態で、体術をメインに戦う。


 一方の盗賊たちは路地裏という慣れた場所で包囲を行おうとしている。加えて士気は高く、追い詰められた境遇ということもあり。盗賊ギルドのメンバーたちは必死であり手段を選ぶ気はない。

 手負いの蛇にして猫をかむ窮鼠。シーフギルドの連中がシャドウたちに対してジャイアントキリングを成し遂げる条件は整いつつある。


 だが実際のところシャドウの連勝は続き、盗賊ギルドのメンバーたちには敗北感が漂っていた。

 "再戦しても勝てはしない"という絶望感が。


 

 「フォーメーションを組め!」「「「おうっ!!」」」


 リーダーのシーフロードが部下たちに号令をかける。それにより三人が前衛を務め、後衛の一人が短弓を構えた。シャドウの跳躍力に対抗するための飛び道具だろう。

 さらに前衛の中央は腰だめにダガーを構え、左右の二人はそのサポートにつく。一見武装はダガーだけのようだが、衣服に不自然なふくらみがある。隠し武器か、はたまた魔術関連の防具なのか。


 連中と相対する下級シャドウの感覚では見透かすことはできなかった。



 「もう、逃げられんぞっ!てめぇを血祭りにあげぇ!?」

 「なっ」

 「ばっ」


 だから素速く攻勢に出た。ここは路地裏でありたくさんの壁がある。

 その壁にサラマンダー(火の精霊でない動物)のごとくはりつき、猫のように構えをとった。

 たったそれだけの曲芸じみた動き。足場の悪い迷宮、洞窟内において機動力を生かすために必須の技能。


 しかしそれを目の当たりにしたシーフ連中は、憐れなくらい動揺していた。


 前衛たちの頭と同じ高さの壁にはりついたシャドウに対し。ダガーを構えた盗賊たちはその短剣を切り上げるか、跳躍するか。はたまた隠している切り札を放つか迷っており。短弓を構えた後衛は前衛の頭に誤射しないかと、矢じりをゆらして不安を露わにしていた。


 「おいおい、もうメッキがはがれたのかよ。屋根まで飛び上がる《最下級》シャドウと戦う訓練しかしてこなかったのか?」


 「だ、黙れっ、おいっ!」

 「ッ!」

 「クソがっ、死ねぇ!!」


 すでに平静を失った奴等はそれなりの連携すら満足にできない。

 胸元や腕甲に手を伸ばしてがら空きになった頭三つに、シャドウは壁を蹴って肉食獣のように襲いかかった。地面と水平に跳んだ影は両手の短刀で中央と右にいる盗賊たちの顔面を切り裂く。


 「わっ、ヒッ、当たれぇ!!」


 そうして前衛三人の包囲を抜けたシャドウを狙い、短弓持ちのシーフが狙いをつける。

 だが斬閃からの着地と同時に地面へと伏せたシャドウを射る射角をとる技量など、にわか弓兵にあるはずもなく。


 初撃を外した盗賊の短弓使いが次の矢を放つ前にシャドウは瞬時に間合いをつめた。


 「ヒッ!?」

 「ッ、伏せろっ!」


 そうして重なった影に対して生き残った前衛シーフが振り向きざま、腕甲からのコンパクトボウを放つ。その一射は血のにじむ訓練どおりの射線を描き、標的を屠る確信を盗賊たちにもたらしたのだろう。


 「「・・・(ざまぁみろ)」」


 特製のコンパクトボウは標的ばかりか後衛シーフをも貫きかねない。そう理解しながらも盗賊たちは瞳に昏い愉悦を浮かべていた。






 「ッ!、なめるなぁ!!」



 だから下級シャドウのライゾウ。この一ヶ月で最下級から下級シャドウへと昇格したライゾウは盗賊たちの昏い愉悦を断ち切ることにした。


 今さら『旋風閃』を発動しても手遅れ。ならば後衛シーフとの間合いを詰める勢いのままに掌打を放ち。掌打が短弓持ちに当たった瞬間に全身をひねりえぐり、賊の体勢を崩して弾く。


 そうして後衛シーフを突き飛ばし、その反動で体勢が崩れる衝撃を利用してライゾウも転がる。妙なひねりによって利き腕に負荷がかかるも、それを代償に下級シャドウは紙一重でコンパクトボウの射線から逃れた。

 


 「なっ、バカなっ!」


 「残念だったな。命を賭ければオレを仕留められるとでも思ったのか?」


 勝者のセリフらしきものを吐きながらもライゾウに余裕はない。利き腕はしびれ、しばらく使えないだろう。それは全身を連動させての妙技も使用不能になったということだ。


 ステータス頼みの技でどこまで戦えるか。いっそ撤退すべきか。


 素速く頭を回転させながらもライゾウは助けた後衛シーフの戦闘力を完全に奪うべく、すり足から蹴りを放とうとする。命は助けたが、それで寝返ると考えるほどシャドウの頭はおめでたくない。


 そんなライゾウに対して生き残りの前衛シーフは素速く動いた。




 「降伏だ!頼む命だけは助けてくれ!!」


 「・・・はい?」


 両手をあげて戦意が無いことを示す降参のポーズ。だが隠し武器モドキの腕甲を持つシーフの言葉を鵜呑みにはできない。

 そんなライゾウの考えはすぐに察せられた。


 「降参の言葉が信じられないならオレはどうなってもいい。だからその娘だけは助けてくれ!」

 「なっ!?なにを言っているのですか兄さん」


 「・・・・・」


 こんな愁嘆場で非情になれるほどライゾウたちの心は凍り付いていないし、訓練も受けていない。

 ライゾウにできることはせいぜいもったいぶって降伏を受け入れることだった。







 それに最初からこの二人は生かして捕らえる予定だった。


 何故ならそういう『シルシ』がつけられていたから。





 

 


 

 それにファンタジーでは誤訳のままのほうが良い案件がいくつかあります。


 例えば《ラミア》は半人半蛇の亜人やモンスター。あるいは〈カーミラ〉の名と混ざって女吸血鬼の名前と化しています。

 それを「間違いだ、本当は・・・」などと賢しげに騒いだらドン引きする狂女の神話が出てくるだけで、たいていの人は気分が悪くなるでしょう。


 「アルゴス」の能力を利用させていただいている。その主君女神も「成長した悪役令嬢みたいだなぁ~」と愚考している私にとって。

 半人半蛇のラミアはありがたいばかりです。

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