表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/441

67.狂騒、狂想、協奏曲

 《楽市楽座》戦国時代に商業を活性化させた画期的な政策です。税を軽減するなどして商人を集め、経済を活性化させる。

 とってもよさげな政策ですが、私が子供のころ歴史漫画で知った《楽市楽座》はそれとは少し違っていました。


 〈欲深な生臭坊主が商人に(税)金(みかじめ料)を要求している。そんな坊主の特権を無くして自由に商売ができるようにする〉

 昔の楽市楽座の説明はこんな感じでした。僧兵に次ぐ〈生臭坊主〉の重税から織田信長が解放する。そんな風に記されていました。

 ウァーテルの港町を占領したイリスの軍勢。

 そのトップによる〈どぶ川のお掃除〉という奇行を目の当たりにした住人たちの間では様々な憶測が飛び交っていた。


 〔影武者ではないのか〕〔呪いによって発狂した〕〔魔術の実験材料を集めていた?〕


 そんなウワサを聞いた者たちは更なる噂話と妄想の花を開かせて。少なくない連中がイリスたちを中傷する流言飛語を放つのは当然の流れだろう。

 何故なら《ウァーテル攻略》でイリスたちが倒した闇ギルドの連中は武闘派と言われるごく一部の集団のみ。そして後釜を狙う盗賊組織がシャドウたちを挑発しつつ探りを入れる。

 さらに政庁に少人数で突入したイリスの武勇を貶める。


 昨今は"広報戦"と呼ばれる頭のヨさげな戦場での戦いに誘導する。情報戦を得意とするシーフたちがそうするのは自然なことだろう。

 下手に暴力でその口を閉じようとすれば。恐怖政治を連想させて住民に嫌われるのも盗賊ギルドにとって好都合である。




 そうして一週間が過ぎた。


 「やいやい、てめぇっ。誰に断ってここで商ばっ!?」

 「おいっ!?どうした、しっかりしっ!ギャバァァァ!?」


 市場の露店からみかじめ料を徴収しようとした。ゴロツキのルールをふりかざした者がセリフ途中で倒れふす。それを助け起こそうとした相方は飛び蹴りによって地面との接吻を強要された。

 そして連中は有無を言わさず引きずられていく。立たされることも無く拘束されることもなく。

 引きずられるぼろ布以下のあつかいを受け、無様を晒し続ける。

 

 「鈍いというか、学習しないというか」

 「性根はケダモノだが、知性も獣なみだな」

 「そうかしら?獣なら実力差を察するし、一度痛い目に遭えば近づかないものだけど」


 「ハハッ、ヒヒッ」


 ゴロツキたちを瞬殺し淡々と会話するシャドウたちに嘲りどころか勝利の余韻もない。

 彼らにとって賊の戦闘力など踏み砕く泥球以下なのだろう。


 それに対し助けられた露店の主は乾いた笑いを浮かべながら恐怖と脂汗で顔面を歪ませていた。

 助けられた感謝の念を笑みで表そうとして失敗を繰り返す。


 「そういえば最近、シーフ連中が無い知恵を絞り出して策を練っているらしい」

 「へ~え。どんな?」

 「屋台、行商や大道芸人に化けた奴等に難癖の自作自演をするらしい。そうして偽商人がひどい目にあったら俺たちに治安を保つ能力はないと悪口をばらまくとか」


 「ふ~ん。ソレじゃあもっと本気を出さないといけないわね。"露店"が荒らされないようにガンバらないと」


 

 「ハハッ(バレてる)ヒヒッ(ヒきサかれる)」


 たったの一週間。それが過ぎるころにはイリスたち幹部どころか下級シャドウ、重騎士たちに対しても悪口を言う者は消え去った。



 その理由はシャドウたちの巡回警備がひたすら恐ろしいからである。



 機動性に優れた身体強化の『旋風閃』。それを使うシャドウたちが屋根の上、路地裏の死角を疾走して犯罪を取り締まる。

 それはウァーテルのあらゆる住人たちにとって想像の埒外な凶悪迷宮であり結界だった。見え隠れする猛犬がオオカミ以上の速さで連携してくる。そんなバケモノがうろつく場所を迷宮と言わずして何と言おう。


 その猛威は盗賊ギルドと【下級シャドウ】たちの実力差を住民の心に改めて強烈に刻みこんだ。


 

 「とりあえず先程から一部始終を見ているギャラリーに観覧料を払ってもらおうかしら


  そこで見ているキミだよ、キミ」


 「ッ、ヒッ!?」


 「ほい、つ~かま~えた」


 女シャドウの言霊と視線に見物人たちは総じて動揺する。

 そんな中で動揺を押し隠そうとして瞳を揺らがせた一人の眼前に下級シャドウが跳躍した。続けてみぞおち・アゴに拳打をたたきこんで一切の行動を許さず捕縛する。 


 「おっと間違い。

  ギャラリーじゃなくてウオッチャー。観覧料じゃなくて命で払ってもらうんだった。


  ゴメンねぇ。見物している皆さんは戻っていいよ~」


 「「「「「・・・・・」」」」」


 目が笑っていない笑顔な女シャドウの宣告に市場の者たちは散っていく。余計な口を開くことなく日常に戻ろうと、平静を取り繕う。


 一人を除いて。


 「もちろん、キミは別あつかい。露店を副業にしていた賊にはやってもらうことがある」


 「ハイッ、何でもお申しつけください!!!」


 この後に及んで命乞いや三文芝居をやっている場合ではない。シーフギルドの一員は生き残るため全力で降伏の意を示した。


 「そっ。じゃあ"三人"で《どぶ川のお掃除》をしてもらいましょうか」

 「えっ」

 「ギャヒィッ!?」「ゴッ、ガァッ!!」


 降伏条件の内容をココロが理解する前に。ゴロツキ役の二人が蹴り飛ばされて舞台に戻ってくる。


 「〈えっ〉じゃないわよ。聖賢の御方様が自らお手本を示された。

  姫長をはじめとした幹部の方たちもご一緒に浄化を手伝い、私たち下級シャドウも働いた。


  だったら貴様たち盗賊ギルドのメンバーが罪を浄化するために。やるべきことはな~にぃ?」


 「えっと、その全財産をシャドウ様たちに捧げることでございます!」


 「ハズレ」


 そう言ってシャドウたちは盗賊ギルドのメンバーだった者たちの足を魔術糸で縛り二人三脚ならぬ、三人四脚の状態にしていく。

 この状態では逃げるどころか用をたすのも一苦労だ。


 やれることといったら見せしめの舞台で演じること。

 《どぶ川のお掃除》はみんなでやるべき《大事なお仕事》だと知らしめる演目を踊ることだけだ。


 「それじゃあいこうか。

  大丈夫だよ。ちゃんとどぶ川まで荷車に乗せて連れてってあげる。


  そうして《水路の掃除なんて最底辺の奴隷がやること》なんていう考えが二度とできなくなるまで働かせてあげる」


 「「「ッ!?」」」

 「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」


 一瞬で市場の空気が凍りつく。そして間を置かず毒沼のごとき狂気がその場を侵蝕していった。




 


 その夜。市場の束ねる代表たちは満場一致でイリスに恭順を誓うことを宣言する。



 「無礼者」


 「ヒッ!」


 「こらこら扇奈。早いほうがいいって訪ねて来てくれた人間を威嚇しない。

  ボクたちは貴族じゃないんだし、面会のルールも周知してなかったしね。


  それにちょうどよかった。ちょっと相談があるんだけど」


 「何でもさせていただきます!!!」




 かくして本命の浄化作戦が始まった。








 イリスとシャドウたちがどぶ川のお掃除をしてから数ヶ月後。



 ウァーテルの町ではそこら中で新商品が売られていた。


 「さあさあ、安いよ!澄んだ水で作られたパンにスープ!腹がいっぱいになるだけでじゃない。


  香ばしくてお腹にたまった悪いモノまでキレイにするよ!!」



 「中古の服。だけどライトの魔術をかければあら不思議!?


  一夜の姫君と成って狙いのオトコを落とす!そんな魔法の服が買えるのはここだけだ!!」



 「今はやりの光魔術。それを唱えるのに必要な魔術書、杖にタリスマンだ。


  魔術師になれなくても新しい商売を始められる。このチャンスを逃す手はねぇっ!!?」



 ライト・明かりの術式に関連した新商品が作られ。それらが既存の店では足りぬとばかりに露店が作られ、そこかしこで売られていた。

 その活気はすさまじく、まるで祭りが始まったかのよう。

 つい先日ウァーテルの支配者が力によって替わったことなど忘却の川に流されていた。


 それは戦争ならぬ、ライトの魔術による【特需】だった。

 下流で人工も多いウァーテルで飲み水を得るために、今までは多大な労力が必要だった。というかそんな暇はなく、汚水に近いモノをすするしかなかった。

 加えて上下水道、《地下水路(の隠し部屋)》を支配する闇ギルドが水の利権を独占しており。

 弱者は水の確保も飲むことも命がけだった。


 それが一手間かけるだけで【綺麗な水】を得られる。

 見習い魔術師たちでも水の汚れに『ライト』の魔術をかけてゴミを水面に浮かび上がらせることは可能であり。そうして水と分離した汚れを取り除くことは誰にでもできる。


 さらに関連した商売が連鎖して始まり雇用が産まれる。

 【綺麗な水】を使った料理は香りが良く安全で美味しい。さらに薬師、錬金術師が【綺麗な水】を安価で入手できれば薬品の調合もはかどる。

 医薬品だけでなく触媒となる薬品が増えれば。染め物、化粧品に魔術の道具など触媒を必要とする様々な産業が盛んになってくる。



 「おい、小僧ども。駄賃をやるから水の汚れ取りを手伝え!」


 「素材は言い値で買い取るぞ!このチャンスを生かせばうちの商会はもっと大きくなる!!」


 産業が盛んになれば商人が集まり、さらに人手が必要となり。

 その好循環がウァーテルに富と活気をもたらしていた。


 

 さて戦国の世。僧たちには重要な役割がありました。停戦の仲介です。


 略奪・放火が戦術の一つであった山賊より凶暴な戦国武士。この連中に一瞬でも信用のある和平を結べるはずがありません。それなりの大名なら外交担当の家臣も雇えるでしょうが、豪族ににそんなものは期待できないでしょう。

 よって仮にも停戦を結ぶには僧の仲介は極めて重要です。


 そんな僧ですが荒れ寺にボロの僧衣では即席外交官の権威が保てず、情報も集められません。先立つものが必要です。


 ではどうするか?聡い商人から税金を徴収する。その軍資金で身なりを整え、学び権威を高める。宗派の情報網を使い権威で圧力をかけ停戦させる。いずれ破られる停戦だとしても開戦の情報を集められれば。商人たちの被害を抑える警告を出すことも可能でしょう。


 やり手の商人たちが利益ゼロで僧に金を払うなどということはありません。山賊武士への対策で、宗教の庇護を受けるためお礼を払う必要がある時期もあったはずです。


 とはいえ天下を統べる覇王にとってはそんな宗教団体は邪魔でしかありません。金に魅せられてしまい堕落した生臭坊主も少なくないでしょう。

 ですので坊さんが商人から金を徴収していたのは、戦乱の世を生き抜くのに必要だった。戦国が終わったら商業の邪魔になった。その程度に考えればいいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ