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64.カオスな侵略 

 グール。この名を持つモンスターから皆さんは何を連想するでしょう。

 昔はグール=餓鬼でした。飢えや渇きに苦しむ亡者。餓鬼道に堕ちた者が現世に迷い出てくる。

 そんな餓鬼の実体あり西洋版がグールというイメージでした。


 身体が破損していない、食欲優先なゾンビの進化・強化版が幻想世界のグールでしょう。

 ウァーテルの町を占領したカオスヴァルキリーと配下の人間たち。そんな彼らが真っ先に行ったのは大掃除だった。


 「この町の空気は澱んでいる。マスターが呼吸術を四六時中使い続けなければならない風は浄化されるべきだ」


 「汚れているのは空気だけではない。姉上の召し上がる食事にはきれいな水を大量に容易に入手できる結界が必要だ。そのためにスラム、悪徳ギルドの両方が不要だわ」


 「「「我ら一同姫長、団長の意見に賛同いたします!!!」」」



 こうして悪徳都市から全てを奪う。血みどろの浄化作戦と呼ばれる企画が発動する。





都市ウァーテル。退廃の空気が漂いながらも活気があった町並みは閑散としていた。


 理由は一つ。ウァーテルの支配者が闇ギルドからイリス率いる軍団に替わったから。


 "旧態の支配者を打倒する""残党を狩る""勇敢な兵士に恩賞を出すため"


 建前と理由はいくつかある。だが戦の決着が【交渉メインの降伏】ではないのだ。

 そのため万に一つも略奪がないということはありえない。


 命がけで戦う兵士たちに報い、次の戦いに備えるため。財貨を得ることで豊かな平穏を得るため。無力な民を踏みにじり、直接/間接の双方から死に追いやる"略奪"は戦士たちにとっての祝盃となるのだ。


 「よし、まずはこの建物いくぞ!」


 「「承知!!」」


 鎧をまとい完全武装の騎士たちが建物に重量のある武器を振り下ろす。その攻撃は扉、壁を砂山も同然に次々と打ち砕き。


 「「「構えっ!合わせっ!!ハンマースタンプ!!!」」」


 「ヒィッ!?ヒィ-~ー」


 仕上げの同時攻撃で柱をへし折って職人たちの血と汗による成果を更地に変えていく。その行動にためらいはなく一切の容赦は感じられない。


 よって建物が崩壊する寸前に飛び出してきた悲鳴の主は腕利きと言っていいだろう。

 建物と運命を共にしていない。隠し通路から脱出を試みて生き埋めになった連中と比べれば、はるかにましだ。


 万に一つな〈生存〉の可能性があるのだから。


 「ぬっ!?逃がすかっ!!」


 「放っておけ!我らは埋まっている者を掘り出すぞ。そうしたら次の賊共のアジトだ」


 「そうそう。足の速い賊の捕縛は我らの仕事ではない。次だ次!」


 そう言って重騎士たちはがれきの山を掘り返す。その瓦礫はまさに闇ギルドの棺と墓場を兼ねていた。連中を死に体と化し、権威の終了を内外に知らしめる。


 「う、あ・・・」


 「ほう、息をしているとはなかなか頑丈だな。そのしぶとさを奴隷となって生かすがいい」


 穢され掘り返されたあげく白日の下でさらされる。冒涜された墓場そのものだった。






 「・・ッ・・ッ・・・・・!」


 「待て~い、待てっ!待ちやがれっ!!」


 スラムの一画。そこでは捕り物が行われていた。追うシャドウと逃げるシーフ。


 どちらも軽装な職の一つだがそれらを見分けるのは容易なことだ。


 《強いのがシャドウで弱いのがシーフ》


 たった数日、実質一日のウァーテル攻略戦でその情報・イメージは都市の隅々にまで広まる。

 きっと数ヶ月もすれば周辺国にまでそれは広まるだろう。


 実際、多人数のシーフが一人(にしか見えない)シャドウに戦闘で圧倒される。盗賊の強みである走る速さ、身軽さ全てでシャドウが上回る。

 なおかつ連携してシーフギルドを追い回し、アジトを突き止めて壊滅させるシャドウたちを目の当たりにすれば。


 本物の乞食から権力者に至るまで。ウァーテル全ての住人がシャドウの実力を認めざるをえないのは当然のことだろう。


 「逃がすかっ!止まれっ!!っと・・・」


 「・・・ッ!?ヒィ、ヒィ~~」


 「どうしたっ!アジトに逃げ込んで逆襲しないのかっ!!」


 だから大声を上げながらシーフを追い回すシャドウの捕り物は不可解であった。


 そもそもシャドウの機動力なら少し腕の立つ程度のシーフに逃走など許さない。攻略戦の最中ならともかく今のウァーテルで下っ端が逃げ込める建物は破壊され続けているのだ。

 

 闇ギルドの拠点探しのためチンピラを走らせる戦法は既に終了している。


 「・・・やれやれ。鍛え方の足りない奴だ」


 「ッ!?」


 体力の限界に達しつつあるシーフに対しシャドウは毒針を放つ。

 それは憐れな獲物の首筋に刺さり、毒液を注入してから地べたに落ちる。


 それを素速く回収するシャドウの視界から"は"シーフの姿が消え去った。


 「ほう、やればできるじゃないか『すごいなあ、限界以上の力を発揮して逃げたんだなあ』」


 「「「「「「「「「「・・・・・?」」」」」」」」」」


 「『これは大変だあ。逃げた賊・シーフを追いかけるために情報を買わないと!!』」

 

 風の術式で拡声した声がスラムに響き渡る。その発生源では周囲からよく見えるように銀貨が宙を舞っていた。





 「それで?」


 「申し訳ありません。失敗しました」


 「・・・・・」


 「この、愚か者がぁーー!!」


 ウァーテルの正門。そこではイリス、扇奈トップ二人の眼前で一人のシャドウがひざまづいて情報収集の失敗を報告していた。


 正確には魔術、シャドウの技によらない情報集め。あまり異能に頼りすぎては魔族あつかいされるので、金銭による交渉を行い人間らしさをアピールしよう。


 そういう大事な広報戦を失敗したと言うべきか。銀貨を宙に舞わせ、見せびらかしたあげく。

 スラムの住民から反感を買ったり、交渉の初歩もわかっていない醜態をさらしたとも言う。


 間違いなく失態であった。シャドウを束ねる姫長の扇奈が激怒するのは当然だろう。



 「まあまあ、扇奈。そんなに怒らなくても」


 「ですがっ!」


 「『密偵の技より機動力、戦闘力を高めるよう求めたのはボクだから。この件は勇馬君だけの責任じゃないよ』

   これから楽しい楽しいお仕事があるんだから。勇馬にはそれで償ってもらおう」


 「マスターがそう仰るのなら」


 イリスのフォトンワードと口からの言葉二種類によって扇奈は矛を納める。だが次期頭領の弟に対してこれ以上の失敗は許さないという意思をこめた視線を投げつける。



 愚弟より周囲のシャドウたちが硬直したのは気のせいだろう。


 


 


 


 もっとも原典のグールは屍食鬼だそうです。不死者というより生者と遺体の両方を貪り喰う悪鬼という感じですね。他の人食い鬼と比べ容姿に優れ、墓場に出現する頻度が高い。

 そのためファンタジー世界ではアンデットモンスターになったのでしょうか。

 

 問題なのはグールがヒトであった場合。墓荒らしや追い剥ぎへの恐怖がグールというモンスターになった。

 私はこの話をかなり穏便な表現にしたと思っています。


 何故なら墓荒らしのたぐいが怪物になるのなら、もっと世界中に類似のモンスターがいてもいいのではないでしょうか?

 

 「グールにかじられた遺体、墓場は穢された」


 そんな醜聞から始まって

 「神官に徳がないからグールが現れた」「故人が生前に隠れて悪事を働いた」などという連鎖につながりかねないと思うのです。死人に鞭打つどころではありません。


 死体も喰う怪物・生者と死者をおびやかす悪霊はいくらでもいるでしょう。

 しかし"墓場で目に見える遺体損壊"をやらかす原典の怪物はグールぐらいだと愚考します。


 グールの原型。それは金品狙いの墓荒らしや進化ゾンビとは一線を画す。政争や怨恨が絡んだ悪意のある怪物ではないでしょうか。


 

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